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第5話
3
「はい、お待たせ」
レタスの上にパプリカの散らされた彩りの良いサラダ、トマトソースのパスタ、香草の散らされた白身魚のムニエルがテーブルに並べられる。
私は思わず目の前の糸川を見上げた。
「……なに?」
「いや、本当に得意なんだなと思って」
「そりゃ、自信ないのに得意とか言わないだろ。ま、好みに合うかわかんねーけど」
「すっごく美味しそう……」
「良かった。さ、食おーぜ」
糸川が目の前の席に座る。
「いただきます」
手を合わせてフォークを手にし、サラダをひと口。
酸味の効いたドレッシングが美味しい。
「ドレッシングも手作りなの?」
「まあなー」
「すご……」
「材料刻むの面倒だけど、分量通りに混ぜるだけだからそんなに大変じゃないし」
「その手間をかけようと思うのがすごい」
「あー、趣味みたいなもんかも。無心になれるっていうか」
「へえ……糸川ってもっとアクティブなのかと思ってた」
趣味、ジム通いとかキャンプとかいうタイプなのかと思っていた。いわゆる陽キャの典型みたいなイメージだ。
「まあ出かけるのも好きだけど。料理はすぐに成果が出るからいいよな」
「仕事みたいなこと言ってる」
「仕事ですぐに成果出ないことも多いから、余計にそう思うのかも」
「なるほどね」
普段飄々としているからわからないけど、常に営業で成績を残し続けるプレッシャーは相当な物だろう。
しかも年々、糸川の元には負担の大きい客先が集まるようになっている。
「仕事の話はいいんだよ。それより食えって。お前、ただでさえほっそいんだし」
糸川がさり気なく発したひと言で、思わず手が止まった。
「そんなことないよ」
「は?」
「全然細くない」
「何言ってんだ? 俺、いつもお前見てると腕折れそうで不安になるんだけど」
糸川が眉間に皺を寄せている。
ほら、と自分の腕を出されたので、同じように並べてみせる。
確かに、私の方が細いけど、でもそれは男女で違うんだから当たり前だ。
黙ったままの私を見て、糸川は腕を引いた。
「ほらな。俺の半分くらいしかないんじゃね?」
「そりゃ男の人と同じくらいあったら怖いでしょうよ」
「まあお前が大丈夫っていうならいいけど。でもほら、抱くときに不安になるじゃん。折りそうで」
「馬鹿なこと言わないで」
ぴしゃりとそう言うと、糸川が意地悪そうな笑みを浮かべた。
絶対わざとだ。
もう二度としないって言ってるのに。
むすっとしながらもフレッシュなトマトソースにチーズが散らされたパスタをくるくるとフォークに巻きつける。
すると堪えきれないといったように糸川が噴き出した。
仕方ない。だって糸川の作ってくれた料理はどれも美味しい。素材の味が生かされていて、量以上の満足感がある。
「魚、食べれそう?」
そう聞かれて、頷く。
いつもお腹いっぱいまで食べないように気をつけているけれど、作ってくれたものを残すのは、無理だ。
糸川はテーブルの真ん中に置いてあった魚のプレートをこちら側に移動させる。
「無理だったら残せよ。俺が食うし」
「うん」
ハーブソルトで味つけられた魚のムニエルも美味しかった。
「おいしっ」
思わず口を押さえると、ひと足先に食べ終えた糸川が片肘をついてこちらを見ている。やけに柔らかい表情だった。
「な、なに」
「いや美味そうに食ってくれて作り甲斐があるなあと思って」
「そりゃ、美味しいもん」
「ははっ。最大の褒め言葉だな」
くしゃりと笑う顔に、胸が鳴る。
だめだ、イライラさせられたばかりなのに、今度は心拍数が跳ね上がって、収まる気配が見えない。
「そ、そんなの言われ慣れてるんじゃないの?」
取り繕うように言葉を重ねてしまう。
「誰かに作ることってほとんどねーし」
「こんなに上手いのに……? 歴代の彼女も喜んだでしょ」
可愛げのないことを言ってしまう私に、糸川は意外にもうーんと唸った。
「彼女に作ったことってないんだよな。最初の頃、料理したもんご馳走したら、自分より上手いと複雑って言われて」
「え……?」
「それ以来、なんか料理趣味っていうのも言いづらくて。食べてもらう気にもならないっていうか」
「もったいない。そんな1人の意見に左右されることないのに」
「そうなんだけどなー、ま、食べてもらいたいと思う子もいなかったし」
……ん?
少し違和感を覚えて、その理由を考える前に、糸川が席を立った。
レタスの上にパプリカの散らされた彩りの良いサラダ、トマトソースのパスタ、香草の散らされた白身魚のムニエルがテーブルに並べられる。
私は思わず目の前の糸川を見上げた。
「……なに?」
「いや、本当に得意なんだなと思って」
「そりゃ、自信ないのに得意とか言わないだろ。ま、好みに合うかわかんねーけど」
「すっごく美味しそう……」
「良かった。さ、食おーぜ」
糸川が目の前の席に座る。
「いただきます」
手を合わせてフォークを手にし、サラダをひと口。
酸味の効いたドレッシングが美味しい。
「ドレッシングも手作りなの?」
「まあなー」
「すご……」
「材料刻むの面倒だけど、分量通りに混ぜるだけだからそんなに大変じゃないし」
「その手間をかけようと思うのがすごい」
「あー、趣味みたいなもんかも。無心になれるっていうか」
「へえ……糸川ってもっとアクティブなのかと思ってた」
趣味、ジム通いとかキャンプとかいうタイプなのかと思っていた。いわゆる陽キャの典型みたいなイメージだ。
「まあ出かけるのも好きだけど。料理はすぐに成果が出るからいいよな」
「仕事みたいなこと言ってる」
「仕事ですぐに成果出ないことも多いから、余計にそう思うのかも」
「なるほどね」
普段飄々としているからわからないけど、常に営業で成績を残し続けるプレッシャーは相当な物だろう。
しかも年々、糸川の元には負担の大きい客先が集まるようになっている。
「仕事の話はいいんだよ。それより食えって。お前、ただでさえほっそいんだし」
糸川がさり気なく発したひと言で、思わず手が止まった。
「そんなことないよ」
「は?」
「全然細くない」
「何言ってんだ? 俺、いつもお前見てると腕折れそうで不安になるんだけど」
糸川が眉間に皺を寄せている。
ほら、と自分の腕を出されたので、同じように並べてみせる。
確かに、私の方が細いけど、でもそれは男女で違うんだから当たり前だ。
黙ったままの私を見て、糸川は腕を引いた。
「ほらな。俺の半分くらいしかないんじゃね?」
「そりゃ男の人と同じくらいあったら怖いでしょうよ」
「まあお前が大丈夫っていうならいいけど。でもほら、抱くときに不安になるじゃん。折りそうで」
「馬鹿なこと言わないで」
ぴしゃりとそう言うと、糸川が意地悪そうな笑みを浮かべた。
絶対わざとだ。
もう二度としないって言ってるのに。
むすっとしながらもフレッシュなトマトソースにチーズが散らされたパスタをくるくるとフォークに巻きつける。
すると堪えきれないといったように糸川が噴き出した。
仕方ない。だって糸川の作ってくれた料理はどれも美味しい。素材の味が生かされていて、量以上の満足感がある。
「魚、食べれそう?」
そう聞かれて、頷く。
いつもお腹いっぱいまで食べないように気をつけているけれど、作ってくれたものを残すのは、無理だ。
糸川はテーブルの真ん中に置いてあった魚のプレートをこちら側に移動させる。
「無理だったら残せよ。俺が食うし」
「うん」
ハーブソルトで味つけられた魚のムニエルも美味しかった。
「おいしっ」
思わず口を押さえると、ひと足先に食べ終えた糸川が片肘をついてこちらを見ている。やけに柔らかい表情だった。
「な、なに」
「いや美味そうに食ってくれて作り甲斐があるなあと思って」
「そりゃ、美味しいもん」
「ははっ。最大の褒め言葉だな」
くしゃりと笑う顔に、胸が鳴る。
だめだ、イライラさせられたばかりなのに、今度は心拍数が跳ね上がって、収まる気配が見えない。
「そ、そんなの言われ慣れてるんじゃないの?」
取り繕うように言葉を重ねてしまう。
「誰かに作ることってほとんどねーし」
「こんなに上手いのに……? 歴代の彼女も喜んだでしょ」
可愛げのないことを言ってしまう私に、糸川は意外にもうーんと唸った。
「彼女に作ったことってないんだよな。最初の頃、料理したもんご馳走したら、自分より上手いと複雑って言われて」
「え……?」
「それ以来、なんか料理趣味っていうのも言いづらくて。食べてもらう気にもならないっていうか」
「もったいない。そんな1人の意見に左右されることないのに」
「そうなんだけどなー、ま、食べてもらいたいと思う子もいなかったし」
……ん?
少し違和感を覚えて、その理由を考える前に、糸川が席を立った。
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