初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第7話

6

 相川に近づくと、彼女の頬にますます赤みが差したように見えた。
 それが願望でないことを確認したくて、さらに一歩距離を詰める。
 相川の全身が強張ったのがわかって、自分の肌が突き刺されたようだった。

 ぐっと拳を握って、手のひらに爪を立てる。
 鈴木の彼女……はよく知らないけれど、相川みたいな美人はやっかまれる。
 吉野が何を企んでいるのか知らないが、ただの噂に油を注ぐ可能性だってある。 

 そしてどんな理由であれ、俺は相川が苦しむところはみたくない。
 ――たとえ自分が嫌われても。

「ああでもいいのか。彼氏がいるんだもんな。せめて彼氏には誤解されないように気をつけろよ。お前と付き合うなんて相当変わり者だろうけどな。そんなだせーリング贈ってくるなんて」

 ここまで言ったら、相川だって鈴木や吉野から距離を取るのではないか。そう思っただけだった。
 だけど――。

「彼氏なんていませんけど!」
「……は?」

 予想外の返答に、目を見開いた。
 耳の奥で、甲高い金属音のような音が響いた。
 そして騒がしいはずの居酒屋の喧騒が、遠ざかっていく。
 自分の心音だけが、やけに大きく聞こえた。

「だって、お前……指輪……」

 しんと静まっているはずの脳内が、正常な動作を躊躇っている。
 驚きで、途切れ途切れの単語しか出てこない。

「これは自分で買ったの!」
「は、自分で?」
「なによ、悪い?」

 不信感を思いっきり顔に出してしまったらしい。
 頭が混乱して、理解が追いつかない。
 アルコールを摂取したせいで、自分の理解力が落ちているのだろうか。
 だって、相川に彼氏がいない、なんて。

「いいでしょ、別に自分で買ったって」
「んだよ、そんなことまでして見栄貼らなくても……」
「見栄じゃないし! これは私にとってお守りなの! 自分で欲しいから買ったの!」

 強くこちらを見据える相川の瞳に、涙が溜まっていくのが見えた。
 舌のうえに、とっくに嚥下したはずの酒の苦味が戻ってくる。

 お守り。
 自分で買った。
 彼氏は、いない。

 頭の中を、相川の口から発せられた単語が羅列となってぐるぐる回っている。言葉がみつからず、馬鹿みたいに口を開けたまま佇んでいた。
 呆然としていると、相川が俯いた。
 長いまつ毛が揺れて、透明な雫が溢れ落ちていく。
 ぎゅっと握った白い手に、いっそう力が籠められるのが見えた。

 見栄を張ったのは、自分のほうだ。くだらない嫉妬と、独占欲に苛まれて、相川を傷つけるような言葉ばかりを選んでしまった。
 身体の奥が冷えていく。
 さっきまで感じていたはずの痛みなんて消えてしまった。
 それよりも、泥濘んだ足元に絡め取られそうな感覚が迫ってくる。

「悪かった。言いすぎた」
「……もういい。どっか行って」

 ぐすぐすと鼻を啜りながら言う相川を、そのままになんてできるわけがない。
 泣かせた後悔もあいまって、上手い言葉も見つけられなかった。

「どっか行ってって……さすがに無理だろ」

 ぽろぽろと溢れる涙が、相川のスカートを濡らしている。スーツのジャケットを脱いで、相川の頭にかけた。かすかに触れた相川の顔は、血の気が引いているにも関わらずあたたかかった。
感想 2

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