桃太のおだんご(隠語)は大人気

ぱぴっぷ

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思い出に残るような事をしたいな

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 二週間の無人島旅行というのは絶妙で、暇というほどでもないがあまりやる事がない。

 朝起きてダラダラして、おだんご食べて、ご飯を食べて…… 

「んっ、ふぅっ、風がっ、気持ち良いですねっ」

 バルコニーにあるデッキチェアに座りながら海を眺めて…… おだんご。

「へへっ、ちょっと冷たいけど…… 良いっ、な」

 波打ち際で水遊びをしながら…… おだんご。

「景色がっ、綺麗ですわね! んっ」

 別荘の裏にある丘に登ってみて…… おだんご。

「えへへっ、二人きりで、こんな広いお風呂に昼間から入るなんて…… んんっ、贅沢ぅっ、だね」

 好きな時に風呂で汗を流し…… おだんご。

 おだんご、おだんご…… だってテレビも映らないし、ビリヤードやダーツも飽きてきたし、食べるしかないじゃない! 

 雨の日なんかは別荘から出られないし、ふと周りを見れば食べ頃のフルーツばかり…… お腹が空いちゃうよねっ? ねっ? 

「んんっ…… 仕方ないです、わぁ、美味しそうな物が、いつでも食べ放題ですもの…… ふふっ、美味しいですわぁ」

 俺の考えに賛同してくれている葵は今、口いっぱいにおだんごを頬張りながら頷いているんだけどね。

「はぁ、でも…… もう少しで旅行は終わりかぁ……」

「お家に帰ってお義母様とおしゃべりしたい気持ちもありますけど、開放的な気分になれるのが終わりだと思うと寂しいですね」

「生おだんごもしばらく食べられないのかぁ…… 残念」

 二週間の旅行ももうすぐ終わり、迎えのヘリコプターが来る日が迫ってきた。

 最初は二週間と聞いて長く感じたが、実際過ごしてみるとあっという間だった。

 思い出といえば…… ダメだ、何をしていても最後におだんごが付いてくる思い出ばかりだ。
 最後に普通の思い出に残るような事をしたいな。

 ……そういえば暇であちこち探索している時に見つけたやつ、天気もいいし、やってみるか。

「んんっ! 美味しかった、ですわぁ……」

「えへへっ、じゃあ次は私が食べよ」

 普通の思い出……


 ◇


「……あら、ごきげんよう」

「……ひぃっ!!」

「いらっしゃい…… あら、葵ちゃんのお母様の、朱凛さんでしたよね? その節は大変迷惑をかけて……」

「それはもう気にしてませんわ、わたくしの方こそ失礼な事を言ってすみませんでしたわ、あの後、虎…… 主人にねっとりたっぷりおしお…… ではなく怒られてしまいまして、お詫びに来ましたの」

 怒られた? ……その割には嬉しそうに見えるけど。

「それと、もうすぐ娘達が帰って来るので、是非一度皆さん揃って挨拶をしたいと主人が言っておりまして、それを知らせに来たんですわ」

「それは私達もしたかったんで助かります! でも輝衣ちゃんのご両親は遠くに住んでいて都合が……」

「そちらはもう話を通して手配してありますから大丈夫ですわ、あと、先ほど柴田さん宅にも行って挨拶をしてきましたから」

 ……あっ! よく見たら入り口の所でシズちゃんがニヤニヤしながら覗いてる! もう、きびちゃんの反応を見て楽しんでいるんでしょ? ……きびちゃんもプルプル震えて怯えちゃって、可愛いんだから! あとでたっぷり慰めてあげないとね。

「それならうちも大丈夫ですので、鬼島さんの都合のいい時にお願いします」

「もうすぐ主人が退院できますの、なのでその後がいいんですが、よろしくて?」

 わぁ…… 重い病気で一時期は危なかったって葵ちゃんから聞いていたけど、良かったぁ、朱凛さんも安心しただろうな。

「ええ、是非ご主人にも挨拶をしたいので大丈夫ですよ!」

「ふふっ、ありがとうございますわ! では主人のお見舞いに行かなければならないのでわたくしはこれで…… あっ、せっかくですのでお団子をお土産にしますわ、何本か包んで頂けます?」

「はい! ちょっと待って下さいね、うふふっ、きびちゃん?」

「はい、くるみ様! 包ませて頂きます!」

 もう! どうしちゃったのよ、きびちゃん……

 うふふっ、これから家族になる私達だけど、これなら大丈夫そうね。

 だから安心して帰って来てね…… 桃ちゃん。


 ◇


「へへっ、バーベキューか、おだんごで頭がいっぱいだったから忘れてたよ」

 頭がいっぱいって…… あっ、もう火を起こしてるから気をつけろよ? 

「分かってるってぇ…… へへっ、バーベキューコンロの他に焚き火もかぁ、キャンプみたいだな!」

 やっぱり海に来たらやりたくなるだろ? 夜の海だし風が少し冷たいからな。

「久しぶりにちゃんと服を着たような気がする…… えへへっ」

「さすがにフルーツ丸出しだったら風邪ひいちゃいますよ」

「皆さん、食材を運ぶの手伝って下さいまし」

「はーい、じゃあ桃くん、準備よろしくね!」

 テーブルは今運んできたし、あとは人数分のイスだな…… あっ、バケツも用意しておこう。

 海といえばバーベキュー、せっかく食材も大量に用意してあるのにやらないともったいない。

 どうして誰も思い付かなかったのか、おだんごの食べ過ぎでだろうな。

 あとは……

「凄い豪華ですよ桃太さん、高級なお肉に海鮮がいっぱいです」

「野菜もちゃんとあるぞ」

「お皿とタレは今持って行きますわ、先に焼いてて下さいまし」

「んーっ、しょっと…… えへへっ、こんなにいっぱい食べられるかなぁ」

 どれだけ食材を用意させたのか、冷凍庫を開けると大量の海鮮と肉が入っていて、昼間に解凍した分以外にもまだ入っていた。
 食べ切れないものは別のヘリコプターで持ち帰るらしいが、片付けを含めどれだけの費用になるんだか怖くて聞けていない。

 とにかく、葵が張り切って用意してくれた旅行だ、美味しい物を食べたりと、最後まで楽しむぞ。



「熱っ! ……うまっ、うまっ」

「んーっ! おっきなエビが美味しいです!」

「……外で皆さんと食べるのは美味しいですわね、ふふっ」

「お肉、美味しいぃっ! えへへっ、幸せぇ」

 ほら、ホタテも焼けたぞ! 食べたい人は自分で取ってくれよ?

「桃くん、食べないの?」

 とりあえず焼いていかないと、みんなのお腹が落ち着いてきたら俺も食べるから。

「ふぅ、ふぅ…… 桃くん、あーん」

 んっ? あーん…… んっ! バターしょうゆで味付けたホタテ美味い! ほら、みんな食べて。

「……さすが、千和ちゃんですね」

「さりげない気づかいと、圧倒的嫁力! 見習わないとな!」

「長年連れ添っているだけありますわね、わたくしもいつかあんな風になりたいですわ」

「えへへっ、そんなことないよぉ…… ふぅ、ふぅ、お肉も食べるでしょ?」

 あむっ…… んんっ! ステーキに使った肉とはまた違う肉だが、タレに漬け込んでおいて味がしっかりしてるから美味い!

 ありがとう千和、でも自分もちゃんと食べるんだぞ?

「食べてるから大丈夫だよ、えへへっ」

「ふぅーっ、ふぅーっ、桃太! あたしも食べさせてやる!  ほれっ」

 熱っ!! はふはふっ、う、美味いけど熱い…… 

「もう、輝衣ちゃんったら…… はい桃太さん、冷たい飲み物ですよ」

 あ、ありがとう…… いやぁ、食べさせてもらったイカだけど噛んだら中が熱くてびっくりしただけだから、輝衣もありがとう。

「へへっ…… あーん、とかやった事なかったから、ちょっと照れちゃって、へへっ、へへへっ、おい、あおもやってみたらどうだ?」

「わ、わたくしは、その……」

「葵ちゃん? はい、これなんか良いんじゃないですか?」

「わ、わかりましたわ! ……桃太様、あ、あーん、ですわ」

 美鳥に勧められ、小さめの肉を箸で掴み、恐る恐る俺の口元へと運ぶ葵。
 顔がちょっと赤くなっているのが可愛いな。

 んっ、うん、この鶏肉美味いな! ありがとう葵。

「ひぁっ、ふひっ! おほほっ…… ラブラブな恋人みたいで良いですわね、これ」

 ちょっと笑い方が変なのは気になるが、とにかく嬉しそうにしているのもまた可愛らしい。

「んーっ! みんなでバーベキュー、楽しいね」

「はい、良い思い出になります」

「今度は他にも人を呼んでやりたいな」

「家族みんなで、っていうのも良いかもしれないですわ」

 これでこの旅行で、五人の普通の思い出ができたな、でも…… まだあるんだよな。
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