初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第7話

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 俺も相川も、酔っていたのかもしれない。
 いや俺は酔うほど酒は飲んでいなかったし、記憶も確かだったけれど。
 でも、相川の「彼氏はいない」というただそのひと言で、脳内が酩酊状態になったかのように痺れて、まともな判断力を失ったのは事実だ。

 後戻りできないよう、気が変わらないよう、それだけを祈っていた。
 あんなに急いてホテルに向かったのは初めてだったし、ベッドに押し倒しただけで手が震えたのも初めてだった。


 一向に収まらない震えをごまかしながら、彼女の纏う衣服のボタンを解いていく。少しずつ露わになる皮膚の白さに、まるで夢を見ているような気さえしてくる。
 初めて見る鎖骨の下に、熱い吐息がかかる。それだけで相川の肌が粟立つ。
 はだけたブラウスの合間から、下着に包まれた胸が見えた。
 認識した瞬間、身体中の血が煮え立つように揺れた。
 頭の奥が焼かれる。
 衝動的に、下着から溢れる胸元に唇を寄せていた。

 相川の口から零れる吐息に快感の色が見えて、それだけでえも言えぬ幸福感と満足感に包まれる。
 ただ、あまりに早急にことを運びすぎた。自覚はあったのに、止まれなかった。
 自分の腕のなかで柔らかい彼女が蠢く。相川の喘ぎ声が耳を打つたび、理性が飲み込まれる。
 大事にしたいという願いは、彼女の全部を自分のものにしたい――そんな醜い欲求に塗り替えられていく。触れれば触れるほど奥底から独占欲が湧き上がってきて、抗うことができなかった。

 けれど相川の涙を見た瞬間、全身が凍りついた。滾っていたはずの血が急速に冷えていく。やりすぎた。
 相川の態度が、ほとんど強がりだったことは気づけたはずなのに、自分の欲ばかりを押し付けた。
 悪かった、と何度も謝ってもなかなか泣き止まない相川を見て、後悔の念に押しつぶされそうになる。
 これだけ長い間想い続けたのだから今更焦ることはなかったのに、という思いと、このチャンスを逃したら後悔する、という自分を天秤にかけて、俺は最悪な方を選択してしまったのだ。
 それでも、相川を胸に抱き寄せて薄い背中を撫でると、やがて泣き声が聞こえなくなり、かわりに穏やかな寝息が聞こえ始めた。
 ほっと息をつく。
 まだ頬に張り付いた涙の跡を唇でなぞる。
 泣かせたくせに腕のなかのぬくもりを離し難く、首筋に顔を埋めた。

 朝起きたら、腕のなかにいたはずの相川の姿がなかった。
 一瞬、理解できなかった。呆然とする。
 どれだけ手を伸ばしても、そこにあるのは冷たくなったシーツの感触ばかりだった。
 上半身を起こして室内を見回すけれど、相川の服はおろか鞄も靴もなくなっていた。随分前に相川が出て行ったことをようやく理解する。
 昨晩脱ぎ散らかしたはずのスーツは、丁寧にハンガーにかけてあった。
 相川がかけてくれたのだろう。慌てて飛び出していっただろうに、そういうところは几帳面なのだ。整然と並べられたそのスーツからあ、静かな拒絶が感じられた。

 やはり相当浮かれていたのだ。
 相川は後悔しているのかもしれない。俺なんかと、寝ようとしたことを。
 これから一体どうすれば良いのか。俺の脳内はめまぐるしく動き出す。そうして、何としても相川を逃さない方法を、考えたのだった。

 そうして思いついたのは、我ながら良い案だと思った。
 表向きの俺は、告白を断るのが面倒だから彼女が欲しい。
 相川のメリットは、してみたいという経験をする機会を得られること、そして勝手にまわりの社員が誤解していた「彼氏がいる」という噂を既成事実にしてしまうこと。
 相川にとっても、悪い案ではないと思った。
 しかも相川はお守りと言っていたあの指輪をホテルに忘れていったのだ。それは、神様が残してくれたラストチャンスのように思えた。

 願わくば、本当の恋人になりたかったけれど、今はまだ嘘でもふりでもいい。
 今までより近くにいられれば、それだけで。
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