初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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エピローグ

エピローグ

「湊!」

 改札前で立っている湊は、人目を引いていた。
 通りかかる女の子たちが、ちらちらと彼を見ながら通り過ぎていく。
 だからつい、遠くから大きな声で呼んでしまった。

 湊は私の声に、ぱっと顔を上げると甘い笑みを浮かべた。
 それでまたまわりの女の子たちから静かな歓声が上がった。
 気にせずに、足を速めた。首元のチェーンが揺れる。シンプルな鎖に通したリングを揺らしながら、湊の腕に飛び込んだ。

「お待たせ」
「楽しかったか?」
「うん! 今日もミトは可愛かった~!」

 どんな曲を歌ってくれたとか、どの振付が好きだとか、最後の衣装が特に可愛かったとか、延々と喋り続ける私の話を、湊は「へー」とか「ほー」とか適当な相槌を打ちながら聞いている。

「もう、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「本当に?」

 何度も訊ねる私に苦笑して、湊は繋いだ手を引っ張った。
 そのまま薬指を撫でられた。
 シンプルなシルバーリングと肌を馴染ませるように触れながら、

「実鈴がミト推しなのはわかってるけどさ、俺にとっては実鈴の方が可愛いんだから、仕方なくね?」

 当然、というように言われて、耳まで熱がまわるのを感じる。

「もう」と言いながら、絡め合った指にぎゅっと力を込めると、握り返される手の力もまた強まった。

「そういえばさ、吉野、やっぱり辞めるって」

 湊が人事部の同期から聞いたという情報を教えてくれる。
 詳しいことは伝えられなかったけれど、湊の作戦が成功したのか、あの週明け以降、吉野は出社していなかった。表向きは体調不良で休職、ということになっていたけれど、どうやら支社への出向を提案され、それを渋っていたらしい。
 結局それを断った吉野はそのまま退職、となるようだ。

「そうなんだ……」

 正直言って何の感慨も浮かばなかった。彼女を入社させた社長に幻滅したし、指示だとはいえ吉野を守ろうとした上司にも、がっかりした。
 でもだからと言って会社を辞めるわけにはいかないし、私の毎日は変わらない。
 私は相変わらず職場で仲の良い友人もいないし、取っ付きづらいと思われているけれど、湊のおかげで仕事に集中できる環境が守られる。
 それだけで私は十分だった。

 私の会社への複雑な思いを察したのか、湊はがらっと話題を変えてきた。

「そういえば、ミトの衣装見たけど」
「え、見たの?」
「ん。この前実鈴が可愛いって言ってたPVのやつ」
「うんうん」
「あれ、実鈴が着ても似合いそうだよな?」
「……はい?」

 私が可愛いと言ったPVは、制服のブレザーを模したようなチューブタイプのトップスにミニスカート、ロングブーツという衣装だったはずだ。当然お腹は丸見えだし、首元も開いている。

「いやいや絶対に合わないでしょ」
「似合うって。彼氏の俺が言うんだから間違いない」
「そんなわけないでしょ」

 一般人、アラサーの私が着ていい服じゃない。

「別にいいじゃん。俺しか見ないんだから、着てみてよ」
「無理無理。ていうかそもそも衣装なんて手に入らないでしょ」

 アイドルの衣装なんて、特注に決まっている。
 そうたかを括っていたのだけれど、湊はふーんと楽しそうに頷いた。

「じゃあ、似たやつ探す。絶対」
「ちょっと!」
「良くない? 彼女の可愛いカッコ見たいって思うのは普通だろ」
「やめてよ、おじさんみたいなこと言うの」
「はあ!? 同い年だろーが」
「知ってるけど! そういう意味じゃないの!」

 しっかりと手を繋ぎながら、ぎゃあぎゃあと言い合う私たちを、通りすぎる人たちが不思議そうに眺めている。

「仕方ねーじゃん。俺にとっては実鈴が一番可愛いんだから」

 何の衒いもなく言う湊を見つめ、「まあ……そこまで言うなら考えなくも、ない……」と根負けしてしまう私は、やっぱり甘い。

「マジで!?」

 ぱっと顔を輝かせる湊の顔に若干の後悔が浮かばなかったといえば嘘だ。
 でも、満開の花畑を思わせる笑みを向けられては、恥ずかしいけど幸せだからいいか、と思ってしまう。
 指先で互いの左指に嵌められたリングを転がしながら、身体を寄せ合った。
感想 2

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みんなの感想(2件)

あわま
2026.02.15 あわま

いつも更新ありがとうございます。
日々の更新にハラハラしたりイライラしたりウキウキしたりとすっかり物語の世界にハマっています。吉野、社会人としてあまりにも先輩を舐めすぎてませんか??それを許す会社にも腹が立って仕方ないです。実鈴ちゃんの学生時代の事なんて会社には1ミリも関係ないのに。
糸川も糸川です!全然実玲ちゃんの為になってない。どう見られてるのかわからないのかな〜。
実鈴ちゃんを応援するつもりで♡ポチポチ押してます。
糸川、男としてしっかりして!
更新楽しみにしています。

2026.02.16 萩野詩音

こちらこそ、いつも読んでいただきありがとうございます!反応いただけてとても嬉しいです♡
シゴデキのはずなのに、実鈴が好きすぎて空回る糸川です……が、残りわずかなので、最後までお楽しみいただけますように……!

解除
あわま
2026.02.06 あわま

はじめまして。
2人の会話が大好きです。糸川が実鈴ちゃんをどう囲っていくのか更新のたびワクワクしてます。
これからも大切に読ませていただきますね。
応援してます٩( 'ω' )و

2026.02.07 萩野詩音

ありがとうございます!
なかなか素直にならない二人ですが、ジレジレっぷりも含めてお楽しみいただけたら嬉しいです!

解除

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