初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第2話

4

「相川の荷物これだけだよな?」

 そう言って糸川が差し出したのは、確かに私のバッグだった。
 無言で頷くと、ふっと糸川が息を吐いた。

「良かった。吉野に聞くのは癪だったから」

 行くぞ、と糸川は手を差し出す。
 てっきりバッグが渡されるのかと思ったら、そのまま空いた手を引っ張って立ち上がらされた。

 かぶったスーツが落ちそうになって、慌てて手で押さえる。

「あー、大丈夫だったら返して」

 と言われ、そのままスーツを差し出した。
 糸川はスーツは羽織らず自分の腕にかけて、階段を降り始める。

 その後ろ姿を動かずに見送っていると、

「相川も帰るだろ。もう座敷戻るのも……あれだし」
「やだ。戻る」
「なんでだよ。泣いたってわかるぞ」

 そう言われて、ぎゅっと唇を噛み締める。
 確かに、化粧も落ちているだろう。これから化粧を直してまたあの空間に戻るのは躊躇われた。

「でも、会費とか……」
「幹事に言っといた。俺と相川は明日払うからって」
「え?」
「心配すんなって。帰ろうぜ」

 そう言われて、おずおずと頷いた。

 大嫌いな糸川の前で醜態を晒して一緒に帰るのも嫌だけれど、どうせ駅に着いたら別々の電車に乗るのだ。確か方向は違ったはずだし。

 階段を降りて雑居ビルを出る。そのまま糸川の半歩後ろを歩いた。
「なあ」
「なに?」

 糸川が足を止めずに振り返る。

「相川って、本当に彼氏いないの?」
「……いない」

 今更否定する気にもならず素直にそう答えると、一拍置いて「ふーん」と相槌が返ってきた。

「糸川からしたら考えられないだろうけど」
「は? なにが?」
「彼氏がいないなんて」
「別に。ていうか俺も彼女いねえし」
「なにそれ。嘘ばっかり」
「嘘じゃねえよ」

 少しだけ糸川の声に、不満そうな色が混じる。

「しょっちゅう会社で女の人とベタベタしてるくせに」
「あれは……入社直後だけだよ」
「あっそ」
「本当だって。あの時はまだ迫ってくる女にどう対処したら良いかわからなかっただけ」
「へえ」
「今はそんなことないし。最近、相川に見られたこともないはずだけど」
「どうだろ」

 肩をすくめてみせる。
 確かに、糸川の言う通り、最近会社で抱き合ったりキスしているところには遭遇していない。不特定多数の女性社員にちやほやされているところは見ているけど。

「だろ。気をつけてんだよ」
「ふうん」
「お前……全然興味ないな」
「うん」
「……そこだけ即答かよ……」

 糸川がちっと小さく舌打ちをする。

「糸川って、いつも愛想いいくせに私にはめちゃくちゃ態度悪いよね」
「な……。それを言ったら相川だって、普段はクールビューティとか言われてるくせに、俺にはめちゃくちゃ突っかかってくんじゃん」
「別にクールビューティなんて言われてないし。そんなキャラ目指しているわけでもないし」
「……そうなの?」

 意外、とばかりに糸川が足を止めた。

「まわりが勝手に言ってるだけでしょ。ブリザードだって」
「ブリザードって……。それ、お前意味違うと思うぞ?」
「え?」
「お前にどんなにアプローチしてもなしのつぶてだから、相手にされなかった男がやっかみで言ってるだけだろ」
「……え?」

 私も足を止める。まるで糸川に釣られたようになってしまった。

「あーやっぱ理解してなかったんだな。美人で仕事もできる相川のことを落としたい男が、近寄ってはすげなくされてるから恨んで有る事無い事言ってんの。だからブリザードなんていうのはフラれたやつの負け惜しみ。他の男は大体綺麗すぎて近寄れないっつって避けてんだよ」
「まさか」

 私をおだでるのも大概にして欲しい。
感想 2

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