15 / 17
14 魔王様勇者を助ける
しおりを挟む
「はぁ·······またか」
ローズとの甘い日々を送る魔王にも嫌な時間というものは存在する。本当なら一日中ローズと一緒にいたいのを我慢して仕事をしていると、久しく無かった感覚を味わうことになった。それはこの世界に入り込んだ異物の存在。平たく言えば異世界人がこの世界に入ったのを魔王は感知したのだ。
とはいえ、それ自体は珍しいことではない。漂流して流れ着いたりする異邦人というのは稀にいる。だが、魔王がため息をつきたくなるのはそれが人為的なものだと分かったからだ。
まあ、要するに勇者召喚と言えば分かるだろうか?恐らく魔王のことを疎ましく思うどこかの国が異世界から勇者として一般人を魔法で召喚したのだろう。異世界から勇者を呼ぶと世界を渡る時に身体能力が書き換えられて結果として普通の人の何十倍もの力を手に入れられるのだ。
そしてこの魔法の最も厄介なところは一方通行の片道券ということ。元の世界に戻るには同じ魔法をもう一度使うしかないが、大抵は行きだけで何十人もの生贄が必要な魔法なので、帰るにも大変だということ。そして無理矢理召喚した異世界人というのは本当に世界にとっての異物なので馴染むことがなく大抵世界に殺されるというのがお約束なのだ。
「仕方ない········お仕置きついでに挨拶に行くとするか」
「はぁ·········どうしてこんなことに········」
勇者として召喚された日本の少年········須藤猛は膝を抱えていた。なんて事ない普通の高校生の彼は下校中に突然謎の光に巻き込まれて気がつくと異世界にいたのだ。そして自分が勇者で、魔王を倒すまで帰れないということを告げられた時には絶望したものだ。
「どうせなら、きらら系統の時空に行きたかったよ·······」
異世界召喚というのもに誰もが憧れるわけではない。猛は家庭環境も普通で、高校も新しい友達が出来て楽しんでいた最中だったので特にそう思う。そう、猛からしたらこれはただの拉致でしかないのだ。
「しかも魔王を倒すのをお願いされるならまだしも、役目だとか強制されてもねぇ·······はぁ、帰りたい········」
『帰してやろうか?』
「え?」
独り言への反応に驚いて近くを見回すと一羽の鴉がそこにはいた。その鴉はやがて黒いモヤを出すと大柄な強面の男の姿に変化したのだった。あまりにも面構えが怖くて怯む猛に男ーーー魔王は少しだけ苦笑して言った。
「すまないな、こういう顔なんだ。それより君は日本人だね?」
「え······なんでそれを·······もしかして貴方も?」
「ああ、随分と昔だけどね。今は魔王と呼ばれている」
「ま、魔王········!」
色々と驚く猛に魔王はため息混じりに言った。
「何を吹き込まれたかは大体分かるけど、君に危害は加えないよ。むしろ元日本人として助けに来たんだよ。このままじゃ君は例え俺を倒せても元の世界には戻れないから」
「それってどういう·······」
魔王は簡単に異世界召喚とこの世界のことを説明する。するとすぐに理解した猛は顔を青くして言った。
「つ、つまり、拉致された上にこのままだと僕は死ぬってことですか?」
「そうなるね」
「そんな······」
「だから、君が信じてくれるなら私が元の世界に君を戻そうと思うんだけど······どうする?」
ローズとの甘い日々を送る魔王にも嫌な時間というものは存在する。本当なら一日中ローズと一緒にいたいのを我慢して仕事をしていると、久しく無かった感覚を味わうことになった。それはこの世界に入り込んだ異物の存在。平たく言えば異世界人がこの世界に入ったのを魔王は感知したのだ。
とはいえ、それ自体は珍しいことではない。漂流して流れ着いたりする異邦人というのは稀にいる。だが、魔王がため息をつきたくなるのはそれが人為的なものだと分かったからだ。
まあ、要するに勇者召喚と言えば分かるだろうか?恐らく魔王のことを疎ましく思うどこかの国が異世界から勇者として一般人を魔法で召喚したのだろう。異世界から勇者を呼ぶと世界を渡る時に身体能力が書き換えられて結果として普通の人の何十倍もの力を手に入れられるのだ。
そしてこの魔法の最も厄介なところは一方通行の片道券ということ。元の世界に戻るには同じ魔法をもう一度使うしかないが、大抵は行きだけで何十人もの生贄が必要な魔法なので、帰るにも大変だということ。そして無理矢理召喚した異世界人というのは本当に世界にとっての異物なので馴染むことがなく大抵世界に殺されるというのがお約束なのだ。
「仕方ない········お仕置きついでに挨拶に行くとするか」
「はぁ·········どうしてこんなことに········」
勇者として召喚された日本の少年········須藤猛は膝を抱えていた。なんて事ない普通の高校生の彼は下校中に突然謎の光に巻き込まれて気がつくと異世界にいたのだ。そして自分が勇者で、魔王を倒すまで帰れないということを告げられた時には絶望したものだ。
「どうせなら、きらら系統の時空に行きたかったよ·······」
異世界召喚というのもに誰もが憧れるわけではない。猛は家庭環境も普通で、高校も新しい友達が出来て楽しんでいた最中だったので特にそう思う。そう、猛からしたらこれはただの拉致でしかないのだ。
「しかも魔王を倒すのをお願いされるならまだしも、役目だとか強制されてもねぇ·······はぁ、帰りたい········」
『帰してやろうか?』
「え?」
独り言への反応に驚いて近くを見回すと一羽の鴉がそこにはいた。その鴉はやがて黒いモヤを出すと大柄な強面の男の姿に変化したのだった。あまりにも面構えが怖くて怯む猛に男ーーー魔王は少しだけ苦笑して言った。
「すまないな、こういう顔なんだ。それより君は日本人だね?」
「え······なんでそれを·······もしかして貴方も?」
「ああ、随分と昔だけどね。今は魔王と呼ばれている」
「ま、魔王········!」
色々と驚く猛に魔王はため息混じりに言った。
「何を吹き込まれたかは大体分かるけど、君に危害は加えないよ。むしろ元日本人として助けに来たんだよ。このままじゃ君は例え俺を倒せても元の世界には戻れないから」
「それってどういう·······」
魔王は簡単に異世界召喚とこの世界のことを説明する。するとすぐに理解した猛は顔を青くして言った。
「つ、つまり、拉致された上にこのままだと僕は死ぬってことですか?」
「そうなるね」
「そんな······」
「だから、君が信じてくれるなら私が元の世界に君を戻そうと思うんだけど······どうする?」
0
あなたにおすすめの小説
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる