初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第5話

2

 ホームに着くなりタイミングよく滑り込んできた地下鉄に乗って数駅。

 相変わらず目的地を教えてくれない糸川の後を追って辿り着いたのは、どこからどうみても住宅街に佇むマンションだった。

 外壁がコンクリート打ちっぱなしでお洒落だ。いわゆるデザイナーマンションというやつだろうか。

 しかしどこからどう見ても店じゃない。
 エントランス前で足を止めた。

 糸川がそれに気づいて振り返る。

「どうした?」
「ここって、糸川の家?」
「そうだけど」
「帰る」

 踵を返そうとした瞬間、肩を掴まれた。

「そう言うなって。別にこの前の続きしようと思ってるわけじゃねーし」
「そんなの、」
「飯、作ったから」
「……え?」
「まあまあ好きなんだよ、料理。だから相川に味見してもらおうかなって」

 糸川はガシガシと頭を掻いている。

「料理、できるんだ?」
「わりと得意」

 割と、とはいえ得意と言い切るのだから自信があるのだろう。

「意外」
「まあ、そんな話したことねーし」
「そもそも糸川とあんまり話すことないもん」
「まあそれもそうなんだけど……。そもそも、料理が好きとか、会社のやつに言ったことねーし」
「……そうなの? 女の子招いてご馳走してるのかと思った」

 そう言うと、こつんと頭を小突かれる。

「あのな。そもそも家に連れて来たのだって――」

 糸川が、途中で言葉を切る。こほんと咳払いしたかと思うと、

「とにかく、いっぱい仕込んだから食ってほしいんだけど」

 まるで私のためにたくさん料理した、と言わんばかりだった。そこまで言われて、やっぱり帰る、とは言いづらい。

 まあご飯を食べるくらいなら良いだろう、と自分に言い聞かせる。
 そもそも、あんな姿まで見られていて、今更糸川に遠慮する必要もない気がしてきた。

「じゃあ味見させてもらう」
「マジ!?」

 糸川がぱっと顔を輝かせる。
 自分で誘ったくせに、そんなに喜ばないでほしい。こちらのペースが崩れるから。


 糸川の部屋は五階だった。最上階だ。

 他の階より天井が高くなっているらしく、玄関から続く廊下を抜けると、開放感のある空間が広がっていた。

 外壁と同じように室内も壁はコンクリート。内装も家具も黒で統一されていて、まるでどこぞのホテルのようなシックな部屋だ。
 まず目に飛び込んできたのはカウンターキッチン。
 横のダイニングテーブルには、既にカトラリーが並んでいる。

 奥はソファとローテーブルの配されたリビングスペースになっていて、突き当たりには大きな窓があった。
 今はブラインドカーテンが下ろされているけれど、日中はじゅうぶん日差しが差し込むのだろう。

「綺麗すぎなんだけど」
「片付けたんだよ」

 糸川はそう笑うけれど、そもそも物が少なくすっきりとした部屋だ。そして広い。やっぱり営業成績が良いとその分給料に反映されているのだろうか。一応、同期なんだけど。
 女の子が連れて来られたら感激しそうだな、なんて、また詮無いことを考えてしまう。

「どうした?」

 キッチンの入り口で突っ立っている私の頭に、ぽん、と糸川の手が乗せられる。
「ううん、なんでも」
「……まあいいや。あ、手洗う? 洗面所、こっち」

 糸川に連れられて、来たばかりの廊下を戻る。

 洗面所も綺麗に片付けられていた。
 どこかに女の影が落ちてる物だとばかり思っていたけれど、そんな気配は全くなかった。意外だ。

「準備するから座ってて」

 そう言われてソファを勧められたけど、「落ち着かないからこっちでいい?」とダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。

 キッチンに立つ糸川を眺める。

 まるでお腹が空いて楽しみで仕方ない子どもみたいになってしまった。

 ジャケットを脱いだ糸川は、素早くパスタを茹で始めた。三口コンロを同時に使って、鍋を温めている。
 手際の良さから、料理が得意だと言うのは嘘じゃなさそうだ。
 というか、私よりよっぽど上手いし、慣れている。

 シャツの袖を腕まくりしているせいで、パスタをザルにあける筋張った前腕が見えた。
 なぜだかどきどきと胸の鼓動が速くなり、慌てて目を逸らした。
感想 2

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