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討伐隊

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学園が始まって3ヶ月経ったとき、それは王都を出発した。仰々しい鎧を着こんだその集団は王家の騎士・第二王子・聖女、そして有志の人々によって構成し、王都内を長々と練り歩いた姿を民衆に見せつけた後に。その姿を見た人々は次々に口にする。

「これで世界が救われるのね!」
「さすが第二王子様と聖女様だ!」
「魔王を殺してきてくれ!」
「災厄をもたらす魔地なんて滅ぼしてしまえ!」
「人間が安心して暮らせる世界を!」

「「人間だけの世界を!」」

そんな場面をにらんでいたのはレティアナが寮で暮らしている人たち全員だった。シルバー家の者しかいないその場では殺気に似た空気に包まれている。それも無理はない、今回の討伐隊にはシルバー家は徴集されなかったからだ。聖女がいるから余裕だとでも思ったのか、それともシルバー家抜きで討伐を成功させることで私たちを無能だとでも示したいのか。まあ、徴集されたところで後ろを安心して任せることができない者とは共闘したくはないだろうけど。

「兄様、父様たちは大丈夫かな?」

自分で思っていたより泣きそうな声が出た。

「父様たちなら大丈夫だよ。私たちだってまだまだ敵わないじゃないか。」

「そうだよね。私たちも領地に戻れたらよかったのに…。どうしてここにいなきゃいけないの…。」

「それが王家からの命令だからだよ。私たちの戦力を分断させたいのかな?王家は完全にシルバー家と対立したいらしいね。こうなれば、私たちが王命に従う理由はないんだけど、父様からも言われてるから仕方ないかな。でも、もしシルバー家に何かあればすぐにここを出るよ。」

「もちろん!」

兄様と別れてから自分の部屋に戻って一息つく。討伐隊が魔領に着くのは1週間後くらいか…。横にいるエティを撫でながら今後のことを考える。私たちは学園に行っても陰口をたたかれるだけだから寮に引き籠ることにしていた。セルジオ様に会えないのは残念だけど、それ以外は正直どうでもいい。私たちのことを知らないくせに好き勝手に言うみんなに吐き気がする、そんな情報に惑わされる人らなんか…。

いや、そんなことより魔領にいるフェンリルや魔獣たちは大丈夫かな。ここ数年で魔獣たちとも仲良くなれたのに…。動物の姿をしているのに人間のように暮らして言葉を話していて、しかも魔力の扱いがびっくりするほど上手だったからついお願いしてみたら快く教えてくれた。穏やかな性格で早くこの状況が終わればいいのにってみんなが心から祈っていた。そして、人間たちと一緒に暮らせないことを残念だとも言っていた。どうして、こんなに優しい魔獣たちが世界の災厄であると言われているのかが分からない。私がいくら弁明したところで火に油を注ぐことになるのは目に見えているから動くこともできない。私にできることはないだろうか。それにエティにも悪いことをしてしまった。今すぐフェンリルたちのところへ行って加勢したいだろうに、契約者の私が人間だからエティが魔領側に加勢すると私の立場が悪くなってしまうだろうとフェンリルに言われたらしい。それに納得して私を安心させるためにそばにいてくれるエティを見ていると契約者が私ということに申し訳なくなってくる。私と契約しなければ、他の人と契約していればエティはこんなにも我慢をすることもなかったかもしれないし、青龍はもう見つかっていたかもしれない。嫌な“もしも”がエスカレートしていくのを止められない。魔領を危険にさせることもなかったかもしれないし、シルバー家の立場がこんなに悪くなることもなかったかもしれない。もし私がじゃなければ世界はもっとうまく回っているのかもしれない。私が“私”だったからこの状況なんだ。
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