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第11話
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「でもまあ、そろそろ飛ばされると思うから」
「え?」
あっさり言い放った糸川に、目を瞬かせる。すると糸川は得意げに口端を引き上げた。久しぶりに見る表情だった。
「今日、吉野があっちの副社長とデートしてる店に、社長を送り込んでやったから、そろそろ鉢合わせしてるんじゃね?」
「え……?」
一体どうやったら社長まで動かせるというのか。
疑問でいっぱいの私に、糸川はさらりと説明してくれた。
最近A社絡みで社長と同席することが多かったから、社長秘書を取り込んだらしい。
吉野が今日、件の副社長とホテルで会うと聞いていた糸川は、社長夫妻にデート会場としてすすめたらしい。
吉野がいつも副社長と会っているのは、最近リニューアルした海沿いの高級ホテル。そこの最上階ラウンジだそうだ。
「いや、でも遭遇するかどうかはわからないんじゃない……?」
「今日、花火大会があって、そのラウンジの一部分から見えるんだって。角度的に窓際は五席くらいしかないらしい。さすがにそれだけ近くにいたらわかるだろ」
たとえ花火が上がってても、あの金属みたいな声なら貫通するだろうしな、と糸川はまた笑みを深めた。
「策士だね……」
「まあなー。もうそろそろ我慢ならなかったし。社長の元にも匿名の投書が届いてるらしいから、さすがに動くだろ」
糸川はここしばらく、吉野から情報を聞き出すのと、社長への根回しに奔走していたそうだ。
「そのために吉野さんに近づいてたの……?」
「当たり前だろ。理由がなきゃあんなのに近づかねえっての。まあ相川は信じてなかったみたいだけど?」
「だから信じてなかったわけじゃない、けど……」
不安に駆られたのは事実だ。
「まあ相川には説明しとけばよかったよな。でも上手くいくかわからなかったし。ちゃんと解決してから、言おうと思ってたから」
じっと糸川がこちらを見つめる。その視線が熱を帯びていて、慌てて口に含んだパスタを咀嚼した。
「ずっと前から、相川のことが好きだ」
今までにないくらい明るく微笑まれた。その屈託のない表情につられて、胸がどきどきと鳴っている。
夢を見ているのではないか、と思った。
言葉の意味を理解して、口元を手で覆う。瞼の裏が熱い。
「は、初めて聞いた……」
「は? 言ってんだろ、最初から」
「言ってない! 今……じゃなくて、今日、初めて聞いた」
「そうだっけ……。まあ返事は急がなくていいから。ゆっくり食えよ。俺、相川に作ったもの食ってもらうときが一番嬉しい――」
「私も、好き」
迷いなく、言葉が溢れていた。
カトラリーに伸ばしかけた糸川の手が止まる。
「え……?」
「いつからかわからないけど、私も好きなの」
顔が熱い。好き、だなんて他人に初めて言った。自分の心臓が破裂しそうな音を立てている。
「マジか……」
糸川の口から漏れた声が落ちた。
間違っただろうか、と不安になっていると、糸川が天を仰いだ。
「やば。めっちゃ嬉しい」
そう言って、こちらを向くと照れたように笑った。その表情を見た瞬間、気持ちが溢れて胸がいっぱいになる。
視界が滲んだ。目尻に浮かんだ涙を拭う。
今更不器用に小さく笑う私たちの間には、食べかけの料理が中途半端に残っている。レタスにトマトにレモン。色とりどりの野菜が透明な雫の向こうで一際輝いてみえた。
「え?」
あっさり言い放った糸川に、目を瞬かせる。すると糸川は得意げに口端を引き上げた。久しぶりに見る表情だった。
「今日、吉野があっちの副社長とデートしてる店に、社長を送り込んでやったから、そろそろ鉢合わせしてるんじゃね?」
「え……?」
一体どうやったら社長まで動かせるというのか。
疑問でいっぱいの私に、糸川はさらりと説明してくれた。
最近A社絡みで社長と同席することが多かったから、社長秘書を取り込んだらしい。
吉野が今日、件の副社長とホテルで会うと聞いていた糸川は、社長夫妻にデート会場としてすすめたらしい。
吉野がいつも副社長と会っているのは、最近リニューアルした海沿いの高級ホテル。そこの最上階ラウンジだそうだ。
「いや、でも遭遇するかどうかはわからないんじゃない……?」
「今日、花火大会があって、そのラウンジの一部分から見えるんだって。角度的に窓際は五席くらいしかないらしい。さすがにそれだけ近くにいたらわかるだろ」
たとえ花火が上がってても、あの金属みたいな声なら貫通するだろうしな、と糸川はまた笑みを深めた。
「策士だね……」
「まあなー。もうそろそろ我慢ならなかったし。社長の元にも匿名の投書が届いてるらしいから、さすがに動くだろ」
糸川はここしばらく、吉野から情報を聞き出すのと、社長への根回しに奔走していたそうだ。
「そのために吉野さんに近づいてたの……?」
「当たり前だろ。理由がなきゃあんなのに近づかねえっての。まあ相川は信じてなかったみたいだけど?」
「だから信じてなかったわけじゃない、けど……」
不安に駆られたのは事実だ。
「まあ相川には説明しとけばよかったよな。でも上手くいくかわからなかったし。ちゃんと解決してから、言おうと思ってたから」
じっと糸川がこちらを見つめる。その視線が熱を帯びていて、慌てて口に含んだパスタを咀嚼した。
「ずっと前から、相川のことが好きだ」
今までにないくらい明るく微笑まれた。その屈託のない表情につられて、胸がどきどきと鳴っている。
夢を見ているのではないか、と思った。
言葉の意味を理解して、口元を手で覆う。瞼の裏が熱い。
「は、初めて聞いた……」
「は? 言ってんだろ、最初から」
「言ってない! 今……じゃなくて、今日、初めて聞いた」
「そうだっけ……。まあ返事は急がなくていいから。ゆっくり食えよ。俺、相川に作ったもの食ってもらうときが一番嬉しい――」
「私も、好き」
迷いなく、言葉が溢れていた。
カトラリーに伸ばしかけた糸川の手が止まる。
「え……?」
「いつからかわからないけど、私も好きなの」
顔が熱い。好き、だなんて他人に初めて言った。自分の心臓が破裂しそうな音を立てている。
「マジか……」
糸川の口から漏れた声が落ちた。
間違っただろうか、と不安になっていると、糸川が天を仰いだ。
「やば。めっちゃ嬉しい」
そう言って、こちらを向くと照れたように笑った。その表情を見た瞬間、気持ちが溢れて胸がいっぱいになる。
視界が滲んだ。目尻に浮かんだ涙を拭う。
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