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3章 今日も学園はゴタゴタしていますが、何故か苗字が変わってしまってコッソリ鑑賞出来にくくなる様です。

閑話 ジーニアス・アルセーヌ・ガルニエの溜息 後

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 執事がまだ我が屋敷には居らず、臨時にディラン兄さんとゲドが対応して居る様だが、それにしてもこれは…。



 執務室に山と積まれた品。



「まさかこんなに早く持って来るとはね」



「これ全部…?」



「そそ。ジーニアスの嫁希望者だね」



 そう、見合い用の絵姿が入った書類。それが山となって詰まれていた。



「モテるな~ジーニアスは」



「とは言えな…」



 何十枚あるんだ?と眺めて居ると、執務室の机ではなくテーブルにも積まれている山。

 其方に目をやると、



「あ、そっちは処分で」



「ディラン兄さん?」



「デュシーとレナとオルブロン宛の。取り敢えずそこの山はデュシーとオルブロン宛てのロリコン親父達からの妾に為らないかって言うヤツだから。全部名前控えたから怒りを込めて燃やす」



 …ディラン、目が怖いぞ。



「そう言うジーニアスもだよ。特にオルブロン宛のはコッチに来るのは変なんだけどな。オルブロンはまだアレイ家だし」



 大方居場所を掴んで此方に問うて来たのだろうが、それにしてもだな。



「新参者だから完全に舐めて来てるんだろうね。それとも爵位に掛けて言えばいう事を聞くと思ったのかもね」



 チラリと目を通すとほぼ男爵や子爵、そして王都周辺で金を稼いで居るが腹黒で悪徳と有名な商人の名がチラホラと。



「ね、舐めてるだろ。爵位無しの分際でって言い方は好きじゃないけど、そう言いたくなるよ。こんなモン寄越して来てるんだしね」



 大方貧乏田舎出身の騎士団からの成り上がり者だからと掛かって来てるのだろう。

 悔しいが事実だしな。



「一応こっちの束をジーニアスは目を通して。恐らくこいつらはアクションして来るだろうしね。名前を憶えて、上司かユウナレスカ様に相談と言うなの報告宜しく」



 ディラン兄さんが話した後、ささっとゲドが束を寄越してくれる。それらに目を全て通し、何て言うか…頭が痛くなる。



「恐らく『優しい私達が手助けしてやるのだから』って言うのもあるよね、でも正直いらない世話ばかりだよね。大体新規貴族のジーニアス・アルセーヌ・ガルニエは借金なんて無いんだからさ」



 実家のアレイ家が火の車だからと、実家(アレイ家)の援助をしてやるから遠巻きにだが此方のいう事を聞けって言う内容が幾つか入って居る。私達とすれば実家とは既に『母親さえいなければ』縁を切るつもりでいるのだから、意味など無いに等しい。それに母モーリーからは「私の事は既に居ないものとしなさい」と、何があっても無視する様にと実家を出る時に何度も念を押して約束させられている。それは妹のレナもオルブロンも、そして兄であるディランでさえ実家を出る時に告げられ、尚且つディランの場合は念書まで母は書き、私達兄弟姉妹の分(ディラン、私、シドニー、デュシー、レッティーナ、オルブロン)を持たせて居る。

 そんな訳で薄情だと言われるかも知れないが、私達兄弟姉妹全員は母のいう事を聞いて『居ない者』として扱う事にしている。



 …本来はそんな気持ちは無いのだが、母は自身が私達兄弟姉妹の弱みに為る事を毛嫌いしている様だ。



「そう言えば、モーリー母さんがシドニー姉さんにだけは家を出る時に何も言わなかったみたいだね」



「あの姉は母を速攻で切り捨てるからな」



「確かに」



 シドニー姉さんは何方かと言うと俺達兄弟姉妹の中で一番母譲りな性格をしている。いってみれば見た目は若干違うが、他がほぼそっくりなんだよな。ただモーリー母さんとは違って、気が強い所があるが。



「モーリー母さんが言いたい事は誰よりも知ってるだろうね」



「だろうな」



 母は今回の事とこの先の事、それらを全て踏まえて『アレイ当主』として動きが無いのだろう。



「しっかし父さんは本当、馬鹿だよね。アレイ家を乗っ取った気でいるんだろうなぁ」



 兄であるディランの手にあるのは貴族の家系図。

 アレイ家の家系図を手にしている。

 勿論ディラン兄さんが持って居るのは王都にある家系図の写しだが、其処にははっきりと当主の名には『モーリー』、つまり私達の母さんの名前が記載されている。

 元々余程の事が無い限りこの国の貴族の当主は血縁者しか記載されない。それなのに父さんは何時も「俺が当主」「俺がこの領の主だ」と言っていた。だからこそ母は大人しくして『事実を隠して』居たのかも知れない。



「ジーニアス」



「ん?」



「この先荒れるぞ、色々とな」



「覚悟の上さ」



 レナ達の事でも実家の事でも、それ以外の事でも。

 そして…



「取り敢えずこのレナ宛てのをどうにかした方がいいな」



 取り出したるは手紙三枚。

 …ん?三枚?



「まて、二枚では無いのか?」



「モテるなぁ~我が妹は」



「オイ」



「ニキ様やケイン様はもとより、まさか王家からの申し込みとはね」



「はぁ!?まさかユウナレスカ様がか!」



 まさか側室!?慌ててディラン兄さんを見ると、「落ち着けって」と言った感じに両手を上げて制される。



「違う違う、まぁ見て見ろよ。コレはちょっと特殊なんだよな」



 手に取って見る。

 確かに王家の封がしており、裏には厳重な…うん?何だこれは?



「何だこれ?魔法の封印がされている」



「ああ、だから中を見て無いんだよね。ガルニエ当主のジーニアスにしか開封が出来ない。もしくはレナ当人かもな」



 ディラン兄さんが「俺だと開ける事が出来なくて、確認出来てないんだ」と言う姿を見て何て面倒な、と心の中で悪態を付く。封を解き、中の手紙を読み解くと…



「面妖な…」



「なんて書いてあるんだ?」



「王太子ガーフィールド様からの正式なレナ宛の『友人申込書』だ」



「はぁ!?」



「だから『友人申込書』」



「なんだそれ?」



 そう言われても私もそんな手紙等聞いた事が無いぞ。アレか、ガーフィールド様はお友達が居ない寂しがり屋か?王家だから友人は少ないかも知れないが…。

 幾ら何でも子供っぽく無いか?



「王都に来てから日数も少ないし、何より情報が少ないから何とも言えないが、もしかして王家城内で何か、政治的絡みとか内紛とか複雑な事情でもあるのか?」



「いや、私が知って居る限りは無いが」



「だとしたらガーフィールド様関係で何やらキナ臭いとか?」



「…それだ」



「心当たりありか」



 数か月前からガーフィールド様を側妃が狙っていると言う噂が、王国騎士団にまで流れて来ている。その証拠に、気紛れにガーフィールド様が騎士団に顔を出すと、まるで後を追う様に件の側妃がやって来て、



「稽古後にタオルを渡すのは私です」



 とか言い出し、勝手に騎士団の稽古場に上がり込んできて何やかんやと一騒動を起こす。

 一応側妃だからと騎士団でも丁重な扱いをするのだが、あの側妃は何かと言うと彼方此方に無駄に色目を使うものだから薄気味が悪い。

 団員に聞くと私に対して特に酷いらしいが、それなら他の団員が行って来いと言うと「ジーニアスが適任だ」とか、「御指名だ」とか言って他の団員は私に押し付ける。

 全く。今後は騎士団所属で無くなるので良いが、対応させるのは止めて欲しいモノだ。



「ああ、王の側妃がガーフィールド様に粉を掛けて居ると言う噂が流れててな。元々「不渡り」と言われていたのだが、そのせいか拍車が掛かって肩身の狭い思いをしているらしい」



「不渡りって…なんだそりゃ。王は手を出して居ないと言うのか?側妃だろ?」



 普通側妃へと王宮に上がったのならまぁ、なんだ。そう言った関係になるのは当たり前なのだが、何故かあのアレキサンダー王は…



「それがなぁ、あの王は側妃を毛嫌いしている」



 理由までは知らないが、私が騎士団に在籍している時から傍に居られるのも嫌っているらしく、側妃を公の場に出さないのが当たり前。元々国によっては王妃は兎も角側妃は出さない所もあるが、それにしても…。

 だからなのか、反発?したらしい側妃が常に強引に会見の場等に強引に割って入って来る。だが席は当然用意されて無く。為らば用意をしようと使用人達が席を用意しようとすると、王から「用意をするな」と『禁止』される始末。

 お陰で度々側妃が癇癪を起して喚いて居るのが聞こえて来る事が多いから、近頃は政治の場に入って来る事を国王自ら「厳重に禁止」されていたんだよな。門前払いされているのを何度も見た事があるし、私自身も王の命令で追っ払った事もある位だ。



 私の爵位授与の時は国王の席側では無かったが、下位の貴族席側に居て酷く驚いたモノだ。

 だがあの側妃って爵位そんな下だったのか?

 王の側妃なら最低でも伯爵の爵位持ちだよな。もしそうで無ければ養子にして爵位をあげ、高位貴族の後継人をつけてやると言うやり方が普通なのだから。

 もしそうで無ければ爵位が低すぎて側妃に等なれないし、男爵か子爵ならば妾だろう。



「もしかして側妃はウチの親父やカイデンみたいに、国王に女だからって酷い扱いをしてる?」



「それは無いな。アレキサンダー王は誰にでも公平だしな」



 そう、だから奇妙だと何時も思って居た。

 だが一介のただの騎士でしかない私が深く聞く訳には行かず、まして聞ける訳も無く。だからこそ傍観して来たのだし。今後も出来ればそうしていく所存だ。



 …正直面倒だからな。

 あの側妃を見て居れば関わり合いに為りたいとは思わないし、関わると碌な事が無いだろう。



「何か理由があるのかなぁ」



「かもな」



「のっぴきならない事情とか。それこそ、王家の存在を脅かすようなとか、国家転覆とか。もしくは実は王家の血筋が入って居るとか」



「妙な事を言うなよ兄さん」



 本当にそんな事がありそうで怖いじゃないか。

 それでなくてもあの側妃は色々待遇がおかしいのだから。

 普通『不渡り』等あり得るのか?それに最近の第一王子への執着。年齢を考えても異常だろう。他にも細かい噂を上げればキリが無い。



「だからこそ、この『友人申込書』なのかも知れないなぁ」



 王家からの手紙にも関わらず、ピラピラと振りながらガーフィールド様からの手紙を手に持ち、ディラン兄さんは「うーん」と唸る。



「なぁジーニアス」



「うん?」



「先日のモニカ・モイスト様紹介しろ」



「はぁ!?お前あの人好みなのか」



 驚いた!

 あの年…あ、いや。

 でも見た目は良いからな。中身はとてもおっかないが。



「違うから。見た事無いから好みかどうか知らんから。と言うか俺は凄腕の情報屋としか知らんぞ」



「あ、そうか」



 つい先日王都に来たばかりだからそれもそうだな。

 驚かすなよ。



「…お前がそう言う反応って、もしかしてかなり腕が立つ?」



「正直遠距離では敵わん。あの人の魔法の腕は恐ろしいからな」



「ほ~…それはそれは…余計見て見たいものだな」



 後悔するぞ。

 等とは口が裂けても言えない。

 私は接近でも色々恐ろしくて仕方ないからな。





 しっかし…



「ガーフィールド様がレナにもし本気になれば、実家は益々危機だな」



「何故?」



「ガーフィールド様の二つ名は『粛清の王太子』だからな。過去婚約を持ちかけて来た貴族達の不正を暴き、何十人も挙って捕まっていたり収容されたりしてる」



 中には死刑もあるがな。

 まぁ口に出しては言わないが。



「ある意味鬼に金棒だけど、ジーニアスはレナに婚約とかはイヤなんだろ?」



「13だぞ?レナはまだ子供だ。まだ早い」



「あはは、相変わらずだねぇジーニアスは。ほんっと禿げるぞ」



「ほっとけ」



「でも王家の申し込みは無下には出来ないよ?どうするんだ」



「…レナ自身に選ばせる」



 流石に私の一存で無下には出来ない。

 だがレナが本気で嫌がるなら爵位など速攻で捨てて抗うぞ?



「うーんだとしたらレナは断らないと思うけど?何せこっちは下位の爵位である男爵家だしね」



「それでも選ぶのはレナだ」



 ふむふむ。とか言って顎に左手を乗せて悩むふりをするディラン。分かっている癖にこう言った態度を取るんだよな。

 と言うかガーフィールド様、男爵家の爵位しかない者は妾ぐらいにしか為れないの知ってるだろう?まさか本気で妾にでも召し抱える気か?

 それとも、国王から話でも聞いて居て、いずれ爵位を上げる気だからとか?それって一体何時になるかわからないのだぞ?



 …本気で暴れようかな。



 まさか救済処置として、何処かの高位貴族に一度養子にでも出してから本妻っていうならまぁ…ああでも国王の側妃がなぁ。

 それにあの側妃って後ろ盾と言うのがあるのか?後ろ盾の貴族がどうこうってのは聞いた事が無いぞ?そんなのってあるのか?だからこその冷遇状態なのか?分からない事だらけだ。



「ま、いざとなったらユウナレスカ様にご相談って事かな」



 側妃の事も聞かないと為らないだろうなぁ。

 対策も要相談って事になるな。



「分かってるなら言うな」



「ははは、ま~な。だが今後の方針を聞かないといざって時に身動きが取れないのは困るからな。それにディランお兄ちゃんはジーニアスに構って欲しいからな~」



 ウンザリとした顔付で見ると、苦笑いの様な顔付で見られてしまう。

 私は確かにディラン兄さんより年下なのは理解してるが成人してるんだぞって言いたい。だがこの兄だしなぁ…



「ジーニアスは一人で動こうと昔からするからな。でも今は昔とは違う。頼れよ、頼りない兄だけどな」



「ああ。相談くらいはする」



 頼りにしてるさ。

 何せ実家の男面子の中では一番頼りがいがあるのだからな。

 言葉に出しては言わないけど。悔しいしな。



「他もな。ま、泥舟に乗ったつもりで任せろ」



「それって駄目じゃないか」



 お互い顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。



「「あははははは」」







 その後レナに手紙を見せる事にし、後は当人に任せる事にした。

 無論「どうするか自分で決めなさい。だが、嫌なら王太子だろうと堂々と断れ」と言ったら笑われた。



「そうね、うーん少し悩む事にする」



 といって部屋を辞して行ったが、恐らくあの顔は断らないだろう。





 そんな気がする。
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