私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

336話

すっかり大人しくなった叔父様を横目に、陛下は

「さて、ユーフェミア嬢。聞きたいことはそれで終わりか？」

と私に視線を向けましたわ。

そんな陛下に、私はニッコリと微笑んで

「えぇ、ありがとうございます」

と返事をすると、改めて書類にサインをするよう促されました。

そんな私のことを叔父様は恨めしそうに見ていますが......これも自業自得というやつですわよね。

何度も言いますが、そんなに平民になりたくないのであれば自分で我慢して離婚しなければよかっただけのことですわ。

それなのに、さも自分は不幸であるかのように私に縋って、挙句の果てには私を追い詰めるようなことばかりして........そんな人を相手に優しい言葉などかけるわけもありません。

そう思いながらサインの終わった書類を陛下に差し出すと、それを確認した陛下はニッコリと微笑んで

「これで正式にユーフェミア嬢が侯爵家の当主だな」

と言って、丁寧に書類を懐にしまいましたわ。

それを見たカイン様も

「良かったね」

安心したように私にそう言って微笑んでくれました。

サインをしただけで当主になれるとは思ってもいませんでしたが、正直実感はありませんわね。

だって、今までも当主のようなことはしていましたし......。

パーティーなどの貴族が集まる所でやっと実感できるかしら？

そう思いながら、陛下とカイン様に微笑み返していると、悔しそうに俯いている叔父様に

「遺産も無事にユーフェミア嬢へ渡るし、後見人の必要もなくなる。ダレス殿は好きに生きたらいい」

陛下は、冷たく吐き捨てるようにそう言いましたわ。

それを聞いた叔父様は当然ですが、黙っているわけがありません。

「す、好きに生きろと言われましても.....住むところが......」

陛下にそんなことを言っても無駄だ、というのは自分でもわかっているはずなのに、今も尚、絶望したような顔で陛下にそう言いましたわ。

しかし、陛下はそんな叔父様に対して何かを言うわけでもなく

「門まで案内してやってくれ」

近くにいた兵士にそう指示を出すと、叔父様はまだ何かを言いたそうにしていましたが、兵士に両脇を抱えられてしまっては身動きも取れず、引きずられるようにその場を後にしました。

.......これで終わった、ということなんでしょうか？

そう思いながら、叔父様が完全に応接室から離れたのを確認して

「陛下、ありがとうございます。おかげで助かりましたわ」

と私は陛下に深々と頭を下げましたわ。

それを見た陛下はどっと疲れがきたのか

「カインから話を聞いた時、驚いたが.....やはり性格というのはそう簡単に変わらないな」

大きくため息をつきながらそう言いましたわ。

性格は変わらない、ということは、叔父様は昔からあのような人だった、ということなんでしょう。

お父様たちが亡くなって、最初のうちは私に優しかったのも何か考えがあって、という事だったんでしょうね。

そう思いながら苦笑すると、陛下の言葉にカイン様も

「仕方ありませんよ」

と苦笑していますわ。

はぁ.....平民になりたくないのであれば貴族と結婚すればいいじゃないですか。

一応、領地経営をしていた人ですし.......いや、叔父様くらいの年齢にもなると、あの人くらいしか残っている人はいませんよね。

そう思った私は

「いっその事、同じ人と再婚したら全てが解決だと思いますけどね」

と言って苦笑しましたが、私の言葉に陛下もカイン様も

「それは無理な話だな」

と苦笑していました。

やはり、そんな簡単な話ではありませんわよね。