初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第9話

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 ぽつりと不満を口に乗せれば、本人だけでなく会社への疑問も次々と浮かんでくる。
 普段、考えないようにしていた。でも、今年に入ってから明らかに、私たちアシスタントの負担が増えている。

「今までが恵まれてたのかなって思ったこともあったけど」

 それまで、問題となるような新入社員が営業部に入ってきたことはなかった。それは糸川も感じていると思う。
 新人だから、仕事ができないのは当然だ。皆そういう気持ちで指導している。

「でもああやって開き直られちゃうとね……」
「今日だって、俺が相川と入れ違いで戻ったら、もう吉野いなかったんだけど。まあ会食に着いてこられても迷惑だろうけど」
「そもそも普通に定時になったら帰ったし……」
「は?」
「私は会食の下調べしてて。吉野さんに全然構えなかったんだけど。そしたら定時になった瞬間、『お疲れさまでした~』って」
「まじかよ。ありえねえだろ」

 そもそも、謝罪もお礼も言われていない。まあ謝罪……は私ではなく佐藤さんにすべきだけど。でもよく考えれば、電話は私が途中で無理やり変わったわけだから、佐藤さんにも謝罪はしていない。
 ひたすら「どうしましょう」「私は言われた通りにしただけなのに」と繰り返していただけだ。暗に佐藤さんの指示出しが悪い、とでも言いたげな口ぶりで、みんなさすがに無視していた。

「そもそも、直接メールや電話はしないように指導してるはずなのに、なんで連絡取ってたのかも謎だし……」

 おそらく週明け、私も上司に事情を確認されるはずだ。気が重い。

「もうはっきり言った方が良くないか?」
「はっきりって?」
「使えないって」
「言いたいけど……ダメでしょ……。一応こっちには育てる責任もあるし」
「このままじゃ、いつか大事になるぞ」
「……今回だって十分大事なんですけど」

 ため息を吐きながら、自分のマグカップを引き寄せる。けれど飲む気にはならず、持ち手を指先でつついて、膝に顔を伏せた。

「……ライブ、行きたかった」
「そうだな。楽しみにしてたもんな」
「うん。しかも今回、チケット取りにくかったらしいの。せっかく当たったのに」
「うん」
「あの子のせいで……って思いたくないけど、正直思う……」

 ぽつぽつと思ったことを口にし始めると、とめどなく溢れてきてしまう。

「なんで仕事にここまでしなきゃいけないんだろう」

 そう言って、慌てて口を押さえた。
 自分で今日は仕事を選ぶと決めたのだ。それに、糸川にこんなことを――。

「別にいいじゃん。俺しかいないんだし」
「え?」
「思ってること言えって」

 糸川の手が伸びてきて、私の頭を撫でる。その手に縋るように、私から糸川に近づいていた。
 糸川の手が、頭から離れ、緩く私を抱きしめる。
 しっかりアイロンのかけられたシャツの感触が、私の頬を掠める。微かに聞こえてくる心音が、とくとくと脳内に流れ込んできた。

「えらいえらい」
「子ども扱いしないで……」
「してねーし」

 糸川がこつんと額をぶつけてきた。息がかかるほど近い。

「子ども扱いなんて、するつもりねーよ」
 
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