桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

文字の大きさ
50 / 61

あははっ! もうどうにでもなれー!

しおりを挟む
 ◇

「くーるーみっ!」

「きゃっ! ……もう、きびちゃんったらぁ、ビックリしたぁ、うふふっ」

「へへっ、今日も可愛いよ」

「ありがと! きびちゃんも…… カッコいい」

 いきなり後ろから抱き着いてくるなんて、きびちゃんは甘えんぼさんね…… んっ、すぐにこねこねしたがるし…… 本当におだんご作りが好きなんだからぁ。

「あらぁ、喜火太《きびた》ちゃんと胡桃《くるみ》ちゃん、帰って来たのかい?」

「いらっしゃいませ、お久しぶりですね! ええ、二週間ほど前に帰って来たんですよ」

「そうなの、それにしても…… 相変わらず仲良しねぇ」

 やだぁ、きびちゃん、常連さんがお団子を買いに来てくれてるんだから、桃から手を離してぇ! 

「うふふっ、そうですか? ありがとうございます」

 カウンターでお客さんから見えないからって…… もう! お腹空いちゃうから止めてよぉ。

「そういえば今日は桃太ちゃんとお団子四姉妹…… じゃなくてお嫁さん達はいないのかい?」

「んっ、え、えぇ、今日から卒業旅行に行ってるので、お、お休みです」

 あの子達、近所ではお団子四姉妹なんて呼ばれてるの? でもたしかにいつもお団子のように串に……  

「卒業旅行!? 若い男女だけでの旅行…… これはまたスクープかもしれないねぇ!」

 あぁん、また桃ちゃんの事を噂されちゃう! 四人もお嫁さんがいるから娯楽の少ない田舎では只でさえ話題になりがちなのに。

『きっと現代の桃○郎よ! 腰につけたお団子で夜な夜などんぶらこしてるんだわ!』なんて言われてるのを聞いちゃったから、少しかわいそう…… 当たってるんだけどね。

「これは会議になりそうだから多めに買っていくわね! じゃ、またね胡桃ちゃん!」

「あ、ありがとうございましたぁ……」

 ふぅ…… 買っていってくれたのは嬉しいけど…… 

「……きびちゃん? イタズラばっかりして! ……おしおきしちゃうよ?」

「えっ、おしおき!?」

 きびちゃんったら嬉しそうな顔をしてる…… うふふっ、仕方ないなぁ。

「……ちょっと休憩しましょ?」

「へへっ、うん!」

 うふっ、今日は私がたーっぷりおしおきしちゃうんだから!


 ◇


「お、おい! 旅行ってどこに行くんだよ!」

「ふふっ、着いてからのお楽しみですわ!」

 お楽しみって……

 

 今日は俺、千和、輝衣が無事高校を卒業出来た記念として、葵が準備してくれた旅行に向かうために、朝一番に葵の会社の車である、例の高級車が家まで迎えに来た。

 表向きは『卒業旅行』という事になっているが、本当は『生おだんご大盤振る舞い計画第二弾』がメインイベントらしい。

『らしい』って何だよ! って思っただろ? 俺だって四人がひそひそと話しているのを小耳に挟んだだけで、旅行について何も教えてくれないんだから仕方ないじゃないか。

 そして高級車で移動すること一時間、着いた先はヘリポートだった。

「わぁぁ! ヘリコプターなんて初めて! ドキドキするね」

「は、はい…… ちょっぴり怖いですぅ……」

「みい、大丈夫だって! へへっ、ワクワクするなぁ」

「さあ、皆さん、乗りますわよ!」

 だ、だからどこに行くんだよ! おーい、聞いてる? ヘリコプターの音で聞こえないか、あははっ! もうどうにでもなれー!


 ◇


「ヘリコプター!? だ、大丈夫なの?」

「千和の話ではヘリコプターに乗って行くって言ってたわよ? 私も乗ってみたいなー」

「シズちゃん…… 娘に何かあったらって心配にならないの?」

「心配は心配だけど、本人達は楽しみにしているみたいだし止められないわよ、それで…… 聞いた? 旅行先で『生おだんご』を食べるつもりみたいよ? やぁーねー、娘が母親にそんな事を報告するだなんて、きっと今頃生おだんごの事で頭いっぱいなのよあの子、私もパパと初めて生で食べた時は庭を駆け回りそうなくらい嬉しかったわぁ…… あっ、今でもたまに食べるけど、生は美味しいわよね! 太らないようにしているけど、思わずワンワンと鳴いちゃうくらい!」

 千和ちゃんの母親の静《しず》ちゃん…… ご近所さんで同い年の子供がいるから昔から仲良しだけど、相変わらずのマシンガントークね。

「でもそうなったらくーちゃん(胡桃)と本当に家族になれるわ、千和と桃太くんが仲良しだから、もしかして…… なんて昔に笑い話をしていた事が現実になったなるなんて素敵よね、それに他にもお嫁さんもいるし、大家族になっちゃうわぁ…… そのうち他の子の親御さんにも挨拶しとかなきゃいけないわね! でもうちのパパ大丈夫かしら? 身体は大きいのに恥ずかしがり屋でボソボソ喋るし、ちゃんと挨拶できるかなぁ…… 私の前や夜はあんなに饒舌なのに、でもそこが可愛い所なんだけどね? あぁ、この間なんか首輪を着けられて……」

 そうよねぇ、きびちゃんも大丈夫かなぁ、特に葵ちゃんの母親には色々迷惑かけちゃったし、きびちゃんもあんな事言われたからきっと苦手意識が……  ちょっと待って!? く、首輪!? そ、その話を詳しく聞かせてよ!

「でも、うちのパパ…… 賢斗《けんと》くんと喜火太くんも意外と仲良しだし挨拶くらい大丈夫よね、千和達が帰って来たら聞いてみようかしら? 出来ればみんなで顔合わせもしておきたいわね…… うん、だって生おだんごはみんなで食べるんでしょ? そうなったら太るのは千和だけとも限らないし、あっ! そういえば千和達の旅行先の話なんだけど……」

 シズちゃん!? だから、あの、首輪…… 


 ◇


「わっ、わっ! 見て下さい! 海ですよ!」

「ヘリコプターって意外と速いんだな」

「わぁ…… あっという間に陸地が見えなくなっちゃったよ!」

 ヘリコプターに乗せられ、何処かへと飛んでいく。
 何を聞いても聞こえないのか答えてもらえないし、もう乗ってしまった以上諦めるしかない。

 外を覗き、下を見てみると海…… 本当に何処へ向かっているんだろう。

「皆さん、気分は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよー」

「ああ大丈夫、楽しいぞ!」

「ちょ、ちょっと怖いですけど大丈夫です」

 千和と輝衣は楽しそうに窓の外を指差しながら話をして、美鳥はチラチラと外を見つつ、隣に座る俺の手を強く握っている。

 後方に座っている俺達とは別に、葵は前方に座り何やら操縦士の人と話をしていた。

「あそこに行くのは久しぶりですわ、手筈は整ってますの?」

「はい、施設の準備は完了して、周辺も整備しておきました」

「そう、ご苦労様、ふふっ…… あっ、皆さん、見えてきましたわよ!」

 葵がこちらに振り向き、前方を指差しながら話しかけてきた。

 そしてみんなで指差す方向を見てみると……

「あれがそうなんだ!」

「へぇ…… 確かにヘリコプターで来ないと大変そうだな」

「凄い所にありますね……」

 そこに見えたのは海の中にポツンとある島だった。

「葵、もしかして旅行先って……」

「ふふっ、そうですわ桃太様、今回の卒業旅行の目的地は鬼島家が所有する無人島、その中にある別荘とプライベートビーチですわー!」

 無人島に別荘!? さすがは金持ち、というか鬼島グループ…… ヘリコプターでしか行けないような場所に別荘を建てるなんて凡人には出来ないぞ。

「そして、この無人島の名は…… 『鬼ヶ島』ですわー!!」

 ……な、なんだってー!!

「鬼島家の所有する無人島で……」

「名前が鬼ヶ島って……」

「絶対そうだと思いました……」

 えぇっ!? 三人は何だか呆れたような顔をしているが、驚かないのか!? 

「おーっほっほっ! 桃太様だけでも驚いてくれて嬉しいですわ! ……わたくしも正直、このネーミングはどうかと思ってましたのよ、でもお祖父様が決めた名前ですので……」

 俺だけ驚いていて変な空気になってしまったが、とりあえずヘリコプターはゆっくり高度を下げ、島へ着陸した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...