初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第10話

6

 そもそも、相川はあまり甘いものを食べない。
 それは何回も食事やデート――だと俺は思っている――を重ねていくうちに、気づいた。
 鮮やかな色のアイスクリームが並ぶショップを通りかかったとき、じっとショーケースを眺めているから「食う?」と聞けば、大きく首を横に振っていた。映画を見に行くときも、ポップコーンは絶対食べないし、カフェに行ってもスイーツはおろか甘い飲み物も頼まない。だいたい紅茶。たまにコーヒーかハーブティー。
 うちでプリンを美味しそうに食べてくれたから苦手……ということはないと思うけれど、その点は徹底していた。
 もう少しふっくらしていても、全然良いのに。
 今だって十分抱き心地は良いけれど……と当たり前のように相川の身体を抱きしめたときの感触が蘇ってしまい、慌てて脳内から消し去った。

「先輩、私にだけありがとうございます~!」
 
 周囲に聞こえるような大声で叫ばれて、げっそりする。せっかく相川のことを考えていたのに。
 たったこれだけの会話で、なんなら仕事より疲れた。
 
 吉野と社外で会う気は毛頭ないし、二人きりにもなりたくない。
 となると、必然的に休憩中のリフレッシュルームが顔を合わせる場になった。

 吉野はいつも真ん中の大きなテーブルに、一人で座っている。多分、社内に友人と呼べる存在もいないのだろう。
 コンビニの麺を啜っている吉野の横に、コーヒーとゼリー飲料を持って座る。

「先輩! お昼、それだけですか?」

 心配そうにこちらを覗き込んでくる吉野に、苦笑いで返す。

「ちょっと忙しくて。まあでも朝はちゃんと食べたから」
「えーっ。彼女さんは心配してくれないんですかあ?」

 間延びした声に内心余計なお世話だよ、と返す。別に相川に料理を作ってほしいと思ったことなんてない。むしろ俺の作ったものだけ食べていてほしいくらいだ。

「それよりさ……ちょっと通したい仕事があるんだけど――」

 吉野の後ろについている人間を炙り出すための案だった。偽の営業計画を餌に、吉野から情報を聞き出すつもりだった。
 耳元に口を近づけると、吉野の手が止まる。
 声を顰めわざと不安そうな声音で、話し始めた。商談の相手が大きいので、このままでは部内決済が降りないかもしれない。社内で誰か企画の後押ししてくれそうな人はいないか――という内容の相談だ。
 ちなみに、大口の企画を用意しているのは本当だ。別に、誰かの後押しがなくても、次回の営業部会議は自力で通すつもりだが。
 すると吉野の目が大きく見開かれた。そして、まるで勝ち誇ったようににんまりと笑みを浮かべる。

「オーケーです。明日、お話ししましょう」

 そう言う吉野の声は、いつもとは違ってひどく妖艶で、お前、小声でも喋れるんじゃねーかと全力で突っ込んだのだった。
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