初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

文字の大きさ
8 / 77
第2話

2


「相川さん、彼氏いますよね?」
「え……?」  

 きょとん、と首を傾げる。  
 すると鈴木さんは「だって……」と私の右手を見た。 
 薬指にはまった指輪。確かに、恋人からもらった指輪を右手薬指にはめる人は多いだろう。しかもダイヤのついたシンプルなリング。ペアリングと思われてもおかしくはない。  

 実際のところ、このシルバーリングはペアリングでも何でもない。学生の頃から推しているアイドルが出したグッズだった。

 彼女に夢中になったのは大学生のときだった。ある日、ぼんやりと繁華街で横断歩道の信号が変わるのを待っていたとき、大きなヴィジョンに映ったのが、ホシゾラドロップスというアイドルグループだった。8人組の女性アイドルで、この度デビューが決まったらしく、メンバーがそれぞれ自己紹介をして意気込みを語っていた。
 その時、私の目が吸い寄せられたのが、ミトという女の子だった。ストレートの黒髪を下ろし、大きな目がくりくりっとしていて可愛らしい。
 中でもコメントに惹かれた。彼女はその時20歳。アイドルとしては遅咲きだ。グループでも最年長で、リーダーを務めます、と自己紹介した。
 そうして彼女は「何事も始めるのに遅いということはない、と私が証明してみせます!」と言い切ってにこっと笑ったのだ。その笑みに、私は思わず見惚れていた。信号が青に変わったことにも気づかず、画面に映るミトの姿を見つめ続けていた。
 それ以来、CDが出れば必ず買うし、ライブにも足を運ぶようにしている。
 このシルバーリングは、就職して、初めてのボーナスが出たときに買った。
 お値段はまあまあしたけれど、内側に好きな文字を入れることができたから、Mito&Mireiという刻印まで入っている。  
 生のミトに会える、というのは私の生活のモチベーションになっていた。正直、彼氏を作ることよりミトに会いにいくほうが心がときめく。


 だから「この指輪は違いますよ」、と否定しようとした。
 けれど、咄嗟に思いとどまった。一つの考えが浮かんだからだ。

 この面倒な『彼氏いるの?』という質問には「います」という回答が一番手っ取り早いのではないか、と。
 彼氏がいることにしておけば、面倒な質問も人付き合いが悪いのも、すべての理由になるのではないだろうか。
 だからと言って、今までの人生で彼氏がいたこともない私は、堂々とYESを答える勇気がなかった。曖昧に笑って誤魔化す。
 ただそれを、鈴木さんは肯定の意として捉えてくれたらしい。なんて良い人なんだろう。
 好きな人なんて欲しくないけれど、もし将来誰かと付き合うことになったら、鈴木さんみたいな人が良いかもしれない。

 そんなことを考えていると、「ええ!?相川先輩、本当に彼氏いるんですか?」と吉野が声を上げて、それが瞬く間に隣のテーブルまで伝播していく。
 最悪だ。吉野はまるで歩くスピーカー。
 でもまあいいか、とこっそりため息を吐く。
 これで金輪際、彼氏いるの? とか合コン行かない? と誘われることがなくなるなら、それはそれで本望だ。

「どんな人なんです?」と質問攻めにしてくる吉野から目を逸らすと、不意にこちらを見つめる視線を感じた。

 糸川が、切長の瞳をさらに細めてこちらを見ていた。 
 まるで睨んでいるような表情に、業務中少しだけ見直した糸川への嫌悪感がまた戻ってきた。 
 向けられる目線を断ち切ると、グラスに残っていたビールを飲み干し「ちょっと失礼します」と席を立った。

感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。