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第7話
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三十を前にして、ようやく営業部でトップの成績を収められるようになった。
気づけば後輩の方が多くなり、指導役を任されることも増えた。自分の仕事以外にもまわってきた資料に目を通しながら、ボールペンで指摘を書き加えていく。室内の照明を受けて鈍い光を反射するそのペンは、初めて部内トップの成績を収めたときに上司から贈られたものだ。
相川は、仕事の早さと正確さで誰からも信頼されるアシスタントになっていた。
成績の良い先輩たちは我先にと相川に仕事を頼もうとするし、上司は駆け出しの後輩と組ませて、フォローしながらあわよくば育てて欲しいという腹積りもあるようだった。
手が止まった瞬間声をかけようとしても、相川の視線はすぐにデスクに堆く積まれた書類に移ってしまう。喉の奥に声を張り付かせたまま、拳を握って何度もやり過ごした。
いつしか相川はオフィスで穏やかな表情を見せないようになっていた。何かあったのだろうか。
相変わらず右手には同じ指輪がきらめいているから、彼氏と別れたわけではなさそうだが。
それでもクールさはいっそう相川の凛とした振る舞いを際立たせ、社内の人間から羨望の眼差しを向けられていた。
誰にも媚びず靡かないところが、逆に男女問わず憧れの的となっているらしい。
若手社員が「相川さんに話しかけられちゃった!」「私も! 資料持ってたら大丈夫? ってエレベーターのドア開けてもらった!」なんて言い合って喜んでいる。
冷淡に思われていれば否定したくなるし、慕われていれば胸の奥でちりちりと何かが燻る。
相川のことを誰より見ているのは俺なのに、なんて子どもじみた独占欲が吹き出しそうで。
無駄に愛想を振り撒いたりしないし、自分の正しいと思ったことしかしない。そんな相川についた『クールビューティー』なんてあだ名。そんな薄っぺらい言葉で表せるような人じゃないのに、と辟易する。
――けれどじゃあ、相川は彼氏の前ではどんな顔をするんだろう。
華奢な指に煌めくリングが視界に入るたび、知らない男の腕に抱かれる相川の姿が思い浮かんでしまう。
自分の脳裏に浮かんだ自分の妄想上の相川を必死に打ち消すのだった。
営業部しか知らない俺には比べるべくもないけれど、他の部署よりだいぶ殺伐としているらしい。竹を割ったような上司が多く、比較的風通しの良い部である反面、眼に見える数字を意識せざるを得ない分、自ずと競争意識が煽られるからかもしれない。
営業部は奥に部長席、それから大きな島が三つあって、俺は一番窓際、相川はほぼ対角線上の入り口側にデスクがある。
黙々と仕事をこなすアシスタント陣の会話は、昼休みでもない限り聞こえてこなかったのに、今年に入ってから様子がおかしい。
新卒で入ってきた吉野という女性社員が、四六時中甲高い声で喋っているからだ。
まだ高校生といっても通用しそうなほどの童顔で、小柄な女性社員だった。
ただ身長と反比例してとにかく声が大きい。しかもキンキンと響く針金のような声質のせいで、会話がフロア中に筒抜けだった。
特に意識しなくても話が聞こえてくるのだが、毎回あまりに頓珍漢な質問ばかりしているから大丈夫だろうか、とこちらまで不安になってしまう。
普通に考えたら入社試験で落とされるだろ。
パスしているということは、縁故採用なのかもしれない。そう思ってしまうほど、彼女は営業部内で浮いていた。
気づけば後輩の方が多くなり、指導役を任されることも増えた。自分の仕事以外にもまわってきた資料に目を通しながら、ボールペンで指摘を書き加えていく。室内の照明を受けて鈍い光を反射するそのペンは、初めて部内トップの成績を収めたときに上司から贈られたものだ。
相川は、仕事の早さと正確さで誰からも信頼されるアシスタントになっていた。
成績の良い先輩たちは我先にと相川に仕事を頼もうとするし、上司は駆け出しの後輩と組ませて、フォローしながらあわよくば育てて欲しいという腹積りもあるようだった。
手が止まった瞬間声をかけようとしても、相川の視線はすぐにデスクに堆く積まれた書類に移ってしまう。喉の奥に声を張り付かせたまま、拳を握って何度もやり過ごした。
いつしか相川はオフィスで穏やかな表情を見せないようになっていた。何かあったのだろうか。
相変わらず右手には同じ指輪がきらめいているから、彼氏と別れたわけではなさそうだが。
それでもクールさはいっそう相川の凛とした振る舞いを際立たせ、社内の人間から羨望の眼差しを向けられていた。
誰にも媚びず靡かないところが、逆に男女問わず憧れの的となっているらしい。
若手社員が「相川さんに話しかけられちゃった!」「私も! 資料持ってたら大丈夫? ってエレベーターのドア開けてもらった!」なんて言い合って喜んでいる。
冷淡に思われていれば否定したくなるし、慕われていれば胸の奥でちりちりと何かが燻る。
相川のことを誰より見ているのは俺なのに、なんて子どもじみた独占欲が吹き出しそうで。
無駄に愛想を振り撒いたりしないし、自分の正しいと思ったことしかしない。そんな相川についた『クールビューティー』なんてあだ名。そんな薄っぺらい言葉で表せるような人じゃないのに、と辟易する。
――けれどじゃあ、相川は彼氏の前ではどんな顔をするんだろう。
華奢な指に煌めくリングが視界に入るたび、知らない男の腕に抱かれる相川の姿が思い浮かんでしまう。
自分の脳裏に浮かんだ自分の妄想上の相川を必死に打ち消すのだった。
営業部しか知らない俺には比べるべくもないけれど、他の部署よりだいぶ殺伐としているらしい。竹を割ったような上司が多く、比較的風通しの良い部である反面、眼に見える数字を意識せざるを得ない分、自ずと競争意識が煽られるからかもしれない。
営業部は奥に部長席、それから大きな島が三つあって、俺は一番窓際、相川はほぼ対角線上の入り口側にデスクがある。
黙々と仕事をこなすアシスタント陣の会話は、昼休みでもない限り聞こえてこなかったのに、今年に入ってから様子がおかしい。
新卒で入ってきた吉野という女性社員が、四六時中甲高い声で喋っているからだ。
まだ高校生といっても通用しそうなほどの童顔で、小柄な女性社員だった。
ただ身長と反比例してとにかく声が大きい。しかもキンキンと響く針金のような声質のせいで、会話がフロア中に筒抜けだった。
特に意識しなくても話が聞こえてくるのだが、毎回あまりに頓珍漢な質問ばかりしているから大丈夫だろうか、とこちらまで不安になってしまう。
普通に考えたら入社試験で落とされるだろ。
パスしているということは、縁故採用なのかもしれない。そう思ってしまうほど、彼女は営業部内で浮いていた。
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