桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

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おだんごにハマってしまったらしい

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 鬼島グループによる『吉備団子店』のチェーン店計画の問題は一応解決した。

 やはりチェーン店となると、吉備団子店の味のクオリティは下がってしまう。
 特に生地にはこだわりがあるので機械や素人には再現は難しいだろう。

 色々と…… うん、色々と話し合った結果チェーン店にするのは諦めてもらい、今まで通り営業することになったのだが……

「ありがとうございました」

「桃太、あんこが売り切れだ!」

「桃くん、生地作りお願い!」

 ひぃぃーっ!! 葵め…… 

「おーっほっほっ! 我が鬼島グループの宣伝力を舐めてもらっては困りますわー!」

 葵はチェーン店化は諦めたものの、吉備団子店をより有名店にするためにと、この店の宣伝を買って出た。
 雑誌やCMでの宣伝効果は抜群で、連日たくさんのお客さんが足を運んでくれている。
 ちなみに葵にはわずかだが宣伝料も払っている。
 支払う金額は少ないが、うちの店のお団子食べ放題とおだんご食べ放題付き。
 実はこの提案をしたのは千和で、その話のおかげ? で、吉備団子店のチェーン店計画は無くなった。

 とにかくうちの団子を美味しいと買ってくれるお客さんが増えるのは嬉しい、嬉しいんだけど…… 忙し過ぎる!! 

 そんな忙しそうにしている俺達の姿を見た葵はどこかに電話をして、しばらくすると鬼島グループの社員さん(黒いスーツの集団にいた何人か)が来てくれて、臨時アルバイトとして手伝いを用意してくれた。

「あなた達! 桃太様の手伝いは任せましたわよ、わたくしは仕事の打ち合わせがありますのでそろそろ行きますわね、では桃太様…… また夜に」

 そして葵は仕事に向かうために店から出発するみたいだ。

「ああ、いってらっしゃい」

「……っ! い、いってきますわ!」

 最近俺達の家に入り浸るようになった葵。
 仕事終わりには必ずと言っていいほど家に寄り、みんなでご飯を食べて、お夜食も食べてから帰るというパターンになっている。
 次の日が休みだとそのまま泊まって、五人で朝までおだんごパーティーなんてことも。

 鬼島グループの副社長という立場もあるし、頻繁にこんな田舎の団子屋に出入りしているのは近所の目もあるし色々マズいんじゃないかとは思うが、葵は千和達ととても仲が良いし、普通に友達の家に遊びに来ているだけだと考えれば大丈夫か。
 近所のおばちゃん達はまた井戸端会議で盛り上がっているらしいけど。

「葵さん、明日はお休みでしょ?」

「ええ、そうですわ、のんびりしようと思って連休にしましたの」

「うふふっ、じゃあパーティーの準備をしておきますね」

「パーティー…… お願いしますわ」

「あおの分も用意しておくからな」

「ほ、本当にわたくしも着ますの?」

「えへへっ、それを着ればきっとおだんご美味しく食べさせてくれるよ、ねっ、桃くん?」

「わ、分かりましたわ! ……おだんご、楽しみにしていますわ、桃太様」

 …………

 おだんご、おだんご…… 葵もすっかりおだんごにハマってしまったらしい。

 最初はみんなが食べているのを遠慮がちに見つめていたのに、何日かするとみんなと同じくらい積極的に食べ始めて、今では吉備団子店のプロデュース料としておだんごを求めてくるまでになってしまった。 

 葵は千和クラスの大玉スイカを食べさせてきたり、美鳥と桃サンドや輝衣も加えてフルーツの盛り合わせなどをたくさん振る舞ってくれる。
 特に千和と葵の大玉スイカサンドは凄かったなぁ……

「桃くん? えへへっ、何を思い出してるのかなぁー?」

 ……千和がスイカを押し付けながら聞いてくるけど、俺って分かりやすいのかな?

「桃太さん! 桃だって美味しいですよ」

「いーや、リンゴも食べ頃だぞ!」

 お、おい! みんな、そんな押し付けられても今は食べられないぞ? ……ほら、葵の所の社員さんにも見られてるから! 

 接客やお客さんの列の整理のために働いてくれている鬼島グループの社員さん(女性三名)が、とんでもないものを見たような顔をしているから、ねっ? 落ち着いて三人とも。

「『親友…… いえ、姉妹が出来ましたわ!』って仰られてたけど、副社長もまさか……」

「副社長、最近は笑顔が増えて肌もツヤツヤ…… いえ、まさかよね?」

「時々遠くを見つめながら『おだんご……』と呟いてましたけど、まさかね……」

 ……視線が痛い!! 何も疚しいことはないですよ!? 疚しいことは…… いや、疚しいのか? おだんごって。

 フルーツを押し付けられながらも見られている事に気付かないふりをして生地作りを続ける。

 仕上げや販売を任せ、俺はひたすら生地をこね続け、フルーツの誘惑にも負けずにこねこね……

「やぁーん、桃くんこねこね上手ぅー!」

 千和…… その言い方、段々母さんに似てきたな。

 あっ、そういえば親父達が旅行から帰ってくるまであと二週間ほどだ。
 どう説明しよう…… 店の状況もだが、色々と……

「どうしたんですか?」

「いや、何でもないよ」

「そうですか、心配事があるなら相談に乗りますからね、あっ……」

 普段は頼りになるしっかり者のお姉さんの美鳥。

「またこねこねしてるのか? まったく…… ひゃっ!」

 口は悪いがいつも元気でムードメーカーな輝衣。
 
「もう、桃くんったら…… 私もこねこねしてぇ」

 幼馴染みでいつも俺に尽くしてくれる千和。

 そんな三人に加えて葵までとなると、親父達もビックリするだろう。
 ただ、もうみんなで決めた事だから……

「すみませーん、隣の工事担当の者ですが」

「あっ、はーい! よろしくお願いします」

 真っ先に千和が返事をしたが、葵が手配した工事業者の人が挨拶に来たみたいだ。

 さすがに葵を含め五人となると家自体も狭く感じてしまい、改修工事をしようかと悩んでいたのだが……


「それなら増築しましょう! わたくしの仕事部屋も作れば毎日通う必要もなくなりますわ! 幸い桃太様の家の隣は空き家になってますし、わたくしが土地を買って工事も手配致しますから、桃太様は何も心配いりませんわ!」
 
 いや、俺達知り合ったばかりだよ? それなのに俺達の問題、しかも俺の家に葵がそこまでする必要はないと思うんだけど。

「何を言ってますの!? わたくしをおだんご無しでは生きられない身体にしておいて! これはわたくしにとっても死活問題、これからも続くおだんごライフのために少々投資するだけですわ! だから…… わたくしの事も責任持って面倒を見て下さいまし」

 なんて葵が言い出して、気が付くと俺の家の増築まで決まってしまっていた。

 ここまでわずか五日、なんというかあり得ない早さにビックリしたし、やはり鬼島グループというのは凄い会社なんだと思い知った。

「わぁ…… もう工事始まるんですね」

「あおの話じゃ、店はある程度そのままの形を残して住居部分を増築して大きくするみたいだな」

「私達にも部屋が一つずつ当たるみたいだよ、あとは桃くんの部屋が広めで…… おだんご食べやすい部屋にするんだって!」

 そうなのか!? 何で俺より三人の方が詳しいんだよ! ……いつも思うが女性陣が勝手に決めちゃうよね。
 
 千和曰く『桃くんには店に専念して欲しいから』らしいが、やはり仲間外れにされている感じがして少し寂しい。

「増築部分が完成したらそっちに移り住んで、今度はこっちの今ある家の工事だったよな?」

「はい、お義父様やお義母様のためにも元の住居を改修するみたいですし、少し店を休みにしなければいけないのが桃太さんには辛いかもしれませんね」

「えへへっ、休みなら…… また旅行に行っちゃう?」

「いいですね! 今度は葵ちゃんとも一緒に行きましょう」

「次は暖かい所に行きたいなぁ、開放的な気分になって海でおだ…… 泳いだり」

「海を眺めながらおだ…… 語り合ったり」

「波の音が聞こえる宿でおだ…… みんなでのんびり」

 ……おだ、って誰だよ!

 そんな妄想をしながらウットリとした表情を浮かべる三人に、俺はほんの少しだけ呆れてしまった。
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