「愛さない」と告げるあなたへ。ほか【異世界恋愛短編集】

みこと。

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「愛さない」と告げるあなたへ。奇遇ですね? 私もです。

3.愚かなヨハネス

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 ユーリアの周りに、ヴァッと青紫の炎が燃え上がった。
 炎に照らし出され、青く見える肌で"ユーリア"が言う。

「おかしな話ではなくって? 魔王に備えるために、悪魔を呼び出すなんて」

 クスクスとユーリアの皮を被ったモノ・・が笑う。

「ユーリアがのこした身体を使って、貴方様との子を産むことで契約は完遂となります。それでやっと、悪魔の世界に戻れますの。ですから、さあ。わたくしをはらませてくださいませ」

 ヨハネスは、己に近づいてくる白い指。
 自身の首にまわされていく細い腕を、振り払えないでいた。

 華奢なそれらなのに、まるで大鎌を当てられているような恐怖を感じる。

 膝が震えた。

 青紫の炎は熱を感じさせることなく、いつしか消えていて、目の前には、整い過ぎるほど整ったユーリアの顔がある。

「ひっ……、あ……」

「そうそう。契約金なのですが、アレンス伯爵の魂だけでは足りませんので、上乗せしていただくことにしました。だってこの身体、聖女の血を引いてますのよ? 悪魔のわたくしが滞在するには、居心地が悪すぎて。なので、事が成就したあかつきには、貴方様の魂も……。わたくしのものになります」

「な……なんだって……?」

「結婚前にいくつか書類にサインなさいましたでしょう? その中に、あったはずです。それとも"ユーリア"に興味がないから、よく見てらっしゃらなかった?」

(俺はそんな書類、見ていない……。だがたくさんのサインをしたことは確か。まさか、その中に紛れていた?)

 ヨハネスは必死で当時の記憶を遡るが、思い当たるものはない。
 けれども"興味がなかったから、よく見てなかっただけだろう"と言われると、否定出来ない。

 面倒臭い手続きだと、おざなりに対応してしまったことを今更ながらに後悔する。

(この女と子をせば──、俺が死ぬ??!)

「あと、ご忠告ですが、貴方様が"ユーリアの身体"を害しようとした場合や、拘束しようとした場合。その時は即座に魂をいただきます」

(!!)

「ゆめゆめ、おかしなお考えはいだかれませぬよう──」

 唇が触れそうなくらい"ユーリア"の顔が近づき、神秘的な蒼い瞳が、先の炎のように揺れた。

「ひあっ、あっ……」

 外れない腕から逃れるように、ヨハネスの長身は尻から床に落ちた。

「さ、旦那様?」

 ユーリアが羽織っていたショールを開く。

 ほんの小一時間前まで、欲しくてたまらなかった豊満な胸が。手を這わせたいと願った細腰が。どんな弾力だろうと気になっていた尻が。

 そのすべてが自分を襲い来る食虫植物のように、恐ろしく映った。

「お、俺は絶対に、お前を抱かない!!」

 そのまま。這うように床を逃げ、ヨハネスは大慌てで部屋から出て行った。
 ユーリアを振り返ることもなく、ほうほうのていで去った彼を、ユーリアは黙って見送った。
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