貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

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第四章

サルバトール再訪

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 初めての洗礼式の後、早速宿場町を造り始めた。
 宿場町の建設はスキルの訓練にもってこいであったし、工事の得意なオークにも頑張ってもらったのであっという間に出来上がった。

 宿場町がどんどん出来上がっていく光景にワーウルフやワーキャット、ワーラットたちは大興奮していた。

 ゲッターのスキルを見慣れているアトラ村の住人たちも驚くほどの早さで出来上がっていくのだから無理もない話だ。

 こうして出来上がった宿場町の名前はミスティックと名付けられた。森の西側と違い、この辺はあまり霧は発生しないのだが、町を運営する守り人たちの合議で決められたのだから文句はつけられない。

 こうしてミスティックが出来上がり、市場も開設されエルダーミストの森はかつてない盛り上がりを見せていた。

 ゲッターはミロスにミスティック常駐を任せて、カプルと一緒にアトラ村へ戻ってきた。
 カプルと一緒に戻ってきたのは、ミロスよりカプルの方がスキルの扱いに苦戦していたからだ。

 ミロスは『身体強化』のスキルで身体を硬化することがすでに問題なくできるようになっていた。
 自分の任意の部位に魔力を送ることで、好きなように硬化できている。
 ゲッターのロングソードをスキルを使って身体で受けて見せたくらいだ。
「これはいいスキルを授かった」と笑顔で語っていた。

 一方、カプルはまだまだスキルを使いこなせているとは言えなかった。
 魔力を送ることで力を強くしたり、素早く動けるようになることはわかっているのだが、その調整に苦労していた。
 つまり『身体強化』のスキルを使っても思い通りに身体が動かせないのだ。
 ゲッターの見立てではおそらくカプルは魔力が強すぎてコントロールできていないように思えた。
 スキル発動時に魔力を強く込めすぎているのだ。
 これは練習して慣れていくしかない。
 カプルにスキルの訓練をする時間を作るためにアトラ村へ連れて帰ってきたのであった。

 ただこれでゲッターがカプルに剣で勝てなくなるのは確実であった。
 隠れてヴェルデリオンに稽古をつけてもらうなどして足掻いてきたが、一本も取れなくなるのは時間の問題だろう。
 悔しい思いはあったが、カプルの才能と努力の結果である。
 ゲッターはカプルがスキルを使いこなせるようになったら素直にお祝いしようと心に決めたのであった。

 アトラ村に戻ってからもゲッターは忙しい日々を過ごしていた。
 今ではアイナには猟に出ないでレイクと一緒にゲッターの補佐をしてもらわないと回らないくらいであった。
 それというのもアトラ村の人口が急増しているのが原因である。
 食料事情の改善に加えて、給食制度によって食料を与えてくれる男が女を誘うという風習も無くなった。それによってアトラ村では自由恋愛を謳歌する若者が急増してベビーラッシュとなった。
 それにエリーとヴェルデリオンが村に薬草の知識を授けてくれたので、病気で死ぬ者は激減した。

 また、ゲッターがゴブリンたちと一緒に暮らしてみてわかったことだが、ゴブリンは人間よりも早熟であった。
 おそらく10歳くらいで急速に成長し、12、3歳くらいで成人を迎えるようであった。
 エラの見た目が12、3歳くらいなのはもしかしたら本当にそれくらいかもしれないが、彼女が数字を数えられるようになって決めた自分の年齢はウタと同じ18歳だ。
 ゲッターとアイナより2つ年上だ。

 また、ゴブリンたちは身体が出来上がり働けるようになれば、大人と一緒に働く社会である。
 子どもたちが日々の教育と訓練でどんどん一人前になっていくので、労働人口も増加した。
 アトラ村も土地不足となり森の開拓を続けている状況である。
 人口が増えて村が広くなれば村長の仕事が増えるのは道理である。
 急いで秘書を増やそうと心に誓うゲッターであった。

 ゲッターが執務室で仕事をしているとエリーがやってきた。
 ゲッターが「1人で来たの?ヴェルデリオンは?」と聞いた。
 エリーはアイナが淹れたお茶を飲んでから「ヴェルデリオンは子どもたちに途中で捕まってしまいました。私はゲッター様に伝える用件があるからと言ってなんとか逃げてきたのです」と苦笑しながら答えた。
「それで今日はどうしたの?」とゲッターは聞いた。
 自由人のヴェルデリオンと違い、エリーは世界樹の世話役としての仕事があり、何か用事がないとアトラ村には来ない。
 エリーは前置きなしに「サルバトール様がエルダーミストの森に入りました。今回は護衛を連れているようです」と教えてくれた。
 ゲッターは少し考えた後「商売で来た感じではないのかな?」とエリーに尋ねた。
 エリーは「荷物と進行方向から森を抜けてリスモンズ王国に向かうようには見えません。アトラ村で何か商売をするつもりかどうかは外見ではわかりませんでした」と答えた。
 それを聞いてゲッターは笑顔で「エリー。教えてくれてありがとう。もう少ししたら迎えに行くよ」と言った。
 エリーは辞去の挨拶をすると「ヴェルデリオンには先に帰ると伝えてください」と言って帰っていった。
 ゲッターはレイクにエリーの伝言をヴェルデリオンに伝えさせるように言うと、執務室の椅子に座って「さて、何の用事で来たのかな?」とアイナに話しかけた。
 アイナはエリーのお茶を片付けながら「あまりいい予感はしませんね」と答えた。
 ゲッターは頷くと「私も同じだよ。村で待っていてもいいけど、気になるからやっぱり迎えに行こう」とアイナに言った。

 ゲッターはアイナに頼んで先触れを出してもらった。
 行き違いになるのはごめんだからだ。

 ゲッターは翌日アイナを伴って村を出発した。
 出発してから3日後、予定の場所でサルバトールと出会うことができた。

 サルバトールはゲッターを見つけると「おお、ゲッター殿。わざわざすみません」と笑顔で挨拶した。
 ゲッターも笑顔で「サルバトール殿もようこそおいでくださいました」と応えた。
「村まであと3日の距離ですが、話は村に着いてからにしますか?」とゲッターは尋ねた。
 サルバトールは首を振ると「会えたなら早く伝えた方がいいでしょう。今回私はフィオレン王子の遣いとして来たのです」と答え、荷物から書状を取り出した。
 ゲッターは書状を受け取ると封蝋を確認した。
 グリプニス王家の封蝋がしてあった。
 ゲッターは「失礼」とサルバトールに告げてから書状を開いた。
 中には魔の森は古来よりグリプニス王国の領土であること。そのため魔の森の住人はグリプニス王国に従属し、国民としての義務である税と使役を納めるよう書かれていた。
 ゲッターは書状を荷物に仕舞うと「サルバトール殿は書状の内容はご存知か?」と尋ねた。
 サルバトールは頷くと「すでにフィオレン王子は万を超える軍勢を率いてこちらに向かっているはずです。戦うだけ無駄だから降伏するように説得しろと命じられて来ました」と答えた。
 ゲッターは「大人しく従属すればグリプニス王国の国民としての権利は保障するとあるけど、本当かなぁ?」とまるで信じていない様子で聞いた。
 サルバトールはこれには首を振り「フィオレン王子はイレ殿やゴータ殿、ペル殿を捕まえて作品を作らせるつもりです。また村のゴブリンを使って金を掘らせる計画も立てています。村のゴブリンたちは奴隷としか思っていません」と答えた。
「それにしても一万以上の軍勢とは、高く買ってくれたね」とゲッターがボヤくと、サルバトールは悔しそうに「実はイレ殿たちの作品がゼルカンからフィオレン王子に献上されてしまったのです。ゼルカンとしてはアトラ村での敗北を少しでも取り返したかったのでしょう。そのため今、王都ではアトラ村の作品の話題で持ちきりです。今回の行軍に参加して少しでもおこぼれに預かりたい貴族たちが多く出たためにこれだけの軍勢になりました」と説明した。
 ゲッターはなるほどと呟くと「ということは騎士団はあまり参加していないのかな?」と尋ねた。
 サルバトールは「フィオレン王子直属の騎士が中心で、騎士団としては参加していません。後はフィオレン派閥の貴族の部下と私兵たちになると思います。私が王都を発つ時はそのような編成でした」と教えてくれた。
 ゲッターは頷くと目線でアイナに合図をした。
 アイナは護衛に袋を渡して「アトラ村名物の燻製とパンになります。どうぞ召し上がりください」と言った。
 護衛たちは思わぬ土産に大喜びだ。
 次にアイナは小さな袋と手紙をサルバトールに渡した。
 サルバトールが「これは?」と聞くので、ゲッターは「忙しくてペルにしか会えなかったんだ。茶碗、それと子どもたちと一緒に書いた絵だそうだ」と言った。
 サルバトールは予想していなかったようでかなり驚いていた。
「この前の戦さにも巻き込まれてサルバトール殿のことをとても心配していたよ。見てもらいたいものをたくさん作って待っていると伝えてくれとのことだ」
 この言葉はサルバトールにとってとてもうれしかったようで、思わず感極まっていた。
「サルバトール殿に安心してアトラ村を訪れてもらえるようになんとかするつもりだ。待っていてくれ」とゲッターが言うと、サルバトールは「アトラ村の平穏を心待ちにしています」と言って頭を下げた。
 ゲッターは今後のことを思案しながらアトラ村への帰途についた。 
           ⭐️⭐️⭐️

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