桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

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三人とも大丈夫なのか?

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 ◇

 鬼島グループの副社長であるわたくしをこんな狭くて汚ならしい家に案内するなんて…… この女性達は何を考えているのかしら?

「お団子持って来ましたよー」

 お団子!? 

「うふふっ、もう少しでお茶が入ると思うので待ってて下さいね」

 ……ま、待ってなんかいませんわ! やだ、きっとお団子に釣られてのこのこと家に上がった女だと思われてますわ! わ、わたくしはあなた方がどうしても話をしたいと言うから仕方なく……

「お茶をどうぞ、好きなだけ食べてもいいですからね」

 好きなだけ!? ……そう言うのなら頂かないのは失礼になりますわね。

 じゃあ早速…… んー、どれにしましょうか?  定番のみたらし、あんこ、ごま、フルーツ団子と練乳の組み合わせも良かったですわね。

「えへへっ、じゃあ私は吉備団子店特製のみたらしにしよーっと!」

 特製!?

「私はごまを頂きますね、おすすめですよ」

 おすすめですの!?

「うーん、迷うなぁ…… へへっ、やっぱり実家から送られてくる期間限定のフルーツ団子かな」

 期間限定、素敵な響きですわ!

 えっ、皆さんも食べるんですの!? それではわたくしの分が無くなってしまいますわ、早く食べないと! ……ではわたくしはあんこを頂きましょうか


 ◇


 鬼島副社長が桃くんのお団子を口にした。
 私達は目配せをして黙って様子を伺っていると

「…………ん、ま、まあまあ、ですわね、んぐっ、次は特製のみたらし…… あむっ」

 えへへっ、やっぱり…… 鬼島さん、桃くんのお団子を夢中で食べてる。

「これも、あむっ、まあまあ、むぐっ、ですわ、じゃあおすすめされたのでごまも……」

 美味しそうに食べる様子を見て、美鳥さん、きーちゃんと顔を合わせて頷く。
 間違いない、鬼島さんはもう桃くんのお団子の虜になっている。

「何で…… こんな庶民の食べ物が美味しいんですの? それに、何でこんなに懐かしい気持ちに……」

 鬼島さんの目にうっすらと涙が浮かんでいるのを私達は見逃さなかった。
 桃くんのお団子を食べてこうなったのは四人目、つまり……

「…………」

 鬼島さんは無言になってしまった。
 ただ黙々とお団子を口に運び、何かを思い出したのか涙を流していた。

「鬼島さん…… 吉備団子店のチェーン店化、考え直して貰えませんか?」

 ここが勝負だと思った私は切り出した。
 一瞬驚いた表情をした鬼島さんだったが、すぐに涙を拭っていつもの強気な顔に戻り

「……味も良いし値段も手頃、絶対にチェーン店にした方が儲かりますわ! それこそ鬼島グループの手にかかれば一気に人気店になりますわよ?」

「でもこのお団子は食べれなくなりますよ? あなたの不安を忘れさせてくれる素敵なお団子はもう……」

「わ、わたくしに不安なんてありませんわ! わたくしは鬼島グループの次期社長! お母様の跡を継いで鬼島グループを更に大きくしていかなければならないんですの!! ……っ!?」

 ……じゃあどうして泣いているの? 

 でも大丈夫だよ、そんな不安や焦り…… きっと桃くんの『おだんご』がすべて幸せに塗り替えてくれるから。


 ◇


 んっ? 大きな声が聞こえたけど、三人とも大丈夫なのか?

 お茶を用意しろと言われて、用意したらリビングに居なくていいから二階にある俺達の部屋で大人しくしててと言われ、仕方なく部屋で時間を潰しているのだが、リビングの様子が気になる。

『私達が話し合うから任せておいて』と言っていたがどうするつもりなんだろう。
 ただ団子を食べて終わりってことはないよな?

 それにしても暇だ、部屋の片付けでも…… って、最近は誰かが常に整理整頓してくれているから片付ける必要はないんだよな。

 手持ち無沙汰で何気なくタンスを開けてみたら、見たことのないセクシーな下着や何に使うか分からない謎のグッズを発見してしまい、迂闊にあちこち開けられないし困った。

 すると部屋の外から階段を上がる音が聞こえてきて……

「桃くん、ちょっと入っていいかな?」

「いや、別に大丈夫だけど……」

 いつもなら何も言わずに開けるのに珍しいな、俺が変なことでもしてると思ったのか?

「じゃあ…… どうぞ」

 えっ!? な、何で副社長が俺達の部屋に? 話し合いならリビングで……

「うふふっ、桃太さん……」

「桃太ぁ、へへへっ……」

 お、おい! 美鳥、輝衣!? 副社長がいるのにいきなり抱き着いてくるなんて、一体どういう事だ?

「……本当にここにもっと美味しくて幸せな気分になるお団子がありますの?」

「はい、えへへっ…… とーっても美味しくて、素敵なおだんごですよ」

「ただの狭い部屋にしか見えないんですけど、どこに調理場があるんですの?」

「今、用意しますから、待ってて下さいね?」

 ち、千和!? このパターン、何度か見たぞ? 美鳥と輝衣の時と同じパターン……

「桃太さん、おだんご食べさせて下さい」

「あたしはお腹ペコペコだぞ、へへへっ、オラっ! おだんごの準備をしろ!」

 や、止めるんだ! こらっ、あっ、ダメだって! 

「な、な、何やってますの!?」

「えっ? 何って……」

「……おだんご作り?」

「えへへっ、じゃあ私達が先に食べますから…… そこで見てて下さいね?」

「ば、馬鹿馬鹿しい! わたくし帰りますわ! こんなふざけた店、鬼島グループの力で潰してしまった方が…… きゃっ!!」

「うふふっ…… いいんですか、食べなくても」

「味見だけでもしてけよ、気になるんだろ? あたしも初めはそうだったから気持ちは分かるぞ」

「お、おかしいですわ、あなた達!」

「えへへっ、素直になった方が美味しく食べられますよ…… えい!」

「いっ、いやぁぁぁっ!!」

 千和が後ろから副社長に抱き着いて動きを止めている間に、美鳥と輝衣はせっせとおだんごの準備。

 二人に左右からおだんごをこねこねされているのを副社長に凝視されて、何とも言えない気分になってしまう。

「は、離して下さいまし!」

「えへへっ、でもおだんご作りが面白そうで目が離せないでしょ?」

「……っ! そ、そんな事……」

「うふふっ、では私が最初に食べさせてもらいますね……」

 そして完成したおだんごをみたらしをたっぷり用意した美鳥が……


 ◇


 わたくしは何を見せられてますの?
 店主が用意したおだんごに群がる女性二人が美味しそうに食べる姿を見せ付けられて……

 逃げなきゃ危険だと頭では分かっているのに身体が動かない、目を反らしたくなるほどはしたなく貪っているのに目を離せない……

「えへへっ、食べたくなってきたかなぁ?」

 後ろからわたくしを抱き締めている女性がそう囁きながらわたくしのお腹を撫でてきた。

「桃くんのおだんごを見てたらどんどんお腹が空いてくるでしょ? 不思議だよね、でも手を伸ばせばすぐにお腹いっぱい食べさせてもらえるよ?」

 意識してしまうと空腹になっている自分に気付いてしまう。
 頭では嫌なのによだれが溢れ、早く食べさせてくれと身体が言っている。
 あまりの空腹に立っていられず座り込むと、より美味しく食べている様子が間近に見えて空腹が増してしまう。

「……うふふっ、美味しかったです」

 すると一番最初に食べた女性が満足そうな顔をしてわたくしの側に寄ってきた。

「よだれがいっぱいですね……」

 そこはっ! あぁっ、よだれが……

「そんなに垂らしたら食べる時も汚れちゃうね…… 食べやすくしてあげる」

 な、何をっ! いやっ、駄目ですわっ! 

「ふぅっ、美味しい…… へへっ、次食べるか?」

 わたくしは食べませんわ! あなた達、こんな事をしてタダで済むと思…… ひゃんっ!!

「おおっ! ちいが持ってるのと同じくらいのスイカだ!」

 スイカを取り出して、止めなさいっ! こねこねしないで下さいましぃっ!

「桃も立派…… 触り心地もいいね」

 あぁっ! 三人とも何をしてますの!? 店主さんも見てないで助けてぇっ!? あっ!! 

「桃くん」

「桃太さん」

「桃太」

 えっ? 嘘、ですわよね? そんなおだんご、わたくしじゃ食べられませんわ! だから店主さん、おだんごを持って近付いて来ないで…… あぁぁっ!! 


 ◇


 どういう状況だ?

 鬼島副社長を取り囲むように三人が座っている。

 千和は副社長の桃を撫で、輝衣はスイカを鷲掴みに、美鳥はよだれの垂れている口を指でつつくように触れて……

 でも中途半端な状態で放置されたおだんごを持っている俺には目の前の光景が余りにも…… なので。

「桃くん」

「桃太さん」

「桃太」

「い、いやぁ……」

「「「おだんご一つ、食べさせてあげて?」」」

 そして俺は……



 この後、たっぷりと、めちゃくちゃ鬼退治をした。
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