初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

文字の大きさ
31 / 77
第6話

3

 一通りの座学を終え、グループワークが行われた。
 そのグループで、俺は相川と一緒になった。なんのことはない、五十音順で六人ずつに区切られただけだ。

 グループ分けが伝えられたときはテンションが下がったが、いざワークが始まると相川は初日とは別人だった。
 採用試験のグループ面談でもそうだったが、こういう場ではたいてい自分が進行役になる。 
 限られた時間で意見をまとめ、ブラッシュアップするためには、ある程度慣れている人間が舵を取った方が効率が良い。
 だから俺はその日も積極的に議題を進めていた。
 さすがに全く無気力なメンバーはいないものの、議題が進むごとに、意見を積極的に言う面子が固定されてしまう。
 発表はグループの総意として行うから、これでも体裁は整う。どうすっかな、と考えていると、一人、ほとんど口を挟まなくなった男を気遣うように、相川が手を挙げた。 

「自分の意見じゃなくて良いと思うんですけど、今出ているものに対峙する意見も、挙げておいた方が良いと思いません? 私がちょっと考えたのは――」 

 そう言って、今固まり始めている案の、対抗馬ともいえる意見をいくつか相川が述べた。書記を務めている女の子が慌ててパソコンに打ち込んでいる。 

「あー、じゃあこういう視点もありかも……」 

 相川の発言をきっかけに、ぽつりぽつりと他の意見が出てくるようになった。
 活発になった議論を聞く合間に、相川と目が合う。
 次の瞬間、微かに目配せされたのは錯覚ではないと思う。
 濡れたような黒い瞳が二度三度揺れた。ふっと相川と自分との間にだけ、見えない糸が渡されたような気がする。

  ――まとめるのはそっちで進めて。  

 そう言いたげな視線だった。  

 それからしばらくグループワークが続いたが、俺と相川のコンビネーションはなかなか良かったと思う。
 俺が全体の議論を進め、停滞したタイミングで相川が呼水になるような意見を出す。
 本質を理解していなければできないポジションだ。おかげで、かなりやり易かった。  

 実際、研修最終日にグループが名指しで褒められるくらい、成果はあった。

 最初はどうなることかと思った相川とも、普通にコミュニケーションが取れるようになってきた。
 もっとも、世間話や雑談にはほとんど乗ってこないから、元々そういうタイプなのかもしれない。

 こんなに美人だから、愛想よくして嫌な思いでもしたのかもな……なんて、安易に考えていた。


 新人研修が終わり、俺は営業部に配属された。
 相川も同じ営業部だった。彼女はアシスタントだったけれど、同じポジションでないのはちょうど良い。
 同じ営業部員だったら成績で争わねばならないから。

 いつか一人前になったとき、彼女と組んだら仕事が捗りそうだなと考えていた。
 それだけ研修中に彼女を信頼していたとも言える。

 必要以上に喋らないところも、もはや美点と感じるようになっていた。

 なぜなら、あまりにも誘いが多いからだ。女性社員からの。
 同期には研修中から声を掛けられていたものの、「さすがに帰って明日の準備しないとやばそうだから」と適当に言い訳を作って断っていたが、先輩社員となると無碍に断るのも難しい。

 社内の人間関係もわからないまま地雷を踏みたくなかったし、そもそも声をかけてきた人がどこの部署の誰かもわからない。
 そんな状態でよく声をかけられるなと思うけれど、どこにでも押しの強い女子はいるようだ。

 それにしても、社会人になってもそういうところは学生時代と変わらないんだな、とどこか冷めた目で見ている自分がいた。
 学生時代は、飲みに誘われれば即答で応じていたし、少しいいなと思った子に告白されれば、迷わずOKしていた。きちんと付き合った人もいれば、その夜限りの関係で終わった子もいる。
 その差は、相手がどちらを求めているかだけで、自分はどちらでも良かった。


 社内で声をかけられるたび、向けられる視線の温度で気づく。それは学生の頃に覚えた感覚と同じだ。ただ、母親から受け継いだ日本人離れしたこの骨格だけを愛でたがっている。

 中学に入ったころからするすると俺の背は伸び、手足のバランスもよく成長していった。
 その頃から、異性に告白される頻度が増えていった。
 クラスメイトの場合もあれば、名前も知らない先輩や下級生から突然呼び出されることもあった。

 あまりに毎日呼び出されるから、友人たちが「糸川への告白は何日連続で続くか」なんて賭けていたこともあった。
 今思えば最低だけど、嗜める気にもならなかったのは、あまりにも『俺を知らない女子』からの告白が多かったからだ。

 もう少し歳を重ねれば、好意を伝えてくれるだけでも多少感謝できるようになったけれど、当時は「俺のことなんて何も知らないくせに」という気持ちが強かった。
 そしてその思いは、今も自分の根底に燻っている。 

『自分好みの外見の彼氏が欲しい』
 そういう理由で告白してきた女の子たちは、たとえOKしても、去っていくのも早かった。
 「イメージと違った」とか「もっと優しいと思った」とか、勝手に期待されることばかりだ。  

 その反動もあって、大学時代は思いっきり遊んだ。
 いっそ彼女は作らないと決めて、遊びでいい、と言う子だけを選んだ。

 でもそれも、卒業と同時に終わりにしたつもりだった。
 社会人になれば。大人になれば、きっとまともな恋ができる。
 そんな根拠のない希望を抱いて、社会人になったはずだった。

 そんな根拠のない希望は、配属が決まってすぐ、デスクの上に置かれた中身のない誘いの付箋の中に紛れていった。
 期待していた分、失望は大きかった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?