22 / 77
第4話
3
営業部に戻ると、さっそく糸川が女性社員に囲まれていた。
「えー、二人、いつから付き合ってるんですか?」
なんて質問攻めにされていて、見ているだけでげっそりしてしまう。
糸川はちらりとこちらに目線をやると、自分を囲んでいる女性社員たちに笑みを浮かべてせみた。
「公私混同はしないようにって言ってたのに、俺が約束破っちゃったから。ごめん、見なかったことにして?」
さらりとそう言って振り返ることなくデスクに戻っていく。
その態度に、集まっていた社員たちもさすがに散っていった。
小さくため息を吐く。
無意識のうちに右手に戻ってきた指輪を撫でてしまい、それを見ていたまわりの社員たちに、またあらぬ噂の種を与えてしまっていたのだった。
私たちが付き合っているという噂は、翌日には会社中に広まっていた。
糸川の人気を考えれば無理もない。朝から通りかかる社員がこちらを見てはひそひそと言葉を交わしているのが気にならないと言えば嘘になるが、普段のそっけない対応が功を奏したのか、私に直接話しかける人間は誰もいなかった。
その分、糸川はさんざん囲まれていたけれど、人を脅したのだからそのくらい当然だろう。
もっとも、本人は大勢の野次馬に囲まれることを、気にも留めていないようだった。
嘘でも付き合っている、ということになったとはいえ、最初に糸川が「公私混同しない」と宣言したこともあって、社内で顔を合わせることがなくても、疑われることもないようだった。
ただ私がいつからこの指輪をしていたのか、という話題だけはたびたび上がっているようだ。
相当昔からつけているから、実はこっそりずっと付き合っていたのではないか、というのがおおかたの出した結論らしい。
全く当たっていないのに、なぜか信憑性のある話として、事実のように出回っているようだった。
「あの二人、入社当時から仲良かったもんねー」
なんて、まったく身に覚えのないことが、事実のように話されている。
それでも噂のほとんど全てが伝聞なのは、私だけではなく、糸川もたいていの質問をぼかして答えているからのようだ。それがまた秘密主義だの、彼女を大事にしている、だの、糸川の株が上がる理由となっているのが解せない。
最初は身構えていたものの、糸川からも特に恋人らしい振る舞いは求められなかった。
糸川の進めているA社の案件が立て込んでいたせいもある。
A社は初めての販路を拡大しようとしている業界の、最大手だった。
先方から提示された交渉期限は1ヶ月ほどで、その間、糸川はその商談につきっきりだった。あまりに大口のため、糸川は部長のみならず社長にまで呼び出され、連れ回されていたらしい。
私は私で、日々指示の飛んでくるデータの修正対応で手一杯だった。
糸川とは業務上会話はするものの、嘘でもフリでも、彼氏彼女の関係云々などと話しているゆとりがなかった。
「えー、二人、いつから付き合ってるんですか?」
なんて質問攻めにされていて、見ているだけでげっそりしてしまう。
糸川はちらりとこちらに目線をやると、自分を囲んでいる女性社員たちに笑みを浮かべてせみた。
「公私混同はしないようにって言ってたのに、俺が約束破っちゃったから。ごめん、見なかったことにして?」
さらりとそう言って振り返ることなくデスクに戻っていく。
その態度に、集まっていた社員たちもさすがに散っていった。
小さくため息を吐く。
無意識のうちに右手に戻ってきた指輪を撫でてしまい、それを見ていたまわりの社員たちに、またあらぬ噂の種を与えてしまっていたのだった。
私たちが付き合っているという噂は、翌日には会社中に広まっていた。
糸川の人気を考えれば無理もない。朝から通りかかる社員がこちらを見てはひそひそと言葉を交わしているのが気にならないと言えば嘘になるが、普段のそっけない対応が功を奏したのか、私に直接話しかける人間は誰もいなかった。
その分、糸川はさんざん囲まれていたけれど、人を脅したのだからそのくらい当然だろう。
もっとも、本人は大勢の野次馬に囲まれることを、気にも留めていないようだった。
嘘でも付き合っている、ということになったとはいえ、最初に糸川が「公私混同しない」と宣言したこともあって、社内で顔を合わせることがなくても、疑われることもないようだった。
ただ私がいつからこの指輪をしていたのか、という話題だけはたびたび上がっているようだ。
相当昔からつけているから、実はこっそりずっと付き合っていたのではないか、というのがおおかたの出した結論らしい。
全く当たっていないのに、なぜか信憑性のある話として、事実のように出回っているようだった。
「あの二人、入社当時から仲良かったもんねー」
なんて、まったく身に覚えのないことが、事実のように話されている。
それでも噂のほとんど全てが伝聞なのは、私だけではなく、糸川もたいていの質問をぼかして答えているからのようだ。それがまた秘密主義だの、彼女を大事にしている、だの、糸川の株が上がる理由となっているのが解せない。
最初は身構えていたものの、糸川からも特に恋人らしい振る舞いは求められなかった。
糸川の進めているA社の案件が立て込んでいたせいもある。
A社は初めての販路を拡大しようとしている業界の、最大手だった。
先方から提示された交渉期限は1ヶ月ほどで、その間、糸川はその商談につきっきりだった。あまりに大口のため、糸川は部長のみならず社長にまで呼び出され、連れ回されていたらしい。
私は私で、日々指示の飛んでくるデータの修正対応で手一杯だった。
糸川とは業務上会話はするものの、嘘でもフリでも、彼氏彼女の関係云々などと話しているゆとりがなかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。