水魚の交わり

夜千流

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一夜の甘えと明日の覚悟

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ヒースクリフが梅毒に感染した
まだ初期段階で症状は軽いが、梅毒は不治の病と恐れられている
ヒースとシノの母親達も梅毒で亡くなっている
シノは母を亡くした時の事を鮮明に覚えているのだろう…
かなり取り乱している
ヒースを失う事をなにより恐れているシノは、フィガロに食って掛かかった

「おい!ヒースは治るのか!?」

「今の段階では、薬で進行を遅らせる事しかできないよ」

「ヒースを治せ!どんなに高い薬でも構わない!オレが必ず払うから!…だから…っ、ヒースを、治してくれ…っ」

涙ながらに訴えるシノの姿に胸が痛む
私はフィガロを見遣って「どうにか出来ませんか?」と、問う
するとフィガロは、「可能性はあるよ」と答えた

フィガロは梅毒の研究をしていたが、病気の進行を遅らせる薬しか作れなかった
しかし、世紀の大天才『ムル・ハート』博士なら何か解決策を見つけてくれるのではないかと、フィガロは言う

「問題は…彼が、この研究に興味を持ってくれるかどうかだね。ムルは自分の興味の対象にしか関心を示さないから…」

「お知り合いなんですか?」

「俺がまだ五歳の頃、ムルは俺の祖父に会いに来たんだ。
研究資金が欲しいからパトロンになってくれ、ってね」

「パトロン?」

「後援者や支援者の事だよ。祖父は快く承諾したけど…その後、家督を継いだ母上をムルが怒らせてしまってね…。支援は打ち切られてそれ以来、彼とは会ってないよ」

「ムルさんは今、何処にいるんですか?」

「ムルは世界中に研究室を持っているから、虱潰しに探すしかないな」

「そんな…!」

「噂によると、海を渡った西側の海岸沿いで月の研究をしているとか…」

「なんでもいいから!はやくムルって奴を探してくれ!」

「はいはい、わかったよ。少し落ち着きなさい」

「梅毒は悪化すると鼻が落ちるんだ。ヒースの鼻が落ちるような事があれば、オレがあんたの鼻を削ぎ落としてやる…!」

「まったく、血気盛んだなあ…」

「フィガロ…ヒースの事、お願いしますね」

「うん。きみと離れ離れになっちゃうけど、大事な友人のヒースクリフの為だからね。フィガロ先生、一肌脱いじゃうよ!」

私は以前、二度と離れないとフィガロと約束していた
しかし、ヒースクリフの命が掛かっているこの状況で、そんな事を気にしている暇はない

その夜…旅支度を始めたフィガロの背を見て、別れが惜しくなった私は今夜だけ…と、フィガロの愛を強請った
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