桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

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こんな田舎は嫌だ (輝衣 過去)

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 こんな田舎は嫌だって、小さな頃からずっとそんなことを思っていた。

 見渡せば果物畑など緑ばかり、スーパーなど買い物をする所も遠いし、遊ぶといっても外か家の中、冬になれば雪が多くて大変。

 おやつは果物ばかりだし、食事だって家の畑や近所からおすそ分けされた野菜が中心でパッとしない。

 あーあ、都会に住んでいる子みたいにカラオケに行ったりファミレスやファストフード店なんかでおしゃべりしながら美味しい食べ物や飲み物を食べて飲んでとしたいなぁ……


 そんな憧れから、親の猛反対を押しきって都会にある高校に進学した。

 仕送りも最低限だし、何より反対されたから学費の安い定時制にしか行けなかったけど夢だった都会に出る事ができた。

 しかし田舎者のあたしは、地味でファッションや流行りの物も分からず、クラスに馴染めずにいた。

 話しかけてくれる人もいるが、訛りからかキツイ喋り方で怖がられたり、話題についていけず、いつの間にか輪から外れていたりと、思っていたのとはかけ離れた都会での生活を送っていた。

 とにかく仕送りだけでは足りないのでアルバイトを掛け持ちでしたりと、忙しくしているうちに、一年、また一年と過ぎ、気付けば高校三年生、結局都会に出てもあたしの生活は劇的には変わらず空しい日々が続いた。

 友達も出来ないし、唯一の楽しみといえば、たまにご褒美として食べるファミレスのご飯やハンバーガーくらい。

 クラスメイトとは慣れてきたので話はするけど、定時制に通う生徒だからか、みんなプライベートも忙しそうにしている人が多く、暇そうにしている人は…… ちょっと不良っぽくて怖くて近付けない。

 しかも最近知ったのだが、ここはあたしが住んでいた所よりは都会だが、どちらかといえば都会から外れた田舎だったみたいで、遊びに行く所も少ないらしい。

 だから余計に遊びに誘われない理由になっていたとは…… 三年生になって初めて知った事実だった。
 あたしからしたら十分都会なんだけどなぁ。

 そして、卒業したら大人しく実家に帰ろうと思っていたある日、バイト先で出会いがあった。

 大学生のバイト先の先輩に誘われ、賑やかな繁華街に遊びに行った時、彼と出会った。

 先輩と同じ大学の友達らしく、少しチャラチャラしていたが、爽やかな青年って感じの人だった。

 話も上手くて、地味だったあたしの事も可愛いと言ってくれて…… 初めてあたしは恋をした。

 それから彼と連絡を取り合い、何度か遊びに連れてってもらって…… 彼とお付き合いを始めた。

 好きだったから彼の好みに合わせてファッションやメイクを勉強してデートに行ったり、彼が喜ぶような物をプレゼントしたり…… 

 初めての彼氏だったのもあるし、思い描いていたような都会の生活を送ることができて、あたしはのめり込むように彼との予定を優先した結果、学校もサボりがちになってしまった。

 幸い単位は足りていたが、出席日数がギリギリになってしまったが、その時はそれでも良かった。

 ただ…… 身体の関係になるのはまだ怖くて、やんわり拒んでいたのが良くなかったのかな? 一ヶ月もしないうちに、彼からの連絡の頻度が少なくなってきた。

 最初は大学が忙しいのかと思ったが、遊びに行った時の違和感で、その日の帰り、あたしは彼のあとをつけてみると…… 

 黒髪で綺麗なお姉さんと待ち合わせて楽しそうに腕を組んで歩いていく彼を見てしまった。
 そして二人はそのままホテルの中へと入っていった……


 夢のような都会での生活が、光を失いガラガラと崩れていったような気がした。
 家に帰って、泣いて、後悔して、そうしているうちに段々と彼に対して怒りが沸いてきた。

 あたしは彼のために、彼の好みの女の子になるためにこんな露出の多い恥ずかしい格好をしていたのに! メイクだって髪色だって……

 そしてあたしは彼と別れるために話をつけようと呼び出したら

「俺、ギャルより清楚系が好きなんだよね」

 ……はっ? おめー、なにいってんだ? おめーがギャル好きっていったんだべ? バカでないの!? 

 ふん! 頭に来た! 可愛いくなってぜってー見返してやるからな!

 そして彼に別れを告げたあたしは、トボトボと家に帰っていると、帰り道に一軒の団子屋を見つけた。

 普段この道は使わないから知らなかったけど、団子屋かぁ…… おっ母がたまに作ってくれた団子、久しぶりに食べたいなぁ…… よし、ついでだから団子を買って帰ろう! 

「いらっしゃいませー」

 へっ? あっ…… クラスで『団子バカ』って言われてる吉備がいる! 
 へぇー、吉備の家が団子屋だっていうのは聞いていたけど、こんな所にあったのか。

 ふーん、他の従業員もいて…… 若い女性が二人と吉備だけ? あれ? 確か両親が店をやってるとか……

 あの娘、可愛い顔をしていて背が低いのに、デカいな……
 もう一人は店の中なのにサングラスとマスクをして怪しい…… だけどスラッとしてスタイルがめちゃくちゃいいのが分かる。

 こんな女の子達と仕事してんのかぁ…… 団子バカとか言われてたけど、あたしより吉備の方が充実した生活をしてんじゃないのか?

 ……んっ? 怪しい女性がサングラスを外して汗を拭いている。

 あれ? どこかで見たような……

『HATOKOじゃん! 復帰したんだー! 綺麗になったな』

 あのクソバカ男が言ってたグラビアアイドルだ!! 最近芸能界に復帰して、綺麗なったと話題の……

 これはもしかしてチャンスなのでは? 吉備に紹介してもらって、最先端のファッションやメイク、美容の秘訣を教えてもらえば…… アイツを見返せる!!
 
 よし! 今は忙しそうだから、明日学校で吉備に頼んでみよう! とりあえず団子は買って帰ろ。
  
「またな、吉備」

 会計をして挨拶したが、アイツ、あたしに気付いてないな? ……最近学校サボりがちだったし、一ヶ月くらい前はまだ地味な格好していたから分からなかったのかもしれないな、まあいいや。



「っ!? ……美味っ」

 帰ってから団子を一口食べてみると、驚くほど美味かった……

 シンプルな団子のはずなのに、食感と味は格別、あと…… 懐かしさを感じて、荒んでいた心が癒されるような団子だ。

 ……あれ? なんであたし、泣いてるんだ? うぅっ! 涙が溢れてくる…… 止まれ! せっかく美味しい団子なのに…… 


 その後すぐに吉備とHATOKOに会わせてもらう約束をした、あのアホ男を見返すためのアドバイスをもらうつもりだ。

 しかし、それよりも吉備と作った団子が気になっている自分がいた。

 泣いてある程度スッキリしたのか、アドバイスよりも帰りに団子をいくつ買って帰ろうか、なんて考えてしまっていた。

 しかし、アドバイスをもらえる状況じゃなくなった! 吉備のやつも二股ヤローだったなんて!

 あたしの目の前でこれ見よがしに二人を両サイドに侍らせているし、HATOKOや吉備の幼馴染も満更じゃなさそうにピッタリとくっついてやがる!

 あぁ、もう! どいつもこいつも……

 すると吉備の幼馴染が団子を持ってきてくれた。
 えっ? タダでいいの? しかも好きなだけ食べていいって!? やったー! へへへっ、いただきまーす!

 ……HATOKOと幼馴染があたしの食べているところをジーっと見てる。

 うん、やっぱり…… 美味しい…… やべっ、また泣きそうになってきた。

 安心する味ってこういうのを言うのかな…… はぁ、お父とおっ母に会いてぇな。

 あぁ、くそぅ…… ぐすっ、涙が出てきた。

「ふふっ」

「うふふっ」

 な、何だよ二人とも! ……笑顔なんだけど、目がちょっと怖いんだよ!

 でも、二人に色々言われて気が付いた。
 やっぱりあたし、無理してたんだ。

 夢だった都会暮らしも上手くいかず、あげくに変な男に引っ掛かって…… 大人しく田舎に居れば、こんな思いをしなくて良かったのに。

 でも不思議だ…… この団子を食べていると、少しだけ幸せな気分になる、綺麗になって見返すとかもどうでも良くなって……

 すると、吉備を残して二人に別の部屋に連れて行かれたあたしは……
 
「で、ここからが大事なお話なんですけど、私に綺麗になる秘訣を聞きたかったんですよね?」

「……ああ、だけど今は何だかどうでもいい気分だけど」

「ふふっ、猿ヶ澤さん、もし良ければ桃くんのおだんご、食べてみない? きっと浮気した彼氏なんかどうでも良くなるし、もっと幸せになれるよ?」

「団子? いや、今食べたけど……」

「うふふっ、桃太さんのおだんごはもっと美味しいですよ?」

「私達もやみつきなんだぁ、だからね? 私達と一緒に『桃くんのおだんご』食べよ?」

 何の話かは分からなかった。

 団子? やみつき? 幸せになれる……

 えっ? ちょっと、そこはご飯を食べるような場所じゃ…… えっ? 吉備!? えっと…… あぁっ!! な、な、何してんだよ! えっ、あっ…… すごっ……

 綺麗……


 あ、あたし!? い、いや、遠慮しとくよ! えっ、あっ、やめっ…… あぁぁっ!!


 







 ◇


「おーっす!おはよう、今日からバイト、よろしくな!」

おはよう、今日からで…… 大丈夫なのか?」

「おう! 元気と体力だけが取り柄だからな!」

「それならいいけど」

「えへへっ、おはよ、きーちゃん」

「ちい、おはよう」

「うふふっ、おはようございます、輝衣ちゃん」

「みい、今日からよろしく」

 桃太んちで今日からバイトを始めることになった。
 あんな男の知り合いがいるバイト先なんて行きたくないし、桃太と少しでも長く居るために…… な。

 何があったかって? ……ただ、おだんごを食べさせてもらっただけだよ。

 それにしても、ちいもみいも、あたしをダシに使いやがって…… 自分達が美味しくおだんごを食べたかっただけじゃないのか!? ……でも、気持ちは分かるけどな。

 桃太のおだんごを一度食べたら……

 幸せ過ぎて、あたしもすっかりハマっちゃった。

 ……さて、あたしもバイト頑張ってご褒美に、桃太のおだんご、一つ貰わないとな!
 
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