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第3話
6
都会にある大学には、地元とは明らかに違う洗練された若者が多かった。
着ている服も持ち物も、化粧の仕方も。
すべてが特別に輝いて見えて、私はすっかり怖気付いていた。
でもそんな私に、優しく接してくれる女の子がいた。
ナマエはユキちゃん。
必修のクラスが同じで、たまたま隣同士の席に座ったのがきっかけだった。
ユキちゃんはすらりとした手足に、透き通るような肌、漫画から出てきたみたいに可愛らしい造作の女の子だった。
お姫様みたいなユキちゃんはなぜか、
「実鈴ちゃんって呼んでいい?仲良くなりたいな」
と言ってくれて、私たちは一緒に過ごすことが多くなった。
授業は並んで受けたし、休み時間は一緒に過ごしたし、空き時間は図書館で一緒に課題に取り組んだりした。
もっともユキちゃんは、大きなオールラウンドサークルに所属していて、授業後は忙しそうだった。それでもこれまでの私の人生のなかで、友だちとこんなに同じ時間を過ごすのは初めて、というくらい長い時間一緒にいた。
ユキちゃんは初めてできた、私とは違う人種の友だちだった。
どんなに混雑した授業でも私が教室に行けば「実鈴ちゃん、こっちこっち~!」と隣の席を確保しておいてくれた。
都会には、こんなに可愛くて親切な女なの子がいるのか、とカルチャーショックだった。
そんなユキちゃんは入学早々から当たり前のようにモテていた。同級生にも先輩にもしょっちゅう呼び出されていたし、二人で学食でお昼ご飯を食べていれば、入れ替わり立ち替わり男子生徒がやってきた。
ちなみにユキちゃんの食べるお昼ご飯の量は、信じられないくらい少ない。お母さんが作ってくれた私のお弁当は働き盛りのサラリーマンみたいに巨大なサイズで、通りかかった男子学生に「お前……力士かよ」と言われた。
恥ずかしくて顔を伏せることしかできなかった私に、ユキちゃんは、
「もう変なこと言わないで。いっぱい食べるのはいいことでしょ」
と怒ってくれて、それがとても嬉しかった。
だからユキちゃんにはこっそり「私、ミトが好きなんだ」とブロマイドを見せたこともある。それから、ライブ会場でグッズを買って、一緒に撮ってもらったツーショットチェキも。
「へえ! すごいね! 写真撮ってもらえるんだ!」
「うん、宝物なの」
「ミトか、可愛いね~! 私も見てみる!」
「うん、一緒にライブ行けたら嬉しい」
そんな話をして、いつかユキちゃんとライブを見に行くことを心待ちにしていた。
でも、数ヶ月経った、ある日。
その日は、お昼前の授業が別々だった。
特に約束をしていたわけではないけれどいつも学食で落ち合うのが習慣になっていたから、私は何も考えずに例の巨大なお弁当箱を手に学食に向かっていた。
ユキちゃんは、柱の影の席に座っていた。四人掛けのテーブルで、二人見覚えのない女の子と一緒だった。
ユキちゃんの友達かな、なんて何も考えず近寄った私は、聞こえてきた声に思わず足を止めた。
「ねえユキ、なんであんな子と一緒にいるの?」
「そうそう。相川……なんだっけ。あんなだっさいの」
「えー、そんなの引き立て役に決まってるじゃん」
聞こえてきたのが、いつもふわふわと私を呼ぶ声と、同じだとは思えなかった。
信じたくなかった。
でも、それは明らかにユキちゃんの声だった。
足が震える。
咄嗟に柱の影に隠れていた。
スニーカーの中の指先が冷たい。氷の上に置いたようだった。
思わず視線を足元に向ける。
鄙びて、薄汚れたスニーカーが視界に飛び込んできて、私はぎゅっと目を瞑った。
「あーそういうこと?」
「だからってアレはないでしょ」
「だって一緒にいれば絶対私が可愛く見えるもん。この前だって超でかい弁当箱だってからかわれててさー」
「なにそれウケる」
「仕方ないよ。本当に馬鹿でかいんだもん。よくあんなに食べれるなーって感じ」
「でもユキはかばってあげたわけ?」
「そう! そしたら、ユキちゃんは優しいね~って聞いてた先輩に褒められちゃった」
着ている服も持ち物も、化粧の仕方も。
すべてが特別に輝いて見えて、私はすっかり怖気付いていた。
でもそんな私に、優しく接してくれる女の子がいた。
ナマエはユキちゃん。
必修のクラスが同じで、たまたま隣同士の席に座ったのがきっかけだった。
ユキちゃんはすらりとした手足に、透き通るような肌、漫画から出てきたみたいに可愛らしい造作の女の子だった。
お姫様みたいなユキちゃんはなぜか、
「実鈴ちゃんって呼んでいい?仲良くなりたいな」
と言ってくれて、私たちは一緒に過ごすことが多くなった。
授業は並んで受けたし、休み時間は一緒に過ごしたし、空き時間は図書館で一緒に課題に取り組んだりした。
もっともユキちゃんは、大きなオールラウンドサークルに所属していて、授業後は忙しそうだった。それでもこれまでの私の人生のなかで、友だちとこんなに同じ時間を過ごすのは初めて、というくらい長い時間一緒にいた。
ユキちゃんは初めてできた、私とは違う人種の友だちだった。
どんなに混雑した授業でも私が教室に行けば「実鈴ちゃん、こっちこっち~!」と隣の席を確保しておいてくれた。
都会には、こんなに可愛くて親切な女なの子がいるのか、とカルチャーショックだった。
そんなユキちゃんは入学早々から当たり前のようにモテていた。同級生にも先輩にもしょっちゅう呼び出されていたし、二人で学食でお昼ご飯を食べていれば、入れ替わり立ち替わり男子生徒がやってきた。
ちなみにユキちゃんの食べるお昼ご飯の量は、信じられないくらい少ない。お母さんが作ってくれた私のお弁当は働き盛りのサラリーマンみたいに巨大なサイズで、通りかかった男子学生に「お前……力士かよ」と言われた。
恥ずかしくて顔を伏せることしかできなかった私に、ユキちゃんは、
「もう変なこと言わないで。いっぱい食べるのはいいことでしょ」
と怒ってくれて、それがとても嬉しかった。
だからユキちゃんにはこっそり「私、ミトが好きなんだ」とブロマイドを見せたこともある。それから、ライブ会場でグッズを買って、一緒に撮ってもらったツーショットチェキも。
「へえ! すごいね! 写真撮ってもらえるんだ!」
「うん、宝物なの」
「ミトか、可愛いね~! 私も見てみる!」
「うん、一緒にライブ行けたら嬉しい」
そんな話をして、いつかユキちゃんとライブを見に行くことを心待ちにしていた。
でも、数ヶ月経った、ある日。
その日は、お昼前の授業が別々だった。
特に約束をしていたわけではないけれどいつも学食で落ち合うのが習慣になっていたから、私は何も考えずに例の巨大なお弁当箱を手に学食に向かっていた。
ユキちゃんは、柱の影の席に座っていた。四人掛けのテーブルで、二人見覚えのない女の子と一緒だった。
ユキちゃんの友達かな、なんて何も考えず近寄った私は、聞こえてきた声に思わず足を止めた。
「ねえユキ、なんであんな子と一緒にいるの?」
「そうそう。相川……なんだっけ。あんなだっさいの」
「えー、そんなの引き立て役に決まってるじゃん」
聞こえてきたのが、いつもふわふわと私を呼ぶ声と、同じだとは思えなかった。
信じたくなかった。
でも、それは明らかにユキちゃんの声だった。
足が震える。
咄嗟に柱の影に隠れていた。
スニーカーの中の指先が冷たい。氷の上に置いたようだった。
思わず視線を足元に向ける。
鄙びて、薄汚れたスニーカーが視界に飛び込んできて、私はぎゅっと目を瞑った。
「あーそういうこと?」
「だからってアレはないでしょ」
「だって一緒にいれば絶対私が可愛く見えるもん。この前だって超でかい弁当箱だってからかわれててさー」
「なにそれウケる」
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