貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

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第三章

番外編③

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 まだサルバトールがアトラ村を訪れる前のことである。

 ヴェルデリオンが村を訪れて散歩していると、エラが子どもたちと遊んでいるのを見かけた。
 エラと子どもたちもヴェルデリオンに気づいて「ヴェルデリオーン!」と手を振っている。
 ヴェルデリオンは子どもたちのところへ行くと「何をしているの?」と子どもたちに聞いた。
 子どもたちは元気に「石蹴りー!ヴェルデリオンも一緒にやろう」とヴェルデリオンを誘った。
 ヴェルデリオンも「いいよ。一緒にやろう」と気軽に応じたがエラは心配して「大丈夫?何か用事があったんじゃないの?」と尋ねた。
 ヴェルデリオンは笑顔で「大丈夫!ちょうど暇してたんだ」と答えた。
 それを聞いたエラも「ならいっぱい楽しもう」と笑った。

 エラとヴェルデリオンは特に仲が良かった。
 2人とも種族の違いはあれど見た目だけなら12.3歳くらいと同年代に見えた。
 お互いに趣味嗜好が似ていて話しも合うので一緒にいて楽だった。
 ただ見た目は12.3歳だがヴェルデリオンは長久の時を生きるエルダードラゴンで、エラは子持ちの人妻だ。
 見た目で人を判断してはいけない良い例だと言えた。

 エラは現在また妊娠していた。今度の相手はガプロではなくて別のゴブリンであった。
 ゴブリンにとって子作りは大事なことだ。
 エラはモテる方なので祭りの夜に求められると応じていた。

 妊娠中のためエラは現在あまり作業には参加せず、子守りを担当することが多くなっていた。
 だが子守りばかりでも飽きるのでヴェルデリオンが一緒に遊んでくれるのはとてもうれしかった。

 エラとヴェルデリオンが子どもたちと石蹴りをして遊んでいると、村を視察中のゲッターが通りかかった。
 ゲッターを見かけたエラは「ゲッター様!」と元気よく声をかけた。
 エラたちに気づいたゲッターも笑顔で近づいてきて「ヴェルデリオンいらっしゃい。みんなも元気に遊んでいるんだね」と声をかけた。
 子どもたちも元気に「石蹴りしてる」「ゲッター様も一緒にやろう」とゲッターに声をかけている。
 ゲッターは「村の見回りが終わったらまた来るからその時やろう」と答えていた。
 ふとエラは思い出したように「ゲッター様。もうすぐアイナの誕生日ですが、何をプレゼントするのですか?」とゲッターに尋ねた。
 ゲッターが「プレゼント?」と聞くとエラは「人間は誕生日にお祝いとしてプレゼントをあげる習慣があるとウタから聞きました。もうすぐアイナの誕生日だからゲッター様は何をあげるのかなと思って」と答えた。
 横で聞いていたヴェルデリオンが「人間にはそんな習慣があるんだ。でもぼくは誕生日を覚えてないや」と残念そうに言った。
 エラは笑顔で「エラも誕生日覚えてなかったからゲッター様たちと出会った日にしたんだ。自分で誕生日決めたんだよ」とヴェルデリオンに教えてあげるとヴェルデリオンも「ならぼくもゲッターたちが家に来た日を誕生日にしよう」と言った。
 ゲッターは「そんなに簡単に決めていいのかな」と思ったが口にしたのは「そう言えば今までアイナに誕生日プレゼントをあげたことはなかったな」という言葉だった。
 それを聞いたエラは「ゲッター様ダメだよ!きっとアイナはゲッター様からのプレゼント楽しみにしているよ」と言った。

 しかし今までは乳姉弟とは言え、伯爵家の子息とそのメイドという関係だった。明確な主従関係にあり従者にプレゼントをあげたりしない。逆にゲッターも貴族の友人からプレゼントをもらったことはあるが、メイドであるアイナからプレゼントをもらったことはない。身分の違いとはそういうものだ。
 ゴブリンには力関係はあっても身分の違いはない。
 エラにどうやって説明するかゲッターが考えていると「アイナはゲッター様からプレゼントをもらったらきっとすごく喜ぶよ」とエラが力強く言った。
 ゲッターはその言葉に反応して「そうかな?」と聞き返した。
 エラはその反応がうれしかったのか「ぜったいぜったい喜ぶよ!」と言った。
 その言葉でゲッターもその気になり「でも何をプレゼントしたら喜んでもらえるかな」と尋ねた。
 これにはヴェルデリオンが「ゲッターの手作りのものがいいよ。ぼくもゲッターたちが作ってくれたティーセットすごくうれしかったからね」と提案した。
 ゲッターは「そうか。それで何を作ろうか?」と考えながら言った。
 それにエラが「アクセサリーにしたら?アルがガプロからもらったネックレスをすごく大事にしているよ。それこそ肌身離さずね」と言った。
 それを聞いてゲッターは「よし!それなら私もネックレスを作るとしよう。エラとヴェルデリオンも協力してくれないか?」と頼んだ。
 2人は声を合わせて「任せてよ!」と応えた。

 それからしばらくした日の夕方、猟から帰ったアイナはゲッターの執務室に呼ばれた。
 珍しくゲッターはもじもじしていて用件を言わなかった。
 アイナはどうしたのかわからず「ゲッター様。体調でも悪いのですか?」と尋ねた。
 ゲッターは意を決したように「いや違うんだ。もうすぐアイナの誕生日だろう。だからプレゼントを用意したんだ」と言って木箱を差し出してきた。
 アイナは思いもよらぬサプライズに固まってしまったが、木箱を大事に受けとると満面の笑みで「ありがとうございます」と返した。
 そのアイナの様子にホッとしたのか「いや、エラとヴェルデリオンに協力してもらって用意したんだ。上手くできているといいのだが」と答えた。
 アイナが「開けてみてもいいですか?」とゲッターに聞くと「いや、手作りなので目の前で見られるのは恥ずかしい。あとで1人で見てくれ」とゲッターは赤くなりながら言った。
 アイナはクスリと笑うと「では1人でじっくり見ます。ありがとうございます」と言った。
 アイナが退室しようとするのでゲッターは呼び止めて「アイナ誕生日おめでとう」と祝福した。

 アイナは自室に戻ると早速木箱を開けた。
 中には一つのネックレスが入っていた。
 そのネックレスは一目でゲッターの手作りだとわかった。
 なぜなら芸術性のカケラもなかったからだ。
 キラキラする石もなんでこんな形に加工するのかわからないし、塗装にしてもなんでこんな色で塗るのかわからなかった。
 よくわからない角みたいなものがついていたが、何を表現しているのかさっぱりわからなかった。
 どれもこれもアンバランスで幼児が作ったみたいだったが、これは紛れもなくゲッターがアイナのために作ってくれたものだとわかった。
  
 そう確信したアイナはうれしそうにネックレスを首にかけたのであった。

 翌日喜びいっぱいで浮かれたアイナは、ミロスとヨイチに止められるほど獲物を狩りまくったのであった。
             ⭐️⭐️⭐️

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