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39話 マージェン家の処罰
しおりを挟む男爵夫妻は娘の教育を間違えたこと、今まで様々な人達が被害にあっているのも含めて爵位の取り上げ。
つまりは平民に降格することになった。
その処罰を言い渡された時、男爵夫妻は目に涙をためながら、処刑にならないだけ寛大な処置だ、と言っていたのが印象的だった。
私はリリーを含めた男爵家の皆に幸あれ、と密かに願いを込め、兵士達に連れていかれるのを見送った。
「さて、マージェン家の処罰だが...」
と陛下がマノン達を睨みつけながら言うと、顔を真っ青にさせたマノンがシエラに処罰を軽くして貰えるように頼んできた。
「シエラ!お前からも頼んでくれ!俺は悪くないんだ!」
と縋るような目で訴えてきたが、リリー以外の処罰は陛下たちに全て任せているため、無視していると、宰相はため息をついて、マージェン夫妻に向かって
「まだそんなに騒ぐ元気があるとはな。兄は優秀なのに甘やかしすぎなのではないか?」
そう言った。
マージェン夫妻は元々青かった顔を真っ白にしながら
「も...申し訳ございません」
と土下座をしていた。
「まぁいい。まず、マージェン家の現当主には何も処罰を与えるつもりは無い」
陛下がそう言うと、マージェン夫妻はほっとした顔をして感謝を述べた。
マノンの兄であるネロは、とても良い人だったと記憶しているから私もそれを聞いて安堵した。
「そなたらマージェン夫妻は王都への出禁、マージェン家の領地から出ることを禁ずる」
「.........寛大な処置、ありがとうございます」
処罰を言い渡されたマージェン夫妻が下がろうとすると、相変わらずマノンが1人だけ騒ぎ始めた。
「なっ、父上!?母上!?なぜですか!王都に来れなくなっても良いのですか!?」
目を見開いて、もう決まった処罰に対して文句を言うマノンは正直、滑稽な姿、としか思えなかった。
多分ここにいる全員が同じことを思っただろうが、マノンはそんなことは露知らず、いまだにギャーギャー騒いでいる。
痺れを切らした宰相が口を開こうとする前に
「黙れ!お前はさっきから...誰のせいだと思っているんだ!!」
と怒鳴り声が聞こえた。
この声の主は勿論、マノンの父親マージェン元伯爵だ。
まさか自分に甘かった父親が怒鳴るなんて思わなかったのかマノンは驚いた顔をしていた。
「俺は...俺は悪くない!そうだ!シエラ!俺のことを愛しているんだろう?また結婚してやってもいい!」
まだそんなことを言っているのか、と思った私は我慢も限界を迎え
「はぁ......いい加減にしてくれますか?」
とついつい口を挟んでしまった。
「私は貴方のことを愛したことなんて一度もありません。えぇ、今までに一度もです」
そう言うとマノンは何故か悲しそうな顔をしだしたが今更だ、と思い私は言葉を続けた。
「大体、常に家には帰ってこない、浮気相手にうつつを抜かしている人を好きになる要素がありますか?ありませんよね?」
そう畳み掛けると、横からクスッという笑い声が聞こえてきた。
隣を見ると、フォストが笑いを堪えようとしていたが思わず声が出てしまったらしい。
ごめんね、と言ってから
「シエラ嬢、やっぱり面白いね」
とにこやかに言われたので、ありがとうございます、とだけ返しておいた。
「マノン、お前は知らなかったと思うが私の妻も貴様のことは嫌っておる。二度と領地に入れるつもりは無い」
お父様が今まで教えなかった真実に衝撃を受けたのか、マノンは膝から崩れ落ちてしまった。
それもそのはずだ。私のお母様は、基本的にいつもニコニコしていて優しい。
そんなお母様が嫌うなんてよっぽどの事だ。
マノンがやっと大人しくなったので、陛下の方をチラッと見ると宰相とコソコソ話しているのが見えた。
宰相が話終わると、陛下は急に笑い声をあげたから、皆が注目して言葉を待った。
「それは良い提案だな、宰相よ」
「ありがとうございます」
陛下はマノンを見ながら
「マノン、そなたの罰は選ばせてやろう」
と前置きをしてから
「一生独身のまま貴族として両親と暮らすか、平民に落ちるが結婚することは出来る」
どちらが良い?と悪い笑みを浮かべながら聞いた。
「な...なぜですか!」
とマノンが尋ねると宰相は二度目のため息をついて
「今まで散々浮気をしていた奴が他に嫁を迎えても同じ過ちしか起こさないだろう?まぁ、平民なら許されるが貴族同士の結婚で毎回繰り返していたら......どうなるかわかるか?」
と答えた。
確かに、宰相の言う通りだ。
貴族同士の結婚は何かしらの利益がないと拒否されることが多い。
私以外の人と再婚して、また同じことを繰り返すと賠償金やその他諸々のせいでマージェン家が破綻してしまう可能性だってある。
一方、平民になると恋愛結婚がほとんどだからそんな心配もないし、マージェン家には一切迷惑がかからない。
現当主であるネロが優秀だから潰すのは惜しいと思ったのだろう。
「俺は!俺は貴族で..「陛下...宜しいでしょうか?」」
今まで黙っていたマノンの母親が言葉を遮り陛下の許可を待った。
陛下が頷くのを確認すると、ありがとうございますとお礼をしてからこう言った。
「マノンを平民に落としてください」
マノンはバッとマージェン夫人の方を見つめて、目で助けを求めていた。
すると、それに気付いたマージェン夫人は今までオドオドしていたのが嘘のように背筋を伸ばしてから
「これ以上、マノンを貴族として家に置いておく訳にもいきません。貴方が今まで男爵令嬢に使ったお金を返せるの?無理でしょう?大人しく平民として生きなさい」
とマノンに言った。それは、声は優しかったが、反論は許さない、というような言い方をしていた。
まさか母親にも見捨てられるとは思わなかったのだろう。魂が抜けたかのように放心状態になっているマノンを横目に
「......わかった。ならばマノンは平民に降格。マージェン夫妻同様に、王都には出禁、領地から出ることを禁ずる」
以上、と陛下が締めくくった。
......これでやっと終わるのね。
長かった...いや、私が長引かせてしまったのだが、憂鬱だった結婚生活に終止符を打てて、私は心の底から安堵した。
後ろに控えていた兵士達がマノン達を連れていこうとすると、放心状態だったマノンがハッと我に返って
「ま...待て!シエラ!助けろ!」
と助けを求めてきたが、
私が助けるわけないでしょう?
「さようなら、マノン様。もう二度とお会いしませんわ」
満面な笑みを浮かべてそう言うと、マノンはガックリと項垂れたまま連れていかれたのだった。
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