桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

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友達なんて必要ありませんでした (葵 過去)

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 物心つく頃からお母様に言われてきました。
『あなたはいずれ鬼島グループのトップに立つ子』だと。
 なので幼い頃から人の上に立つための帝王学を叩き込まれ、毎日勉強や習い事をずっと続けてきました。

 友達? いずれ人の上に立たなければならないのにそんなものは必要ありません。

 幼稚園から大学までエスカレーター式のいわゆるお嬢様学校と呼ばれる女子校に通っていましたが、わたくしの周りに集まるのは『鬼島グループ』に媚びを売りたい関連企業などの娘ばかり。

 成績は常にトップをキープしていましたが、そんなわたくしを周りは褒め称えご機嫌を取るように持ち上げる姿は滑稽で、とてもじゃありませんが対等に相手にしようとは思えませんでした。

 分刻みで決められたスケジュールを毎日こなし、休みなどなく勉強や習い事をしているわたくしと肩を並べようだなんて……

 だから友達なんて必要ありませんでした。

 その代わり子供の頃のわたくしには楽しみなんてありませんでした、常に鬼島グループの未来とお母様を越える成果を出す事ばかりを常に考え…… あっ、そんなわたくしにま唯一の楽しみと言えるものがありましたわ、それは……

「葵、ママに内緒だよ?」

 お父様が勉強中にこっそりとくれるお菓子。
 特に和菓子を持ってくることが多く、食べると勉強や習い事で疲れている身体と頭に染み渡る、この僅かな時間がわたくしにとっての楽しみで癒しの時間でした。

 お菓子を食べるわたくしを見て優しく微笑んで頭を撫でてくれるお父様。
 お母様には内緒の二人だけの秘密。
 そんな特別な時間が唯一の楽しみでした。

 そういえばあの頃のわたくしは、どうしてこんな穏やかでおっとりとした優しい性格のお父様が、凛としているがとてもキツい性格のお母様と結婚しようと思ったのかがずっと不思議に思ってましたわね。

 そんな学生時代を過ごし、鬼島グループの本社に就職し社会人になったわたくしは、鬼島グループを更に大きくすべく必死に働きました。

 ありがたいことに、幼い頃からの教育で鍛えられていたおかげで、わたくしは次々と成果を上げあっという間に副社長まで登り詰めました。

 ただ、副社長となった同時期にお父様が体調を崩し倒れてしまいました。

 一時は危篤状態になりましたが最先端の治療をしてもらい一命を取り留めたお父様、しかし医者から告げられたのは『余命三年』

 あまりに急な宣告にわたくしは仕事も手に付かずに毎日泣いていました。
 しかしお母様は……

「葵、あなたはいずれ鬼島グループを背負っていかなければなりませんわ、立ち止まっていてはなりません」

『こんな事』お父様の命よりも会社の心配をするお母様。
 そんなお母様の発言に失望したわたくしは……

 お父様をないがしろにするような『こんなお母様』がトップに立つ会社なんていらないですわ! 今すぐ社長から引きずり下ろして…… わたくしが!

 そしてお父様が生きている間にお母様を社長の座から退けるために更に必死になったわたくしは、飲食店やアパレルショップなど、今後流行りそうな物や店を手当たり次第買収し、少々強引なやり方で会社の利益を増やして……








 …………で、結局わたくしは何をしたかったのかしら?

「えへへっ、どうだった?」

「美味しかったですよね?」

「へへっ、やみつきになっただろ」

 
 その中で目を付けた一軒の団子屋。
 最近話題になっていたのでいつものように買収し、鬼島グループのものにしようとしていましたが、このお店のお団子を一口食べると、昔お父様に食べさせてもらった和菓子のような懐かしさがあり、あまりの美味しさにまた食べたくなり店を訪れたら、気付けばわたくしは『おだんご』を貪るように食べていました。

 そして周りにはわたくしと同じくおだんごを貪っていた三人の女性が居て

「……あの、鬼島さん、大丈夫か?」

 三人に巻き込まれるよう流されて食べた初めてのおだんご。
 怖くなるほどお腹いっぱいになり、今は動けずに寝かせてもらっている。
 そんなわたくしを心配そうに見つめる、美味しいおだんごを食べさせてくれた店主様。 

 三人がかりで動けなくされ、抵抗する暇もなくあっという間におだんごを口に入れられたのに、何でわたくし……

「……葵って呼んで下さいまし」

 何故か分からないが鬼島とは呼ばれたくない、もちろん副社長も嫌。
 平凡だと思っていた顔もよく見れば可愛らしいし、何よりおだんごを作っている時の男らしい姿…… わたくし、どうしちゃったんですの?

「へっ? あ、あの…… いきなりそんな馴れ馴れしくして怒らないですか?」

 何を言ってますの!? 今さら馴れ馴れしいとか気にするなんて! おだんごを食べさせる方がよっぽど…… ああ、思い出すだけで顔が赤くなってしまいますわ!

 このわたくしが、あんなにはしたなくよだれを垂らしながらおねだりをする羽目になるなんて! 

「えへっ、なぁに、葵さん?」

 あなたですわ! ……千和さん、でしたわよね? わたくしのおだんごを横取りするように食べて!

「だってぇ、もう食べたくないって言ってたでしょ?」

 食べたくないとは言ってませんわ! お腹が苦しいからちょっと休ませて欲しいとは言いましたが

「桃太さんが作ってくれる出来立てのおだんごを食べるのをみんな待ってるんですから」

「そ、出来立てのおだんごは早いもん勝ちだから」

 えっと…… 美鳥さんに輝衣さん、そんなルール、初めてのわたくしに分かる訳ありませんわ!

「もう、そんな怒んないでよぉ、一番最初に食べていいから」

 じゃあそうさせていただきますわ! ……えっ? つ、次!?

「そうだなぁ、あおは毎日ここには来れないだろうし、仕方ない、次は譲ってやるよ」

 あ、あおってわたくしの事ですか? な、馴れ馴れしいですわね……

「うふふっ、葵ちゃんは『同じおだんごを食べた仲間』ですからね、もう他人ではないですよ」

 葵ちゃん? わたくし……

「うーん、同じ釜の飯…… 同じ串のおだんごを食べた仲間? 串姉妹? えへへっ」

 串姉妹…… 嫌な響きですわね。

「へへっ、でもこれで終わりは悲しくないか?」

「今はお腹いっぱいでも、すぐにおだんごを食べた事を思い出してお腹ペコペコになっちゃいますよ?」

「あと桃くんったらおだんご作り過ぎちゃうし…… だから葵さんもまた一緒に食べよう?」

 わ、わたくし……

「えへへーっ、桃くぅん…… あむっ」

「あっ!! ズルいです!」

「ちい! あたしだってまだ食べ足りないのに……」

 ま、まだ食べますの!? わたくしはもう……

「んんっ…… あつあつぅ……」

「桃太さんのおだんごぉ…… んっ」

「あぁ、出来立ては美味いなぁ……」

 お腹いっぱいのはずなのに、また食べたくなってきましたわ……

「葵さん」

「葵ちゃん」

「あお」

「「「一緒に『おだんご』食べよう?」」」

 あ、あの……

 わたくしにも……

 おだんご一つ……

 頂けませんか?




 ……桃太様
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