シューターガールズ!バトルロワイアル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

やじるし

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四話 六月十一日 水曜日 

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 夜の街を歩く実夜と美香。二人の目的地はもちろん廃墟街。決戦の地である。
 実夜は当初、美香の家に残る予定だったが、残る一人のモニター、クレアの動向が掴めない以上、一人で留まるのは危険だという結論に至り、実夜も同行することとなった。

 時計が午後十時二十七分を回った所で、美香のスマホに一本の電話がかかった。差出人は、凛だった。

『こんばんは、美香さん。ごきげんはいかがでしょうか』
「ご機嫌普通だ」

 美香は機嫌悪そうに返す。

『うふふ。それはいいとして、あと三分で約束の時間ですが、ちゃんと向かっていますか?』
 
 午後十時三十分。
 凛の提示した決戦の時刻であり、GZCの与えた『銃の使用及び戦闘が許される時間』の開始時刻でもある。

「当たり前だ。そっちこそビビって隠れてるとかじゃ
ねーだろうな?」
『さあ、どうでしょうね?』

 と、ここで美香一行は、廃墟街の入口(薄汚い建物の間の、細い路地)に到着する。電話中の美香は実夜にアイコンタクトで合図を送り、ここで待機するように促す。実夜はこくんと頷く。

「廃墟街に着いたぞ、どこら辺に行けばいい?」
『そうですね……そこからひときわ高い鉄塔が見えますか? そのそばにある公園で、私は待っております』
「わかった」

 壊れかけの電灯が辺りを照らしているため、廃墟街は真っ暗闇というわけではなかったが、やはり昼間とは比べ物にならない不気味さだった。それに加え一人きりというのもあり、美香も恐怖を感じずにはいられない。
 何よりも、凛がどこから奇襲を仕掛けてくるかがわからない。それがますます美香の鼓動を早める。
 銃。
 それは遠距離から、一撃で命を奪うことすら出来る道具である。一瞬でも気を抜けば、死が待っている。

 しかし、凛が約束を破り奇襲をしてくることはなく、彼女の言った通りに、彼女は、鉄塔がそびえる公園のベンチに腰掛け、悠々と美香を待っていた。それほど広い公園ではなく、あえて言うなら街中の休憩所のようだった。
 凛のすぐ側には、なにやら見たことも無い物体。それは洗濯機くらいの大きさの車輪付きの箱で、全体は濃いえんじ色をしている。こちらから見て正面にあたる面には、直径一メートル弱くらいの真っ黒な円の模様があった。

「あれが……凛の銃だろうな」

 美香は確信を持ってそう思った。

 美香は凛から七十メートルくらい離れたところで立ち止まった。これは凛の銃の射程外だ。これでは声が届かないので、電話で話をする。

『二丁拳銃ですか、かっこいいですね』
「これを銃と呼べるかってのは……少々議論が必要そうではあるが、なんだ、そっちは洗濯機みたいじゃねーか」

 朝の仕返しだと言わんばかりに、美香は挑発する。

『これはドラム式洗濯機なんかじゃありませんよ。れっきとした銃、デストロイです』
「ネーミングセンス、全然ねーな」
『私がつけたんじゃありませんから。文句ならGZCに言ってくださいよ』

 ハリケーン、デストロイ。片仮名にすればカッコがつくと思ってるのだろうか。この調子だと残りの二つの銃も期待しない方が良いと思う美香だった。

「さて、始めるか。あたしはもう覚悟出来てる」

 美香は二つの銃口を凛に向けた。

『ええ、じゃあ始めますか』

 凛は立ち上がり、洗濯機もといデストロイの上部の面にある、タッチパネルを操作し始めた。

「っしゃああああ!」

 美香は緊張や恐怖を振り払うように一喝。そして全力疾走で凛との間合いを詰める。
 説明書によればハリケーンの射程距離は四十メートル。その圏内に入ってしまえば、あとは、命中率も何も関係無しの超連射による弾幕で、凛を仕留めることが出来る。

 しかし、それは叶わなかった。
 デストロイの前面の黒い円から青白い光が一直線に飛びだし、美香のすぐ脇を通り抜けた。その光線のあまりの熱量に面食らい、横に吹っ飛びコロコロと転がった。

「なんだ今の!?」

 振り返る。光が通過した地面は丸くえぐれ、焼け焦げた匂いが漂っていた。

「破壊力に重きを置いて制作された、破壊専門の光線銃、デストロイ。言うだけあって、すごい威力でしょう?」
「そんなのありかよ!」

 さっきはしてやられたが、しかし今はハリケーンの射程圏内。凛は両手の引き金を引く。
 一瞬にして十六発の空気の塊が発車される。凛は銃初心者であり、しかも『対象を狙って撃つ』という行為は産まれて初めてということも加えると、そうそう銃弾が命中することはないはずだ。
 しかし、十六発ともなれば話は別。数打ちゃ当たる理論で、そのうちの一発が凛の右肩をかすめた。

「いったいっ……!」

 美香は凛の苦痛な表情に少し罪悪感を覚えつつ、もう一度弾幕を浴びせようとするが、しかし今度は相手の方が早く構えていた。美香は攻撃を諦め、近くにあった、扉が壊れた建物の中へと逃亡する。
 中に入ると、その建物は図書館だったことに気づいた。奥には美香の背丈よりも高い本棚や、本を読むための机と椅子が所狭しと並んでいる。ただ、ロビーは広く、走りやすい。

「しかしこれ、ミスったかもな……」

 息を切らして走りながらもそんな独り言を言ってしまう程に、美香は図書館に入ってしまったことを後悔した。
 普通の銃撃戦ならば、この選択は特に悪くはないはずだ。しかし相手は普通じゃない銃だから、普通の銃撃戦ができるわけが無い。
 実夜の家は、デストロイによって木っ端微塵に破壊された。ならばこの図書館も、

 瞬間

 青白い直線が、図書館を横なぎにする。
 光線の通り道は灰も残さず全てを無に帰す。ガラスも、フローリングも、コンクリート製の太い柱さえも。
 柱を何本も真っ二つにされた図書館は支えを失い、崩壊する。

「うぉぉぁああああああ!」

 美香は後ろから響く轟音と、砂埃を纏った風で、屋根の一部が崩れ落ちたことを知る。
 デストロイ。名前に恥じぬ破壊兵器だ。
 
 とにかく、建物の中にいてはまずい。ハリケーンを連射し、近くのガラスに穴を開け、図書館から脱出した。


*   *   *


「だ、大丈夫!? 美香ちゃん!」
「大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら……大丈夫じゃあないな」

 全身に傷を負い、息は上がり、ボロボロになった状態で、美香は実夜の元へ戻ってきた。
 美香は雑草の生い茂る道の端に腰を下ろした。

「どう……だった?」
「あれはとんでもないな。正直、どうやって戦えばいいか全くわからん。ここまで逃げてこれたのも、奇跡と言っていいかもしれない」

 美香はデストロイの特性と、これまでの戦闘の様子を語った。


「そっか、そうやって私の家も壊されたんだね」
「あいつはまだあたしのことを探してる。実夜が見つかる前に、そろそろ行かなきゃな」

 美香は深呼吸して呼吸を整え、立ち上がった。

「ちょっと待ってよ、そんなに強いんじゃまた行っても傷つくだけじゃん。まだ一人で戦うの?」
「いや、勝機が全く無いわけじゃない。デストロイは一発撃ったら、エネルギーを溜めるのに十秒くらい時間がかかる。その隙を狙えば……」
「じゃあ」

 実夜は一呼吸置いて、

「私も戦う」
 
「それはやめてくれ」
「戦う」
「だめだ」
「戦う」
「だめだ」
「戦う」

 実夜の瞳は真っ直ぐ美香を見つめ、逸らすことをしようとしない。

「美香ちゃんは無理をしてるようにしか見えないよ」
「無理なんかしてない」
「だってさっき『どうやって戦えばいいか全くわからない』って言ってたじゃん」

 痛いところを突かれた美香は、苦し紛れに「まあ……そんときはそういう気分だったからだよ」と、明後日の方を見ながら弱々しい声で言い訳する。

「絶対に死なないでって約束したよね? 私」
「……」
 
 美香は考える。実夜を戦わせていいものか。

「怖い。実夜が傷つくことが、とてつもなく、怖い」
「心配しないで。私も死なないから」

 実夜は美香を強く抱きしめた。

「……信じていいんだな?」
「うん。信じて」
「……わかった。あたしと一緒に戦ってくれ」
「ありがとう、美香ちゃん」

 遠くから建物の崩れる音が聞こえる。凛は本格的にこちらを潰しに来ていることが伺える。

「しかし、どうやってあいつに対抗しようか」
「いいや、この勝負、勝ったも同然だよ」
「何か秘策があるのか?」
「無い!」
「ないんかい」
「秘策は無いけど、向こうは一人なのにこっちは二人もいるんだよ? 負けるはずないよ!」


*   *   *


 凛はまだ同じ場所にいた。しかし凛の周囲の建物は全て崩壊し、更地に近いような状態になっていた。シンボルとなっていたあの高い鉄塔も、無残にも真っ二つになって上半分がすぐ脇に横たわっていた。
 これでは、奇襲を仕掛けようにも隠れる場所が無さすぎる。

 建造物が残っているのは凛から約半径百メートルの円から外れたエリアだ。美香はその円の際の、凛に視認されるような場所に歩いた。
 電話をかけた。

「よう、また会ったな」
『どこに行ってたんですか? 待ちくたびれましたよ』
「疲れたから休憩してたんだ」
『ずるいですよ。自分ばっかり休んで』
「お前一つも息上がってねーだろ」

 凛の姿は小さく、その表情はうかがえないが、きっと楽しそうな表情をしているのだろうと美香は思った。

『じゃあ、再戦といきましょうか。早くしないと、時間が来てしまう』

 戦闘を許されたのは午後十時三十分から午後十一時までの三十分間。
 それまでに、決着を、つける。

「いつでもかかってこいよ、凛」

 凛はそれに答えるように、デストロイを放つ。

「来るとわかっていれば!」

 初撃は飛び退いて交わすことが出来た。
 しかし問題はここから。
 どう頑張っても、デストロイの射線を避けながら百メートルもの距離を縮めることは不可能。
 不可能。ならば。
 美香は一つのハリケーンを両手で包むように構え、軌道を安定させた状態で、目標に向けて発砲する。
 目標とは。
 それは街灯の明かりだ。
 持ち前の連射力で、五発のうち一発を命中させると、美香の周囲から光が消える。美香を照らすのは、僅かな月の光だけとなる。

「よっしゃ決まった!」

 凛の狙いが一瞬ぶれる。
 しかしまだ凛は美香を見失った訳ではない。再度照準を合わせ仕留めようと、射線は凛を追いかける。
 しかし美香は、後方にあるまだ崩壊していないビルディングの影に、逃げ込んだ。

「また逃げる気ですか!?」

 てっきりこちらに向かってくると思っていた凛は、困惑する。しかし凛にとってこれは好都合。この隙に、デストロイのエネルギーを溜めよう。
 その時。

「はあああああ!」

 凛は後ろからものすごい気配を感じる。もうここまで来ると、気配と言うより存在感だった。凛は慌ててデストロイを回転させ、後ろに向けてデストロイを放つ。が、まだチャージが完了していないそれは弱々しい光を放つだけで、破壊の『は』の字もあったもんじゃなかった。

 まずい。
 と思った頃には凛の体は地に打ち付けられていた。

 全身に重さを感じた。自分は何者かに押し倒されている? 誰だろう。顔を覗く。

「あ、あなたもいたんですか、実夜さん」

 凛を押し倒したのは、実夜だった。

 ここまで全て美香の考案した作戦通りだった。
 美香が囮となりデストロイを一発撃たせ、その隙に反対側から実夜が接近し、デストロイをチャージしている最中の凛を仕留める。
 言ってしまえば、ただの挟み撃ちだ。
 もっともこの場合、破壊力と引き換えに小回りが効かないデストロイの特性と、こちらの数の有利を最大限に利用した作戦となったが。

「……ごめんね、凛ちゃん」
 
 実夜は凛の側頭部に、ハリケーンの銃口を押し付ける。ハリケーンは二つで一つの銃だが、今回はそれを二人が一つずつ持ったのだ。

「実夜さん、私のことを、殺すんですか?」
「ごめんね。凛ちゃんが戦うのをやめてくれない限り、私はそうしなきゃいけないんだ」
「……わかりました。でも最後に、一つだけ、お話を聞いてはいただけませんか?」

 凛は実夜によって完全に動きを封じられ、デストロイを操作することはおろか、立ち上がることすら出来ない。これから死にゆく凛の最後の言葉を聞くことくらいは、叶えてあげても問題ないだろうと実夜は判断した。

「うん、いいよ」

 凛はゆっくりと話し始めた。

「私には、妹がいます。名前は蘭と言います。とても素直で、賢くて、茶髪の髪が特徴の可愛い自慢の妹です。……妹自慢はこれぐらいにしておきますか。去年、妹は病気を患いました。とても珍しい病気で、治療も難しい、いわゆる、難病というやつです。治療には絶望的なお金がかかります。最初はなんとか国からの補助に助けられ、私たち家族はやっていけていました。しかし、本当の災難はこれからでした。お父さんが、失踪してしまったのです。昔から浮気癖のある人でしたので、いつかいなくなってしまうかもなと、なんとなく予感していたのですが、まさかこの状況で失踪するとは。いや、この状況だったからこそ、かもしれませんが。ともかく、それが先月のことです。お母さんと私は、妹のために、家族のために、日夜アルバイトを続ける毎日となりました」

 そこまで話し終えたところで、実夜は凛の力がすっと抜けたような気がした。
 凛は続ける。

「そんなときに、私は全てを取り戻すチャンスを手に入れました。ええ、これのことです。勝ち抜くことが出来れば、十億円もの大金が貰える。こんな素晴らしいチャンス、今後の人生で二度とあるはずが無い。私は、これに全てを懸けることにしました。命も懸けました。しかし、それはどうやら叶わないようです」

 実夜はもうそれ以上凛の話を聞きたくなかった。

 そんな話を聞かされたら、もう。

「だからお願いがあります。もし実夜さんがこの勝負に勝ち、賞金の十億円を手に入れることが出来ましたら、その内のいくらかを使って、蘭の治療費をお支払いいただけないでしょうか」

 実夜は、泣いていた。
 言葉を紡ごうとしても、嗚咽が邪魔してできない。
 だから四回頷いた。

 わかりました。
 あなたの約束は。
 必ず。
 守ります。

 実夜は震える指で、ハリケーンの引き金を





















「やれるわけないじゃん!!!!!!!」



 実夜は赤子みたいな声で絶叫した。真っ暗な街に声がこだまする。
 
「実夜さんは……優しいんですね」

 実夜は引き金を引くことはできなかった。
 凛の歩んできた人生を、これから歩く人生を、実夜の人差し指に乗せるには重すぎた。
 だけど、体を張ってくれた美香のためにも凛を殺さなくてはいけないという使命感が、実夜を苦しめる。
 自分の弱さが嫌になる。

「タイムアップみてーだな」
「え?」

 後ろから聞こえたのは、美香の声。左手にハリケーンを、右手にスマホを握っている。
 美香はおもむろにスマホの画面を見せた。それはロック画面で、時刻がデジタル表記で表示されている。

「午後十一時。ルールによると今日はこれ以降銃を使えねー。残念だけど、今日の勝負はもう終わりってことだ」

 銃を使えるのは、午後十時三十分から午後十一時までの、三十分間のみ。
 
 凛は実夜を無理やりどかして、素早く立ち上がった。

「はい、それじゃあ私帰りますね。また明日、ここで勝負しましょう」

 と言って、そのままデストロイの車輪を転がし去っていってしまった。実夜は凛のしたり顔が目に焼き付いて忘れられない。
 
 廃墟街に虚しく取り残された女子高生二人。
 鳥の声も、虫の声も、聞こえない夜だった。
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