桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

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こんな事では挫けないぞ

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 今日もどうなるかは分からないが、みんなで開店準備をしている。

 昨日の夜、美鳥の不安を和らげるためにみんなで色々と頑張ったので昨日よりかは美鳥の表情は明るい。
 だけどまだ自分のせいだと思っているみたいで、遠慮がちに俺の隣に立っている。

「はぅっ! ……も、桃太さん?」

「また不安そうな顔をしているぞ? ……ほら」

「んっ…… 桃太さんありがとうございます、うふふっ」

 そんな美鳥を抱き締めてあげると嬉しそうに笑った。

「えへへっ、じゃあ私も……」

「みんなずっと一緒だからな!」

 俺に続いて千和と輝衣も美鳥を抱き締める。
 旅行によって更に固い絆で結ばれた俺達はこんな事では挫けないぞ。

 だけど……

「あんこを一本」

「ありがとうございます……」

 今日も嫌がらせのように黒いスーツの集団は店の前に立っていた。

 さすがにこれ以上営業の邪魔をされると困るので、意を決して外にいる人達に声を掛ける事にしたのだが

「何だ? この店の店主は食事中の客に向かって邪魔だというのか?」

 黒いスーツの男性に取り囲まれ、威圧的な態度でそう言われると、俺はそれ以上何も言えなくなってしまい、諦めて店に戻ると心配した三人に声を掛けられた。

「桃太さん、大丈夫ですか?」

「もう警察に相談した方がいいんじゃない?」

「このままじゃ、今日も大量に売れ残っちゃうぞ?」

 確かにこれ以上売れ残りが増えると消費するのも大変だ。
 しかも黒いスーツの集団が大声を出すから、近所の人達も遠巻きに怯えた表情でこっちを見ていたし、周りにも迷惑をかけてしまう。



 結局今日も売り上げは伸びず、大量に余った団子をみんなで片付ける事になってしまった。

 余った団子を茶の間のテーブルの上に置き、みんなそれぞれ団子に手を伸ばす。

「あむっ、こんなに美味しい団子、もっと色んな人に食べてもらいたいなぁ」

「そうですね…… 私達だけで食べるのはもったいないです」

「ふぅっ、お腹いっぱいだよぉ…… 桃くん、また明日も学校に持っていくね」

 昨日は近所の人達に配って何とか消費したのだが、今日は遠慮したのかあまり受け取って貰えなかった。
 もしかして面倒事に巻き込まれたくないからあまり俺達と関わらないようにしているのか?

 でも、いきなり見慣れない怪しい奴らが店の前に居たら誰だってそう思うか……
 
 みんな口数が少なく重苦しい雰囲気の中、千和が突然立ち上がった。

「こんな時こそみんなで乗り切らないと!」

「いきなりどうしたんだよ、千和」

「えへへっ、みんな元気がないから、気分を盛り上げようと思って、とりあえずみんなでお風呂に入ってさっぱりしない?」

 お風呂? いや、みんなで入るには狭いし、とてもそんな気分には……

「リラックスしたらいいアイデアが浮かぶかもしれないよ? もし浮かばなくてもきっと気分転換になるし」

 ……千和の言う通り、このまま暗くなっているよりはマシかもしれないな。

「よし、じゃあみんなで入るか」

 団子が一日、二日売れなくてもすぐに店が潰れる訳じゃないし、店が奪われる訳でもない。
 営業の邪魔をされてこれ以上悩むくらいなら親父達が帰ってくるまで店を休みにしたっていい。
 

「じゃあ…… えへへっ、桃くんは先に入ってて?」

「えっ? あ、ああ……」

 そう言って千和は美鳥と輝衣にひそひそと何かを話してから三人で俺達の部屋に入っていった。

 一緒に入ろうと言っていたのに先に入ってくれって、何か企んでいるんじゃないかと思いつつ身体を洗っていると……

「おまたせ、桃くん」

「うぅっ…… ちょっと恥ずかしいですよ」

「これなら何も着ない方がマシじゃないか?」 

 ちょ、ちょっと! 今まで大事な所しか隠れていない水着は何度か見た事あるが、今三人が付けている水着? なのか分からない紐しかないもの…… それ意味あるの?

「えへへっ、似合うかな? 今日は私達が疲れている桃くんのために、たーっぷりマッサージしてあげるからね!」

 マ、マッサージ!? ……おい、千和が持っているそのボトルは何なんだ? 

「…………みたらし?」

 なぜ疑問形なんだ? それに美鳥が後ろに隠しているイス…… ちょっと変わった形をしているぞ!

「これは…… とっても座りやすいお風呂のイスです!」

 じゃあ輝衣が抱えているビニールのマットは……

「これはお風呂でくつろぐためのマットだ!」

 いや、その説明は無理があるだろ……

「はいはい、ほら桃太、早く横になれ、マッサージ出来ないだろ?」

 お、おい!

「このみたらし? を……」

 千和! 俺を団子にするつもりか!?

「うふふっ、準備はいいですか?」

 はぅっ! こねこねするんじゃありません!

「へへっ、それじゃあ……」

「マッサージと……」

「お風呂でおだんご作り、始めますね?」

 あっ、あぁぁぁー!! 団子になっちゃうぅぅっ!

 …………
 …………



 ◇


「……明日は誰が担当するんだ?」

「俺が行く、あと女性社員も偵察に来るらしい」

「そうか…… しかし、一本ずつしかたべられないというのは切ないよな」

「ああ、出来れば全種類食べたいんだがな


「俺はあのみたらしをたらふく食べたい」

「そういえばそろそろお嬢様があの団子屋に顔を出すみたいだぞ」

「じゃあそろそろあの団子屋も終わりか……」

「少し残念だがこれも仕事だ、仕方ない」

「明日はこっそりもう少し買ってみるか」

「あの団子を食べられなくなるかもしれないしそうした方がいい、ただお嬢様にバレないようにな」

「分かってる、バレたらタダじゃ済まないからな」



 ◇


 三人による極上のマッサージを受けた後熟睡したおかげか、朝はスッキリと目覚める事が出来た。

 それにしてもあれは凄かったなぁ。
 詳しくは話せないが…… うん、凄かった。
 例えるならみたらし団子の上にみずみずしいフルーツの盛り合わせをまんべんなく乗せたような感じとでも言っておこうか。
 でもそのおかげで最後にはみんな暗い雰囲気が吹っ飛ぶくらい満足して笑顔になれた。

「ふわぁぁ…… おはよう桃太」

「おはよう輝衣、珍しく一番最初に起きてきたんだな」

「ああ、ちいとみいはまだグッスリ眠ってるんじゃないか? いつも以上に食べてたからな」

 そういえば昨日は千和が一番最初に三人ががりでおだんごを食べさせられていたからなぁ…… お腹いっぱい過ぎてダウンした千和を久しぶりに見た気がする。

 その後に輝衣と二人で美鳥に食べさせて、最後に輝衣だったから早く起きてきたのかもな。

「へへっ、桃太ぁ……」

 二人きりだからか、輝衣が甘えるように抱き着いてきてキスをしてきた。
 そして朝からおだんごに手を伸ばし……

「……おはようございます」

「げっ! みい…… お、おはよう!」

「店の準備の前に、こっそり二人で朝からおだんごですか…… ズルいですね」

「だ、だって! ほら、桃太がどうしても食べて欲しそうにしてたから、見てみろよこれ」

「……本当ですね、朝からおだんごを用意しているなんて、桃太さんったら」

「みい、それじゃあ二人で味見しようぜ」

「……仕方ないですね」

 ちょっと、これは準備していたとかではなくて…… あっ、取り出すな! ……あぁっ! 

 
「桃くん、大変! ……何してるのかなぁ?」

「こ、これは、その……」 

「って、それどころじゃないの! これを見て!」

 そして千和が見せてきたスマホの画面を見てみると……

『吉備団子店 評価1』

『ここの店主は買った団子を店先で食べている客に対して邪魔だと暴言を吐くとんでもない店主、二度と行かない』

『店が古くて不衛生に見える』

 など、グルメサイトで吉備団子店を酷評する書き込みが多数されていた。
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