5 / 42
第一章
新生活①
しおりを挟む
ゲッターたちは宴の後、洞窟で休むことにした。
彼らは満腹感と疲労感が交錯する中で、心地よい疲れに包まれていた。
ゲッターは『加工』スキルを使って家を作りたかったが、宴の興奮がまだ冷めやらぬ中では、働く気にはなれなかった。そこで、彼はゴブリンたちと一緒に洞窟の柔らかな土の上に横たわって、心地よい疲れを感じながら休むことにした。
休んでる間は男のゴブリンたちが交代で見張りをするとのことだったのでゲッターとアイナも参加することを申し出た。
女のゴブリンたちは身籠っているしゴブリンの社会では見張りなどは男の役目ということで参加しなかった。
カプルに聞くとゲッターたちを襲ったあの夜は空腹で眠れず、何でもいいから食料はないかと探して夜中なのに森に出たとのことだった。
森の中は真っ暗でゲッターたちの野営の焚き火はとても目立ったいたらしい。
明かりを見つけたカプルは戻ってアッグと見張りのゴブリンを誘ってゲッターたちを襲い返り討ちにあったということだった。
宴の後はとても静かな夜になった。
ゴブリンたちは宴の後の満腹感と疲労感から、結局誰も起きてこなかった。なのでゲッターとアイナが交代で見張りを行った。
静かな夜の中で、ゲッターは昨日からの出来事を思い返していた。
カプルたちゴブリンたちに襲われることは想定していた。森の中なので今まで戦闘になるようなことがなかったのが幸運だったのだ。
しかし彼らの惨状を目の当たりにし、ゲッターの心には疑問が湧き上がった。
彼は、ゴブリンたちがこんな貧しい状況にいるとは思ってもいなかったのだ。
温暖な魔の森は、冬でも雪が降らないため、動物も植物も豊富に存在しているはずだった。食料が不足しているという事実は、彼にとって大きな驚きだった。
まあ魔の森に隣接しているコンタージュ領の領民にも食うのにも困っているものたちはいた。
ゴブリンたちが例外ではないのだろう。
次にゲッターの頭に浮かんだのは宴の様子だった。
コンタージュ領で暮らしていた時にも宴はあった。父たちに連れられて王都のパーティに参加したこともある。
だがそのどれよりも楽しかったのは間違いない。
今まで一番好きな祭りは領都の祭りだったがそれよりも楽しめた。
食事は焼き芋とスープで飲み物は川の水を沸かしたものだ。それでも、心に沁みるものがあったのはなぜだろうか。ゲッターは見張りの間ずっと考え続けていた。
夜が明け、柔らかな光が洞窟の入り口を照らす中、ゲッターとアイナはゴブリンたちを起こして顔を洗わせた。
「おはよう」と声をかけるとちらほらと返事が返ってきた。
顔を洗い終えたゴブリンたちを一列に並ばせるとゲッターは元気な声で再度挨拶した。
「おはようみんな。今日から新しい生活を始めようと思う。でも朝食の前に体操だ。元気よくいくぞ」
ゲッターは一息に言い終えると「イッチ、ニー。イッチ、ニー」と体操を始める。
しかしアイナは一緒にしているがゴブリンたちはポカンとした表情で見ているだけだ。
「みんな私のマネをして身体を動かすんだ。掛け声も忘れずにな」
そう呼びかけるとようやくゴブリンたちも「イッチ、ニー。イッチ、ニー」と体操をし始めた。
体操を終えると男のゴブリンたちは軽く息が弾んでいるくらいだったが、女のゴブリンたちは少し辛そうにしていた。
ゲッターは昨日ガプロが女のゴブリンの役目は出産と子育てで他のことは男の役目で家を出ることもないと言っていたのを思い出した。
女のゴブリンたちは運動不足で体力がないのだろう。妊婦といえども運動は必要だ。
これからの生活を改める必要があるなとゲッターは心に留めた。
「次は発声練習だ。私と同じことを大声で言ってくれ。あ、え、い、う、え、お、あ、お」
ゲッターが大声でいうとアイナが不思議そうに尋ねた。
「ゲッター様その掛け声は何ですか?」
ゲッターは微笑みながら説明した。
「昔領都に来た劇団が練習でやっていたのをまねしているのだ。上手くセリフを言う練習になるらしい」
ゲッターの説明にアイナは納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
「では続けるぞ。一緒に言ってくれ。あ、え、い、う、え、お、あ、お。か、け、き、く、け、こ、か、こ」
ゲッターが発声練習を始めると今度はゴブリンたちも「あ、え、い、う」と一緒に始めた。
ゲッターはガプロが話すのが上手いのはクレスターとたくさん話をしたからだと考えた。
だから発声練習をして他にも話をする機会を増やせば他のゴブリンたちも上手く話せるようになると考えた。
ゴブリンたちからも何か質問があれば答える準備はあったのだがゴブリンたちは素直に発声練習をしたのだった。
朝の体操と発声練習を終え、彼らは残っていた森芋を焼いて朝食にした。
その時にこれからの活動方針についてガプロと打ち合わせをした。
「食料集めと住居の作成を手分けして行なっていきたい」と説明すると、ガプロは疑問を口にした。
「私たちもアイナ殿の食料集めを手伝った方がいいのではないか?住居は洞窟ではダメなのか?」
ゲッターはアイナの能力を強調した。
「アイナは超一流の猟師なんだ。正直私が一緒にいっても足手纏いになるくらいで1人で行った方が効率がいい。手伝うのは獲物を運ぶのだけで充分だ」
ガプロはその言葉に目を丸くし、アイナを驚きの眼差しで見つめた。アイナはその反応に微笑み返し、彼女の存在感の大きさを感じさせた。
「それにやっぱり住居は重要だ。これからたくさん働くからしっかり休めるようにしないとね。このあたりを整備して家を建てようと思う」
「家を建てるとなるとかなり時間がかかるな」とガプロは難しそうに唸る。
「私の『加工』のスキルを使えばそこまで大変ではないよ。それでせっかく作るのだからどんな家を作るか意見が欲しいんだ」
「女たちの家は大きい方がいい。子どもが産まれたら女のゴブリンみんなで子育てすることになる」とガプロは真剣な表情で言った。
「あとできるならそれぞれ部屋を分けて作ってほしい。」
「それはそうするつもりだけど。何か理由があるのかい?」
ゲッターは気になって聞いた。
「ゴブリンは子作りの時に男が女のところに通って行う。前の村ではその都度呼び出して外で行なっていた。でも最初から部屋が別々なら外に出なくて済む」
ガプロは大真面目に答えたがそれを聞いたゲッターとアイナは赤くなった。
それを見てガプロは説明し始めた。
「ゴブリンにとって子作りはとても重要だ。ゴブリンは森の中でとても弱い。だから群れを大きくして大勢で固まっていないとモンスターや大きた動物にやられてしまう」
その説明を聞き、ゴブリンたちの文化や価値観が少しずつ理解できるようになってきた。
ガプロは真剣な顔で続ける。
「ゴブリンは基本的に一度に2匹子どもを産む。まれに1匹や3匹産むこともあるが基本2匹だ。産まれたら村のメス、ではなく女たちが集まってみんなで育てる」
ガプロはアイナに睨まれると女と訂正してから続けた。
「女たちも子どもも村の宝だ。だから家の中で大事にする。でも外にも出た方がいいのだな。今日はみんないい顔をしている」
ガプロはうれしそうに笑った。
それを見ていたアイナはまた訂正した。
「それなら匹ではなく人って数えて。1人、2人よ」
この言葉でアイナが本気でゴブリンたちと対等に付き合っていくつもりなのだとゲッターは感じた。
ガプロは頷くと続けた。
「このあたりには私たちが住んでいた村と、離れたところにオークの村がある。私たちがここに住んでいることがわかれば元の村のものたちが食料を奪いに来るかもしれない。そのことも覚えておいてくれ」
ガプロがそう言ったところで朝食は終わりとなった。
朝食の片付けが終わるとアイナは早速1人で猟に出かけた。
それを見送ったゲッターはまず女のゴブリンたちに矢の作り方を教えた。
『加工』のスキルで鏃と棒、そしてそれを結び付ける紐を用意して、やり方を丁寧に教えた。
矢尻に付ける鳥の羽はすぐにアイナが用意してくれるだろうと言ってお願いした。
女のゴブリンたちへの矢作りの指導を終えるとゲッターは、ガプロ、カプル、アッグとまだ名前のないゴブリンを連れて家造りに取り掛かった。
最初に女ゴブリンたちの家を建てることに決めた。それは彼女たちが妊婦であり、また「女と子どもは村の宝」というガプロの考えに賛同したからだった。
まずは家を建てる場所を作るために大きな木を処分することにした。
『加工』で木を持ち運びやすい大きさの角材に加工するとゴブリンたちに邪魔にならない場所に運んでもらう。
女ゴブリンたちの家ということで大きめの家を建てるためかなりのスペースを開けることになった。
2本の木を加工した時にアイナが戻ってきた。
「ゲッター様。獲物を運ぶので手伝ってください」
アイナは肩に掛けていた中身が入った袋を空の袋と交換した。きっと中身は採取した食料だろう。
アイナに連れられて男ゴブリンたちと森の奥に入っていく。
森歩きが得意なゲッターとアイナのスピードにゴブリンたちはついて来れず少し時間がかかってしまった。
森を進んでいくとアイナは静かに立ち止まり、周囲に注意を払うようジェスチャーをした。
ゲッターが静かにアイナの視線の先を探るとそこには矢に射られたイノシシらしきものの死体とそれに嚙りつく3匹のオオカミの姿があった。
「ゲッター様は手前のを」
アイナは小さな声でそう言うと矢筒から2本矢を手にとり、音もたてずに移動していった。
ゲッターも矢を手に取って弓を構えるとアイナの姿を探した。
アイナは少し離れた場所にいて、目が合うと頷いたのでゲッターは手前のオオカミ目がけて矢を放った。
矢は見事にオオカミの背に命中して「ギャン!」とオオカミは鳴いたが絶命させられなかったようだ。
逃げ出そうとしたのを見てゲッターは素早く2射目を放ちとどめを刺した。
アイナはさすがというか2匹とも1発で仕留めていた。
ゲッターより狙いにくい位置からだというのに両方とも見事に頭部を射抜いていた。
その様子を見たゴブリンたちは大騒ぎになった。
「スゴイ、スゴイ!」と声を上げて、ゲッターとアイナの狩りの腕前に感嘆の声を寄せた。
オオカミたちに食べられていたイノシシはその場で解体して食べられる部分だけ袋に入れて持って帰ることにした。
オオカミはゲッターが1匹。ガプロとまだ名前のないゴブリンで1匹。カプルとアッグで1匹持って帰ることにした。
アイナは他のモンスターや動物に襲われないよう、周囲の警戒を担当することになった。
獲物を担いでいる分、帰りはもっと時間がかかると思ったが、ゴブリンたちのテンションは猟の成功のおかげで最高潮で、思ったよりも早く洞窟に帰ることができた。
それでも洞窟に帰りついた時は日が傾き始める頃になっていた。
洞窟に帰りついて獲物を下ろすとゲッターにまだ名前のないゴブリンが話かけてきた。
「オレニモ…ナマエツケテ」
彼はカプルよりも少し背が低く、体格も小柄だったが、手先が器用で女ゴブリンたちに矢の作り方を教えている姿が印象的だった。
ゲッターは「わかった」と言って少し考える。
「ではジュアはどうだ。工芸の神様の名前をもらったのだが」とゲッターは笑顔で言った。
その瞬間ジュアは満面の笑顔を浮かべるとカプルやアッグのように「ジュア、ジュア」と繰り返し言いながらその名前を覚え始めた。
それを見ていたガプロが、「今夜も宴ですな」と言い、ゲッターは笑顔で「そうだな」と返した。
ゲッターは、これからの生活がどのように展開していくのか、様々な可能性を考えながら、仲間たちと共に過ごす時間を心から楽しみにしていた。大切な仲間たちとの絆を深めながら、彼は新しい冒険が待っていることを感じていた。次の朝が来るまで、彼らは楽しい思い出を作り続けるのだった。
⭐️⭐️⭐️
❤️応援されるととても喜びますのでよかったらお願いします。
励ましのコメントもお待ちしてます。
彼らは満腹感と疲労感が交錯する中で、心地よい疲れに包まれていた。
ゲッターは『加工』スキルを使って家を作りたかったが、宴の興奮がまだ冷めやらぬ中では、働く気にはなれなかった。そこで、彼はゴブリンたちと一緒に洞窟の柔らかな土の上に横たわって、心地よい疲れを感じながら休むことにした。
休んでる間は男のゴブリンたちが交代で見張りをするとのことだったのでゲッターとアイナも参加することを申し出た。
女のゴブリンたちは身籠っているしゴブリンの社会では見張りなどは男の役目ということで参加しなかった。
カプルに聞くとゲッターたちを襲ったあの夜は空腹で眠れず、何でもいいから食料はないかと探して夜中なのに森に出たとのことだった。
森の中は真っ暗でゲッターたちの野営の焚き火はとても目立ったいたらしい。
明かりを見つけたカプルは戻ってアッグと見張りのゴブリンを誘ってゲッターたちを襲い返り討ちにあったということだった。
宴の後はとても静かな夜になった。
ゴブリンたちは宴の後の満腹感と疲労感から、結局誰も起きてこなかった。なのでゲッターとアイナが交代で見張りを行った。
静かな夜の中で、ゲッターは昨日からの出来事を思い返していた。
カプルたちゴブリンたちに襲われることは想定していた。森の中なので今まで戦闘になるようなことがなかったのが幸運だったのだ。
しかし彼らの惨状を目の当たりにし、ゲッターの心には疑問が湧き上がった。
彼は、ゴブリンたちがこんな貧しい状況にいるとは思ってもいなかったのだ。
温暖な魔の森は、冬でも雪が降らないため、動物も植物も豊富に存在しているはずだった。食料が不足しているという事実は、彼にとって大きな驚きだった。
まあ魔の森に隣接しているコンタージュ領の領民にも食うのにも困っているものたちはいた。
ゴブリンたちが例外ではないのだろう。
次にゲッターの頭に浮かんだのは宴の様子だった。
コンタージュ領で暮らしていた時にも宴はあった。父たちに連れられて王都のパーティに参加したこともある。
だがそのどれよりも楽しかったのは間違いない。
今まで一番好きな祭りは領都の祭りだったがそれよりも楽しめた。
食事は焼き芋とスープで飲み物は川の水を沸かしたものだ。それでも、心に沁みるものがあったのはなぜだろうか。ゲッターは見張りの間ずっと考え続けていた。
夜が明け、柔らかな光が洞窟の入り口を照らす中、ゲッターとアイナはゴブリンたちを起こして顔を洗わせた。
「おはよう」と声をかけるとちらほらと返事が返ってきた。
顔を洗い終えたゴブリンたちを一列に並ばせるとゲッターは元気な声で再度挨拶した。
「おはようみんな。今日から新しい生活を始めようと思う。でも朝食の前に体操だ。元気よくいくぞ」
ゲッターは一息に言い終えると「イッチ、ニー。イッチ、ニー」と体操を始める。
しかしアイナは一緒にしているがゴブリンたちはポカンとした表情で見ているだけだ。
「みんな私のマネをして身体を動かすんだ。掛け声も忘れずにな」
そう呼びかけるとようやくゴブリンたちも「イッチ、ニー。イッチ、ニー」と体操をし始めた。
体操を終えると男のゴブリンたちは軽く息が弾んでいるくらいだったが、女のゴブリンたちは少し辛そうにしていた。
ゲッターは昨日ガプロが女のゴブリンの役目は出産と子育てで他のことは男の役目で家を出ることもないと言っていたのを思い出した。
女のゴブリンたちは運動不足で体力がないのだろう。妊婦といえども運動は必要だ。
これからの生活を改める必要があるなとゲッターは心に留めた。
「次は発声練習だ。私と同じことを大声で言ってくれ。あ、え、い、う、え、お、あ、お」
ゲッターが大声でいうとアイナが不思議そうに尋ねた。
「ゲッター様その掛け声は何ですか?」
ゲッターは微笑みながら説明した。
「昔領都に来た劇団が練習でやっていたのをまねしているのだ。上手くセリフを言う練習になるらしい」
ゲッターの説明にアイナは納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
「では続けるぞ。一緒に言ってくれ。あ、え、い、う、え、お、あ、お。か、け、き、く、け、こ、か、こ」
ゲッターが発声練習を始めると今度はゴブリンたちも「あ、え、い、う」と一緒に始めた。
ゲッターはガプロが話すのが上手いのはクレスターとたくさん話をしたからだと考えた。
だから発声練習をして他にも話をする機会を増やせば他のゴブリンたちも上手く話せるようになると考えた。
ゴブリンたちからも何か質問があれば答える準備はあったのだがゴブリンたちは素直に発声練習をしたのだった。
朝の体操と発声練習を終え、彼らは残っていた森芋を焼いて朝食にした。
その時にこれからの活動方針についてガプロと打ち合わせをした。
「食料集めと住居の作成を手分けして行なっていきたい」と説明すると、ガプロは疑問を口にした。
「私たちもアイナ殿の食料集めを手伝った方がいいのではないか?住居は洞窟ではダメなのか?」
ゲッターはアイナの能力を強調した。
「アイナは超一流の猟師なんだ。正直私が一緒にいっても足手纏いになるくらいで1人で行った方が効率がいい。手伝うのは獲物を運ぶのだけで充分だ」
ガプロはその言葉に目を丸くし、アイナを驚きの眼差しで見つめた。アイナはその反応に微笑み返し、彼女の存在感の大きさを感じさせた。
「それにやっぱり住居は重要だ。これからたくさん働くからしっかり休めるようにしないとね。このあたりを整備して家を建てようと思う」
「家を建てるとなるとかなり時間がかかるな」とガプロは難しそうに唸る。
「私の『加工』のスキルを使えばそこまで大変ではないよ。それでせっかく作るのだからどんな家を作るか意見が欲しいんだ」
「女たちの家は大きい方がいい。子どもが産まれたら女のゴブリンみんなで子育てすることになる」とガプロは真剣な表情で言った。
「あとできるならそれぞれ部屋を分けて作ってほしい。」
「それはそうするつもりだけど。何か理由があるのかい?」
ゲッターは気になって聞いた。
「ゴブリンは子作りの時に男が女のところに通って行う。前の村ではその都度呼び出して外で行なっていた。でも最初から部屋が別々なら外に出なくて済む」
ガプロは大真面目に答えたがそれを聞いたゲッターとアイナは赤くなった。
それを見てガプロは説明し始めた。
「ゴブリンにとって子作りはとても重要だ。ゴブリンは森の中でとても弱い。だから群れを大きくして大勢で固まっていないとモンスターや大きた動物にやられてしまう」
その説明を聞き、ゴブリンたちの文化や価値観が少しずつ理解できるようになってきた。
ガプロは真剣な顔で続ける。
「ゴブリンは基本的に一度に2匹子どもを産む。まれに1匹や3匹産むこともあるが基本2匹だ。産まれたら村のメス、ではなく女たちが集まってみんなで育てる」
ガプロはアイナに睨まれると女と訂正してから続けた。
「女たちも子どもも村の宝だ。だから家の中で大事にする。でも外にも出た方がいいのだな。今日はみんないい顔をしている」
ガプロはうれしそうに笑った。
それを見ていたアイナはまた訂正した。
「それなら匹ではなく人って数えて。1人、2人よ」
この言葉でアイナが本気でゴブリンたちと対等に付き合っていくつもりなのだとゲッターは感じた。
ガプロは頷くと続けた。
「このあたりには私たちが住んでいた村と、離れたところにオークの村がある。私たちがここに住んでいることがわかれば元の村のものたちが食料を奪いに来るかもしれない。そのことも覚えておいてくれ」
ガプロがそう言ったところで朝食は終わりとなった。
朝食の片付けが終わるとアイナは早速1人で猟に出かけた。
それを見送ったゲッターはまず女のゴブリンたちに矢の作り方を教えた。
『加工』のスキルで鏃と棒、そしてそれを結び付ける紐を用意して、やり方を丁寧に教えた。
矢尻に付ける鳥の羽はすぐにアイナが用意してくれるだろうと言ってお願いした。
女のゴブリンたちへの矢作りの指導を終えるとゲッターは、ガプロ、カプル、アッグとまだ名前のないゴブリンを連れて家造りに取り掛かった。
最初に女ゴブリンたちの家を建てることに決めた。それは彼女たちが妊婦であり、また「女と子どもは村の宝」というガプロの考えに賛同したからだった。
まずは家を建てる場所を作るために大きな木を処分することにした。
『加工』で木を持ち運びやすい大きさの角材に加工するとゴブリンたちに邪魔にならない場所に運んでもらう。
女ゴブリンたちの家ということで大きめの家を建てるためかなりのスペースを開けることになった。
2本の木を加工した時にアイナが戻ってきた。
「ゲッター様。獲物を運ぶので手伝ってください」
アイナは肩に掛けていた中身が入った袋を空の袋と交換した。きっと中身は採取した食料だろう。
アイナに連れられて男ゴブリンたちと森の奥に入っていく。
森歩きが得意なゲッターとアイナのスピードにゴブリンたちはついて来れず少し時間がかかってしまった。
森を進んでいくとアイナは静かに立ち止まり、周囲に注意を払うようジェスチャーをした。
ゲッターが静かにアイナの視線の先を探るとそこには矢に射られたイノシシらしきものの死体とそれに嚙りつく3匹のオオカミの姿があった。
「ゲッター様は手前のを」
アイナは小さな声でそう言うと矢筒から2本矢を手にとり、音もたてずに移動していった。
ゲッターも矢を手に取って弓を構えるとアイナの姿を探した。
アイナは少し離れた場所にいて、目が合うと頷いたのでゲッターは手前のオオカミ目がけて矢を放った。
矢は見事にオオカミの背に命中して「ギャン!」とオオカミは鳴いたが絶命させられなかったようだ。
逃げ出そうとしたのを見てゲッターは素早く2射目を放ちとどめを刺した。
アイナはさすがというか2匹とも1発で仕留めていた。
ゲッターより狙いにくい位置からだというのに両方とも見事に頭部を射抜いていた。
その様子を見たゴブリンたちは大騒ぎになった。
「スゴイ、スゴイ!」と声を上げて、ゲッターとアイナの狩りの腕前に感嘆の声を寄せた。
オオカミたちに食べられていたイノシシはその場で解体して食べられる部分だけ袋に入れて持って帰ることにした。
オオカミはゲッターが1匹。ガプロとまだ名前のないゴブリンで1匹。カプルとアッグで1匹持って帰ることにした。
アイナは他のモンスターや動物に襲われないよう、周囲の警戒を担当することになった。
獲物を担いでいる分、帰りはもっと時間がかかると思ったが、ゴブリンたちのテンションは猟の成功のおかげで最高潮で、思ったよりも早く洞窟に帰ることができた。
それでも洞窟に帰りついた時は日が傾き始める頃になっていた。
洞窟に帰りついて獲物を下ろすとゲッターにまだ名前のないゴブリンが話かけてきた。
「オレニモ…ナマエツケテ」
彼はカプルよりも少し背が低く、体格も小柄だったが、手先が器用で女ゴブリンたちに矢の作り方を教えている姿が印象的だった。
ゲッターは「わかった」と言って少し考える。
「ではジュアはどうだ。工芸の神様の名前をもらったのだが」とゲッターは笑顔で言った。
その瞬間ジュアは満面の笑顔を浮かべるとカプルやアッグのように「ジュア、ジュア」と繰り返し言いながらその名前を覚え始めた。
それを見ていたガプロが、「今夜も宴ですな」と言い、ゲッターは笑顔で「そうだな」と返した。
ゲッターは、これからの生活がどのように展開していくのか、様々な可能性を考えながら、仲間たちと共に過ごす時間を心から楽しみにしていた。大切な仲間たちとの絆を深めながら、彼は新しい冒険が待っていることを感じていた。次の朝が来るまで、彼らは楽しい思い出を作り続けるのだった。
⭐️⭐️⭐️
❤️応援されるととても喜びますのでよかったらお願いします。
励ましのコメントもお待ちしてます。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる