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山越え

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    さて、山越えだ。行った所ならいつでも行けるから、適宜行くようにしよう。
    木は3日で成長した。作物を分けてもらいながら、家を建てる為の木も植える。

    私もレベル12まで上がって、この辺の魔物なら問題なく倒せるようになった。

「これなら、岩塩の採れる岩場の魔物も、倒せたかも?」
「それはお勧めしないのです。あの村の南に広がる森は、元々世界樹があったので、その影響でマナも濃く残っているのです。だから魔物も強かったのです」

    元々危険地帯って事か。最初に現れた所は比較的安全な所だったんだ。

    それにしても、山登りなんてこっちに来る前の私なら、考えもしなかった。もう…足がピキピキ言ってる。限界じゃない? 
「ミカル…足痛い」

「軟弱者。少し位の筋肉痛で魔法に頼っていると、筋肉を鍛える事ができなくなるのですわ!」
    え…そうなの?痛みを魔法で取り除くと、筋肉が成長しないとか?

「まだ半分も来てないよ?頑張ろうね」
「はい…」
    運動不足。分かってるけど…トールが体を作ったなら、運動神経抜群な体にしてくれればいいのに。

「ほぼ頂上だね」
     遠くで海がキラキラしていて、綺麗だ。
「ここからは下りなんだから、もう弱音吐かないでよ」

    転ぶ。登りでは転ばなかったのに、何故か転ぶ。
「痛いー!」
   
「もう、これで何度目ですの?みっともなくてよ」
「自分はいいよねー。飛んでるんだから」
「あなたも飛べばよろしいのでは?」
「羽根もないのに飛べる訳ないじゃん。まあ、ちっちゃいミカルが歩いたら、日が暮れちゃうだろうけど」
「わたくし、上位精霊ですのよ?地面に足をつけて歩くなんて、出来ませんわ」
「あーそー」
    
    立ち上がり、埃を払う。
    木の根とか石とか、転ぶ要素満載。かといって下ばかり見てる訳にもいかない。

    漸く見えてきた海…すごく綺麗だ。海のない県に住んでいたから、海には憧れがある。

    海の水は今の季節にはまだ冷たい。それでも一頻り遊んでしまった。
「ミノリさん!だめなのです!海には魔物がいるのです!」

    ええっ!そんな…こんな綺麗な海なのに。
    けど、海の魔物は魚や貝。海老や蟹だそうだ。なら、夏になったら海の魔物をゲットする!
    米がないのは残念だけど、せめてお刺身や焼き魚はたべたい。
「ミノリ、当初の目的を忘れないで下さい」

「はい…」
    部屋から持ち出した、大きな鍋で海水を煮詰める。
    確か、上澄みはにがりになるんだよね。

    それと、折角なので貝殻や浮かんでいる海藻も集める。
    あんな掘っ立て小屋じゃなくて、少しでもちゃんとした家を作りたいもんね。

    それと石鹸だ。手洗いうがいを習慣づけたい。

    朧気な知識しかないから、ちゃんとした物が作れるかは分からないけど。

    魔物の皮脂と、灰。試行錯誤して、塩作りと平行して作る。
    当然ほんの少ししか出来ないけど、現状これしか思い付かない。

    あとは日干しレンガかな。でも、型を先に作らないと。

    時間のかかる物を同時進行させようとすると、却って混乱してしまう。元々私はそんなに器用じゃないし。それにもう夜になる。

    効率的にやる為に、スマホの検索機能は残しておいて欲しかった。

「お疲れー、ミノリー、何かツマミほしーな!」
    うわ。酒臭い。

    グラスを片手に、だいぶ酔ってるみたいだ。

    肉と、葉物野菜で炒め物を作る。何だか、近所の大学生を世話してる気分だ。
「ていうか、二十歳は過ぎてるんだよね?」
「…あー?俺は五つの世界を管理する創造神だぞ!何千年生きてると思ってる」

    はぁ…自称神にしか見えないけど。

「神なんだから、滅びる運命の人達を救いたいと思うのは当然だろー?ホトス殿には、新神時代、散々世話になったし…それなのに過剰干渉とか、神器を気軽に与えるなとか煩くてさ。大体、魔物もいない世界にいた子供に、何のサポートもせずに放り出したら、死ねって言ってるようなものじゃん?」

     あれ…?私の事?

「神器って…スマホ?」
「この程度じゃ神器とは言えない!」
    目の前に置かれた油炒めに気がついたトールが、嬉しそうに食べる。
「スマホさ、OK〇〇的な物、使えないのかな?」

「何だそりゃ?」
「検索すると、色々教えてくれる物。塩作りを効率的にやりたいし、石鹸とか紙とか必要じゃん?私も朧気にしか覚えてなくて」

    トールはしばし考えて、私のスマホに手を当てる。
「まあ、これ位なら問題にはならないよな。ミノリにしか使えない訳だし」
「そうなの?」
「落としてもいつの間にか戻ってくる。高性能!」
「有難い!あとさ、贅沢かもしれないけど、折角生き返らせてくれるなら、運動神経も抜群にしてくれれば魔物との戦いも楽に出来たのに」

「あー、それは無理。魂の記憶通りに作らないと、ミノリじゃなくなるし」
    それは怖いな。
「まあ、俺の加護があるからレベルは上がりやすくなってるし、スキルの上がりも速いはずだから、自力で何とか頑張ってくれ」

「それは…ありがとう」
「色々と便利な初級ダンジョンもあるしさ。段階的に強くなれるようになってるし。…あー、ミノリ見てたら、俺もアイツの嫌みに負けてられないな」

    喋っているうちに、酔いも覚めたのかな?
「そういえば、グラスはあるけどお酒はないね?料理酒にするのに分けて欲しいんだけど」
「なら、作ってみれば?このグラスに魔力を注げば酒が出来る」
    魔道具ってやつ?いいな。

    トールのグラスを持ち、必死に魔力を注ぐ。
「こ…これだけ?」
    グラスの底に、ほんの少しだけ出たけど、トールが飲んでしまった。
「おー、やっぱ、いいな」
「って!私の料理酒!」

「怒るなよ。ちょっと確認したんだ」
    私が魔力切れになるまで頑張って、あれだけだったのに、トールがやると、グラスいっぱいに並々とたまる。

    幾つかあった空き瓶に、グラスの料理酒を移す。
「直接飲むなよ?」
「飲まないよ!未成年だもん」

    もうちょい暑くなれば、あの海岸でアサリ、採れないかなー?酒蒸しやりたい。


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