旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜

文字の大きさ
41 / 50

39話 マージェン家の処罰

しおりを挟む

男爵夫妻は娘の教育を間違えたこと、今まで様々な人達が被害にあっているのも含めて爵位の取り上げ。

つまりは平民に降格することになった。

その処罰を言い渡された時、男爵夫妻は目に涙をためながら、処刑にならないだけ寛大な処置だ、と言っていたのが印象的だった。

私はリリーを含めた男爵家の皆に幸あれ、と密かに願いを込め、兵士達に連れていかれるのを見送った。




「さて、マージェン家の処罰だが...」

と陛下がマノン達を睨みつけながら言うと、顔を真っ青にさせたマノンがシエラに処罰を軽くして貰えるように頼んできた。

「シエラ!お前からも頼んでくれ!俺は悪くないんだ!」

と縋るような目で訴えてきたが、リリー以外の処罰は陛下たちに全て任せているため、無視していると、宰相はため息をついて、マージェン夫妻に向かって

「まだそんなに騒ぐ元気があるとはな。兄は優秀なのに甘やかしすぎなのではないか?」

そう言った。

マージェン夫妻は元々青かった顔を真っ白にしながら

「も...申し訳ございません」

と土下座をしていた。


「まぁいい。まず、マージェン家の現当主には何も処罰を与えるつもりは無い」

陛下がそう言うと、マージェン夫妻はほっとした顔をして感謝を述べた。

マノンの兄であるネロは、とても良い人だったと記憶しているから私もそれを聞いて安堵した。

「そなたらマージェン夫妻は王都への出禁、マージェン家の領地から出ることを禁ずる」

「.........寛大な処置、ありがとうございます」

処罰を言い渡されたマージェン夫妻が下がろうとすると、相変わらずマノンが1人だけ騒ぎ始めた。

「なっ、父上!?母上!?なぜですか!王都に来れなくなっても良いのですか!?」

目を見開いて、もう決まった処罰に対して文句を言うマノンは正直、滑稽な姿、としか思えなかった。

多分ここにいる全員が同じことを思っただろうが、マノンはそんなことは露知らず、いまだにギャーギャー騒いでいる。



痺れを切らした宰相が口を開こうとする前に

「黙れ!お前はさっきから...誰のせいだと思っているんだ!!」

と怒鳴り声が聞こえた。

この声の主は勿論、マノンの父親マージェン元伯爵だ。

まさか自分に甘かった父親が怒鳴るなんて思わなかったのかマノンは驚いた顔をしていた。



「俺は...俺は悪くない!そうだ!シエラ!俺のことを愛しているんだろう?また結婚してやってもいい!」

まだそんなことを言っているのか、と思った私は我慢も限界を迎え

「はぁ......いい加減にしてくれますか?」

とついつい口を挟んでしまった。



「私は貴方のことを愛したことなんて一度もありません。えぇ、今までに一度もです」

そう言うとマノンは何故か悲しそうな顔をしだしたが今更だ、と思い私は言葉を続けた。

「大体、常に家には帰ってこない、浮気相手にうつつを抜かしている人を好きになる要素がありますか?ありませんよね?」

そう畳み掛けると、横からクスッという笑い声が聞こえてきた。

隣を見ると、フォストが笑いを堪えようとしていたが思わず声が出てしまったらしい。

ごめんね、と言ってから

「シエラ嬢、やっぱり面白いね」

とにこやかに言われたので、ありがとうございます、とだけ返しておいた。



「マノン、お前は知らなかったと思うが私の妻も貴様のことは嫌っておる。二度と領地に入れるつもりは無い」

お父様が今まで教えなかった真実に衝撃を受けたのか、マノンは膝から崩れ落ちてしまった。

それもそのはずだ。私のお母様は、基本的にいつもニコニコしていて優しい。

そんなお母様が嫌うなんてよっぽどの事だ。

マノンがやっと大人しくなったので、陛下の方をチラッと見ると宰相とコソコソ話しているのが見えた。

宰相が話終わると、陛下は急に笑い声をあげたから、皆が注目して言葉を待った。


「それは良い提案だな、宰相よ」

「ありがとうございます」

陛下はマノンを見ながら

「マノン、そなたの罰は選ばせてやろう」

と前置きをしてから

「一生独身のまま貴族として両親と暮らすか、平民に落ちるが結婚することは出来る」

どちらが良い?と悪い笑みを浮かべながら聞いた。


「な...なぜですか!」

とマノンが尋ねると宰相は二度目のため息をついて

「今まで散々浮気をしていた奴が他に嫁を迎えても同じ過ちしか起こさないだろう?まぁ、平民なら許されるが貴族同士の結婚で毎回繰り返していたら......どうなるかわかるか?」

と答えた。

確かに、宰相の言う通りだ。

貴族同士の結婚は何かしらの利益がないと拒否されることが多い。

私以外の人と再婚して、また同じことを繰り返すと賠償金やその他諸々のせいでマージェン家が破綻してしまう可能性だってある。

一方、平民になると恋愛結婚がほとんどだからそんな心配もないし、マージェン家には一切迷惑がかからない。

現当主であるネロが優秀だから潰すのは惜しいと思ったのだろう。

「俺は!俺は貴族で..「陛下...宜しいでしょうか?」」

今まで黙っていたマノンの母親が言葉を遮り陛下の許可を待った。


陛下が頷くのを確認すると、ありがとうございますとお礼をしてからこう言った。

「マノンを平民に落としてください」



マノンはバッとマージェン夫人の方を見つめて、目で助けを求めていた。

すると、それに気付いたマージェン夫人は今までオドオドしていたのが嘘のように背筋を伸ばしてから

「これ以上、マノンを貴族として家に置いておく訳にもいきません。貴方が今まで男爵令嬢に使ったお金を返せるの?無理でしょう?大人しく平民として生きなさい」

とマノンに言った。それは、声は優しかったが、反論は許さない、というような言い方をしていた。

まさか母親にも見捨てられるとは思わなかったのだろう。魂が抜けたかのように放心状態になっているマノンを横目に

「......わかった。ならばマノンは平民に降格。マージェン夫妻同様に、王都には出禁、領地から出ることを禁ずる」

以上、と陛下が締めくくった。


......これでやっと終わるのね。

長かった...いや、私が長引かせてしまったのだが、憂鬱だった結婚生活に終止符を打てて、私は心の底から安堵した。





後ろに控えていた兵士達がマノン達を連れていこうとすると、放心状態だったマノンがハッと我に返って

「ま...待て!シエラ!助けろ!」

と助けを求めてきたが、

私が助けるわけないでしょう?


「さようなら、マノン様。もう二度とお会いしませんわ」

満面な笑みを浮かべてそう言うと、マノンはガックリと項垂れたまま連れていかれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。 彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。 混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。 そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。 当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。 そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。 彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。 ※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました

柚木ゆず
恋愛
「リュクレースを世界の誰よりも幸せにするって約束を果たすには、もっと箔をつけないといけない。そのために俺、留学することにしたんだ」  名門と呼ばれている学院に入学して優秀な成績を収め、生徒会長に就任する。わたしの婚約者であるナズアリエ伯爵家の嫡男ラウルは、その2つの目標を実現するため2年前に隣国に渡りました。  そんなラウルは長期休みになっても帰国しないほど熱心に勉学に励み、成績は常に学年1位をキープ。そういった部分が評価されてついに、一番の目標だった生徒会長への就任という快挙を成し遂げたのでした。 《リュクレース、ついにやったよ! 家への報告も兼ねて2週間後に一旦帰国するから、その時に会おうね!!》  ラウルから送られてきた手紙にはそういったことが記されていて、手紙を受け取った日からずっと再会を楽しみにしていました。  でも――。  およそ2年ぶりに帰ってきたラウルは終始上から目線で振る舞うようになっていて、しかも見ず知らずの女性と一緒だったのです。  そういった別人のような態度と、予想外の事態に困惑していると――。そんなわたしに対して彼は、平然とこんなことを言い放ったのでした。 「この間はああ言っていたけど、リュクレースと結んでいる婚約は解消する。こちらにいらっしゃるマリレーヌ様が、俺の新たな婚約者だ」  ※8月5日に追記させていただきました。  少なくとも今週末まではできるだけ安静にした方がいいとのことで、しばらくしっかりとしたお礼(お返事)ができないため感想欄を閉じさせていただいております。

公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に

ゆっこ
恋愛
 王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。  私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。 「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」  唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。  婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。 「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」  ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

処理中です...