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二話 六月十日 火曜日
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「たっだいまー」
と実夜が言うと、
「おっかえりー」
という声が家に響く。母の声だ。
実夜は帰宅して早々、母が夕飯の支度をしている台所に行く。そして冷蔵庫から500mlペットボトルのコカ・コーラを取り出し、蓋を開けた。小気味よい炭酸の音を聴き、それから冷たく甘い液体を一気に喉に流し込む。
実夜は下品にもゲップを一発かましてから、
「バス停から家までのが遠くて嫌になっちゃうよ。全くこれだから田舎は困るよねー」
と言った。
「ママが子供のとき住んでた所は、もっと田舎だったんだよ? 周りを見回しても田んぼか山しかなかったんだから」
と米を研ぎながら語る母。
母の地元は宮城で、結婚を機に父の地元のこの地に移ってきたのだ。
「どうせ田舎ならそれくらい田舎の方がいいよ。ここらは田舎だけど、何も無いだけで『自然がすごい!』って言える程じゃないし」
「うーん、まあそうね。でも平和だし、いい所なんじゃない?」
「確かに平和ではあるよねー。平和すぎて退屈しちゃうくらい」
実夜はまたコーラを一気飲みする。もう残りは三分の一くらいしかなくなってしまった。
「今日も美香ちゃんと一緒に帰ってきたの?」
「うん、そうだよー。あ、そういえば今日さ……いや、なんでもない」
一瞬迷ったが、あの手紙のことは内緒にしておくことにした。母は心配性で、実夜の身に降りかかる不安要素に、過剰に反応してしまう節があるのだ。それのせいで実夜が恥をかいたことは一回や二回ではない。
「美香ちゃんは本当にいい子だよね。実夜は抜けてるところがあるから、美香ちゃんがいてくれて安心だわ」
「私もそう思う」
今日だって、美香ちゃんが起こしてくれなかったらどうなっていたかわからない。
「いい友だちを持ったね、実夜」
そこで母は米とぎを終え、炊飯器にお米をセットする。
「よし、完了っと。あーあ、今日はママ家中掃除したから疲れちゃったよ。少し寝ようかな」
「おつかれーお母さん」
「今日の夜はパパの飲み会のお迎えに行かなくちゃいけないから、ご飯作っておくから一人で食べてね」
「うん、わかったー」
実夜は残りのコーラを飲み干し、二階の自分の部屋へ上がって行った。
* * *
自分の部屋に入ってすぐのこと、美香からスマホに電話がかかってきた。
「もしもしーどうしたの?」
『あのな、実夜……お、おお落ち着いて聞いてくれ』
電話越しの美香の声は震えていて、少し上擦っている。
「美香ちゃんこそ落ちついてってば、はい、しんこきゅー!」
『すー……はー……すー……はー……』
素直に深呼吸する美香。本当に切羽詰まっているのだろう。
「どう、落ち着いた?」
『うん、少しは……』
美香は呼吸を整えながら、話し始めた。
『あのな、実夜。どうやらあの手紙、イタズラじゃなかったらしい』
「へ?」
『銃があったんだ、家に。あたしの家にあった』
「い、いや、ちょっと待っていみわかんない。じゅう? じゅうって、数字の『10』じゃなくて、次元大介の方の『銃』?」
『落ち着け、実夜』
吸う。吐く。吸う。吐く。
「いやだめだ全然落ち着かないや」
『とりあえずあたしの家に来てくれないか』
「わかった、今すぐいく」
電車に揺られて十五分、そこからダッシュで六分、実夜は美香の自宅に到着した。二人は約三十分ぶりの再会を果たしたのだった。
「これが……銃」
状況の理解は追いついていないが、美香の家に向かいながら心を落ち着かせていたつもりだった。しかし実物を見るとなかなかそうもいないものだと実夜は思い知る。
開かれたジュラルミンケースの中に格納された二つの金属製の物体。人を傷つけるために生み出されたそれらが放つ冷酷なオーラは、見ているだけで怖気づかされる。
「実夜の家には届いてなかったのか?」
「うん……届いてないんじゃないかな。お母さん、『家じゅう掃除した』って言ってたのに、変なものがあったってのは聞かないし。でも家に帰ったら探してみるよ」
「うん、そうしてくれ」
美香の家に沈黙が訪れる。どうやら、この家に実夜と美香以外に人は居ないようだ。
「私たち……どうなっちゃうのかな」
「あの手紙が言うには、私たちはこれから他のモニターたちと戦わなきゃいけないんだよな」
「負けたら、死ぬの?」
「……どうだろうな」
『勝利条件は最後の一人になるまで生き残ること』
実夜はあの手紙の中の一文を思い出す。これが意味するのは、これから普通に『生き残りを懸けた戦いが始まる』ということで、もっと簡潔に言うなら、『殺し合いが始まる』ということだろう。
傷つけるために生まれた武器。
殺すために生まれた武器。
それが銃。
実夜は再び銃を見つめると、あることに気づいた。
「これさ、『弾』がなくない?」
目を逸らしていた美香も驚いて銃を覗く。
「たしかに、言われてみれば、そうだな」
「これってさ、これはレプリカってことなんじゃない?」
「だとしたらすげー精巧に造られたレプリカってことになるけど……でもそうだよな。弾がなくちゃ、撃てるはずがない」
心に余裕の生まれた美香は、意を決して、二つあるうちの銃の一つを手に取った。
「……軽い。プラスチック製なんじゃないかって位の軽さだ」
見た目は、完全に光沢がきらめく金属製だが、しかし実際に手に取ったそれは、重厚な見た目のとのギャップで持つ手の感覚がおかしくなってしまいそうな程に軽い。
コレが銃だなんて、おふざけにも程がある。
「ハハッ、ハハハ。あたしらこんなのにビビってたなんて、馬鹿みたいだなあ」
「なんだぁ……よかった」
実夜も胸を撫で下ろす。
これは銃のレプリカで、あの手紙はイタズラ。気負うことは何も無い。
「明日羽橋の野郎に会ったら、ぶん殴ってやろう」
なんて、美香はふざけ半分に壁に掛けられたカレンダーをめがけ、右手に持った、ふざけた銃の引き金を引いた。
何かが弾けるような、大きな音が響いた。
まさか、と実夜は美香が向けた銃口の先のカレンダーを見る。
「嘘でしょ……」
六月のカレンダーに記された第二金曜日、十三日があったその場所に、ぽっかりと穴が空いていたのだ。
その穴から、隣の部屋の風景が覗く。
まるで銃弾で撃ち抜かれたかのように、美香の家の壁に風穴が開けられていたのだ。
「ど、どうしてだ!? 銃弾なんて、なかったのに!」
自分が銃を撃った。その衝撃的な事実におののき、美香は後ずさりした。すると、美香の尻が机に乗っていたジュラルミンケースに当たり、それは落下した。
中に入っていたもう一つの銃が軽い音を立てて飛び出す。実夜はそれが暴発しなかったことに一瞬安堵しつつ、机の上のジュラルミンケースが置かれていた場所に、一つの冊子があったことに気づく。
その冊子はジュラルミンケースに覆い隠される形だったため、今までその存在が明るみにならなかったらしい。
表紙には、大きく『説明書』の文字。
「……せつめいしょ?」
実夜は説明書を手に取り、読み始めた。
「あたしにも、見せてくれ」
《説明書:ハリケーン
・使用方法
1.両手に一つずつハリケーンを持ちます
2.撃ちたい対象に銃口を向けます
3.人差し指で引き金を引きます
・製品説明
この製品は、GZCプロジェクトの開発した新型銃4種の内の一つです。二丁拳銃です。名前をハリケーンと言います。
最大の特徴は、連射性能です。
ハリケーンは、銃弾を必要としません。なぜなら、ハリケーンが弾として使用するのは、『圧縮された空気』だからです。超高速、超高圧で空気を圧縮し、固体に匹敵する硬度を作り出し射出することで、十分な破壊力を得ます……》
この後にも色々書いてあったが、重要な情報でなかったため省略する。
「つまりまとめると……これは銃弾が必要ねー空気砲ってことと、この話はガチってことだな」
「私、信じられないよ……。第一、空気が弾になるなんて、そんなこと、ありえるの……? 私、難しくてよくわからないんだけどさ、弾丸を空気にしたからって、何か特別いい事ってあるの?」
「まあ、弾切れの心配が無いってことだろうな」
「ああ、そっか……」
「ハリケーンの特徴は連射性能……多分二丁拳銃型なのもそのせいだろうな。マシンガンみたいに連射しても、弾切れで連射が途切れることが無い。それがコンセプトなんじゃねーかな」
実際の戦場では、弾切れを嫌い銃を連射することはめったにないらしい。であれば、弾切れを恐れることがなく、これほど軽量な銃はどれほど凶悪な武器に成り得るのだろうか。
「どうすればいいんだろう。私たち」
と、実夜は俯きながら言った。
「とりあえず、他二人のモニターに会おうか。話し合いをして平和的解決したい」
「たしかあの手紙によれば……他二人のモニターは、吉祥 凛ちゃんと、黒野 クレアちゃんだっけ?」
「ああ、二人とも同級生だな。何度か名前を聞いたことがある」
露木 実夜。
雨音 美香。
吉祥 凛。
黒野 クレア。
同級生四人の、バトルロワイヤル。
「美香ちゃんは、二人と話したことってある?」
「いや、ない」
「そっか……私もない。悪い人じゃないといいんだけどね」
「大丈夫だ。どんな奴でも、あたしが実夜を守るから」
「ありがと。すっごい頼もしいよ」
実夜はそう言ってはにかみ、美香に抱きついた。
「お、おいやめろよ。危ねーって。今あたし、右手に銃持ってるんだぞ?」
そうは言いつつも、嬉しそうな顔で背中に手を添える美香。
「えっへへー。なんか美香ちゃんって、お母さんみたいだよね」
実夜は美香に全てを委ねられるような安心感を感じる。意味の分からない戦いに身を置かれ、それでも正気を保って居られるのは百パーセント美香のおかげである。美香がいなかったら、不安と恐怖でどうなっていたかわからない。
しかし、「『お母さん』はなんか嫌だな」と美香は不機嫌な顔をする。
「じゃ、お姉さんは?」
「それならいいぜ」
こんな感じで、二人は銃のことも忘れ語り合い、実夜が帰らなくちゃとあわてる頃には、時計の針は、十時三十分を指していた。
* * *
実夜はその日二度目の帰宅をした。
否、『帰宅』という言葉が『自分の家に帰る』という定義ならば、それは叶わなかったというのが正しいだろう。
帰る家が、無くなっていたのだ。
そこに家があってしかるべきの場所には、何かが崩れた残骸が散乱しているだけだった。
家が、破壊された。
怖い。
意味がわからない。
実夜はその場にへたり込む。
「どうして……どうしてこうなったの?」
こうしてバトルロワイヤルは、こうして派手に始まった。
と実夜が言うと、
「おっかえりー」
という声が家に響く。母の声だ。
実夜は帰宅して早々、母が夕飯の支度をしている台所に行く。そして冷蔵庫から500mlペットボトルのコカ・コーラを取り出し、蓋を開けた。小気味よい炭酸の音を聴き、それから冷たく甘い液体を一気に喉に流し込む。
実夜は下品にもゲップを一発かましてから、
「バス停から家までのが遠くて嫌になっちゃうよ。全くこれだから田舎は困るよねー」
と言った。
「ママが子供のとき住んでた所は、もっと田舎だったんだよ? 周りを見回しても田んぼか山しかなかったんだから」
と米を研ぎながら語る母。
母の地元は宮城で、結婚を機に父の地元のこの地に移ってきたのだ。
「どうせ田舎ならそれくらい田舎の方がいいよ。ここらは田舎だけど、何も無いだけで『自然がすごい!』って言える程じゃないし」
「うーん、まあそうね。でも平和だし、いい所なんじゃない?」
「確かに平和ではあるよねー。平和すぎて退屈しちゃうくらい」
実夜はまたコーラを一気飲みする。もう残りは三分の一くらいしかなくなってしまった。
「今日も美香ちゃんと一緒に帰ってきたの?」
「うん、そうだよー。あ、そういえば今日さ……いや、なんでもない」
一瞬迷ったが、あの手紙のことは内緒にしておくことにした。母は心配性で、実夜の身に降りかかる不安要素に、過剰に反応してしまう節があるのだ。それのせいで実夜が恥をかいたことは一回や二回ではない。
「美香ちゃんは本当にいい子だよね。実夜は抜けてるところがあるから、美香ちゃんがいてくれて安心だわ」
「私もそう思う」
今日だって、美香ちゃんが起こしてくれなかったらどうなっていたかわからない。
「いい友だちを持ったね、実夜」
そこで母は米とぎを終え、炊飯器にお米をセットする。
「よし、完了っと。あーあ、今日はママ家中掃除したから疲れちゃったよ。少し寝ようかな」
「おつかれーお母さん」
「今日の夜はパパの飲み会のお迎えに行かなくちゃいけないから、ご飯作っておくから一人で食べてね」
「うん、わかったー」
実夜は残りのコーラを飲み干し、二階の自分の部屋へ上がって行った。
* * *
自分の部屋に入ってすぐのこと、美香からスマホに電話がかかってきた。
「もしもしーどうしたの?」
『あのな、実夜……お、おお落ち着いて聞いてくれ』
電話越しの美香の声は震えていて、少し上擦っている。
「美香ちゃんこそ落ちついてってば、はい、しんこきゅー!」
『すー……はー……すー……はー……』
素直に深呼吸する美香。本当に切羽詰まっているのだろう。
「どう、落ち着いた?」
『うん、少しは……』
美香は呼吸を整えながら、話し始めた。
『あのな、実夜。どうやらあの手紙、イタズラじゃなかったらしい』
「へ?」
『銃があったんだ、家に。あたしの家にあった』
「い、いや、ちょっと待っていみわかんない。じゅう? じゅうって、数字の『10』じゃなくて、次元大介の方の『銃』?」
『落ち着け、実夜』
吸う。吐く。吸う。吐く。
「いやだめだ全然落ち着かないや」
『とりあえずあたしの家に来てくれないか』
「わかった、今すぐいく」
電車に揺られて十五分、そこからダッシュで六分、実夜は美香の自宅に到着した。二人は約三十分ぶりの再会を果たしたのだった。
「これが……銃」
状況の理解は追いついていないが、美香の家に向かいながら心を落ち着かせていたつもりだった。しかし実物を見るとなかなかそうもいないものだと実夜は思い知る。
開かれたジュラルミンケースの中に格納された二つの金属製の物体。人を傷つけるために生み出されたそれらが放つ冷酷なオーラは、見ているだけで怖気づかされる。
「実夜の家には届いてなかったのか?」
「うん……届いてないんじゃないかな。お母さん、『家じゅう掃除した』って言ってたのに、変なものがあったってのは聞かないし。でも家に帰ったら探してみるよ」
「うん、そうしてくれ」
美香の家に沈黙が訪れる。どうやら、この家に実夜と美香以外に人は居ないようだ。
「私たち……どうなっちゃうのかな」
「あの手紙が言うには、私たちはこれから他のモニターたちと戦わなきゃいけないんだよな」
「負けたら、死ぬの?」
「……どうだろうな」
『勝利条件は最後の一人になるまで生き残ること』
実夜はあの手紙の中の一文を思い出す。これが意味するのは、これから普通に『生き残りを懸けた戦いが始まる』ということで、もっと簡潔に言うなら、『殺し合いが始まる』ということだろう。
傷つけるために生まれた武器。
殺すために生まれた武器。
それが銃。
実夜は再び銃を見つめると、あることに気づいた。
「これさ、『弾』がなくない?」
目を逸らしていた美香も驚いて銃を覗く。
「たしかに、言われてみれば、そうだな」
「これってさ、これはレプリカってことなんじゃない?」
「だとしたらすげー精巧に造られたレプリカってことになるけど……でもそうだよな。弾がなくちゃ、撃てるはずがない」
心に余裕の生まれた美香は、意を決して、二つあるうちの銃の一つを手に取った。
「……軽い。プラスチック製なんじゃないかって位の軽さだ」
見た目は、完全に光沢がきらめく金属製だが、しかし実際に手に取ったそれは、重厚な見た目のとのギャップで持つ手の感覚がおかしくなってしまいそうな程に軽い。
コレが銃だなんて、おふざけにも程がある。
「ハハッ、ハハハ。あたしらこんなのにビビってたなんて、馬鹿みたいだなあ」
「なんだぁ……よかった」
実夜も胸を撫で下ろす。
これは銃のレプリカで、あの手紙はイタズラ。気負うことは何も無い。
「明日羽橋の野郎に会ったら、ぶん殴ってやろう」
なんて、美香はふざけ半分に壁に掛けられたカレンダーをめがけ、右手に持った、ふざけた銃の引き金を引いた。
何かが弾けるような、大きな音が響いた。
まさか、と実夜は美香が向けた銃口の先のカレンダーを見る。
「嘘でしょ……」
六月のカレンダーに記された第二金曜日、十三日があったその場所に、ぽっかりと穴が空いていたのだ。
その穴から、隣の部屋の風景が覗く。
まるで銃弾で撃ち抜かれたかのように、美香の家の壁に風穴が開けられていたのだ。
「ど、どうしてだ!? 銃弾なんて、なかったのに!」
自分が銃を撃った。その衝撃的な事実におののき、美香は後ずさりした。すると、美香の尻が机に乗っていたジュラルミンケースに当たり、それは落下した。
中に入っていたもう一つの銃が軽い音を立てて飛び出す。実夜はそれが暴発しなかったことに一瞬安堵しつつ、机の上のジュラルミンケースが置かれていた場所に、一つの冊子があったことに気づく。
その冊子はジュラルミンケースに覆い隠される形だったため、今までその存在が明るみにならなかったらしい。
表紙には、大きく『説明書』の文字。
「……せつめいしょ?」
実夜は説明書を手に取り、読み始めた。
「あたしにも、見せてくれ」
《説明書:ハリケーン
・使用方法
1.両手に一つずつハリケーンを持ちます
2.撃ちたい対象に銃口を向けます
3.人差し指で引き金を引きます
・製品説明
この製品は、GZCプロジェクトの開発した新型銃4種の内の一つです。二丁拳銃です。名前をハリケーンと言います。
最大の特徴は、連射性能です。
ハリケーンは、銃弾を必要としません。なぜなら、ハリケーンが弾として使用するのは、『圧縮された空気』だからです。超高速、超高圧で空気を圧縮し、固体に匹敵する硬度を作り出し射出することで、十分な破壊力を得ます……》
この後にも色々書いてあったが、重要な情報でなかったため省略する。
「つまりまとめると……これは銃弾が必要ねー空気砲ってことと、この話はガチってことだな」
「私、信じられないよ……。第一、空気が弾になるなんて、そんなこと、ありえるの……? 私、難しくてよくわからないんだけどさ、弾丸を空気にしたからって、何か特別いい事ってあるの?」
「まあ、弾切れの心配が無いってことだろうな」
「ああ、そっか……」
「ハリケーンの特徴は連射性能……多分二丁拳銃型なのもそのせいだろうな。マシンガンみたいに連射しても、弾切れで連射が途切れることが無い。それがコンセプトなんじゃねーかな」
実際の戦場では、弾切れを嫌い銃を連射することはめったにないらしい。であれば、弾切れを恐れることがなく、これほど軽量な銃はどれほど凶悪な武器に成り得るのだろうか。
「どうすればいいんだろう。私たち」
と、実夜は俯きながら言った。
「とりあえず、他二人のモニターに会おうか。話し合いをして平和的解決したい」
「たしかあの手紙によれば……他二人のモニターは、吉祥 凛ちゃんと、黒野 クレアちゃんだっけ?」
「ああ、二人とも同級生だな。何度か名前を聞いたことがある」
露木 実夜。
雨音 美香。
吉祥 凛。
黒野 クレア。
同級生四人の、バトルロワイヤル。
「美香ちゃんは、二人と話したことってある?」
「いや、ない」
「そっか……私もない。悪い人じゃないといいんだけどね」
「大丈夫だ。どんな奴でも、あたしが実夜を守るから」
「ありがと。すっごい頼もしいよ」
実夜はそう言ってはにかみ、美香に抱きついた。
「お、おいやめろよ。危ねーって。今あたし、右手に銃持ってるんだぞ?」
そうは言いつつも、嬉しそうな顔で背中に手を添える美香。
「えっへへー。なんか美香ちゃんって、お母さんみたいだよね」
実夜は美香に全てを委ねられるような安心感を感じる。意味の分からない戦いに身を置かれ、それでも正気を保って居られるのは百パーセント美香のおかげである。美香がいなかったら、不安と恐怖でどうなっていたかわからない。
しかし、「『お母さん』はなんか嫌だな」と美香は不機嫌な顔をする。
「じゃ、お姉さんは?」
「それならいいぜ」
こんな感じで、二人は銃のことも忘れ語り合い、実夜が帰らなくちゃとあわてる頃には、時計の針は、十時三十分を指していた。
* * *
実夜はその日二度目の帰宅をした。
否、『帰宅』という言葉が『自分の家に帰る』という定義ならば、それは叶わなかったというのが正しいだろう。
帰る家が、無くなっていたのだ。
そこに家があってしかるべきの場所には、何かが崩れた残骸が散乱しているだけだった。
家が、破壊された。
怖い。
意味がわからない。
実夜はその場にへたり込む。
「どうして……どうしてこうなったの?」
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