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「もうひとりいるはずだ!」恋する王子は公爵家が隠す初恋相手をポーカーフェイスで突き止める
公爵令嬢エリス・カーティシアの華麗なチェック・メイト~「殿下、浮気は許しませんよ?」
しおりを挟む「入れ替わった、だと?」
王太子ライアンは信じられないことを聞いたと、目の前の婚約者を見た。
彼の前にはふたり。
婚約相手である公爵令嬢エリスと、彼女の双子の弟カイルが並んで立っている。
「どういうことだ?」
頭を抑えながら、事実確認をする。
エリスの弟が病がちな体質であることは聞いていた。
しかし、その病の中に"突然双子の姉と体が入れ替わる病"などという奇病が含まれていたなど、もうファンタジーでしかない。
この病を避ける意味もあり、カイルは長く姉と離れ、王都ではなく公爵領で過ごしていたというのだが、久々の再会で病が再発したらしい。
数日で、自然に元に戻るということだが。
「つまり今、エリスの中にはカイルがいて、カイルが……エリスなのか?」
「はい」
「そうです」
同時に肯定が返って来た。
「──どうするのだ?」
「とりあえず、途中編入したカイルの出席日数上、"カイル"は学園を休めません。なので私がカイルとして、授業に出ようと思います」
と、自称エリスが答える。長身の青年の姿で。
「そ、そうか」
「殿下にはご不便をおかけしません。いつも通り昼食はサンルームで、一緒にとりましょう?」
にっこりとエリスが、いや、カイルが微笑んだ。
「……え……」
と、声が漏れたのが、朝の話。そして現在。
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男子生徒の中で最近話題の人気令嬢。
男爵家のサーシャだ。
彼女は誰の許可もとらないまま、桃色の髪とたわわな双丘を揺らし、「私もご一緒したいですぅぅ」と言いながら、手作りサンドを広げ始めた。
(まずい。まずいぞ、これは)
嫌な予感がする。
ライアンの背中に汗が流れた。
「ライアン殿下とカイル様って仲が良いのですね!」
両手に美男子ですわ、という心の声が聞こえてきそうなくらい、サーシャがはしゃいでいる。
そしてそのうちになぜか。
サーシャからの話題が、とんでもない方向に展開していた。
「こういってはなんですけれど、ライアン殿下は巨乳がお好きでしょう? ご婚約者のエリス様ではご満足されてないのではないかと……」
「へえ?」
(こぇぇ!!)
エリスの声が凄みを孕んでいる気がするのは、低い男の声になっているからか。
(早く話を変えねば!)
焦るライアンの横で、カイルなエリスが口を開いた。
「おふたりでいつそんな話をされたのかは知りませんが……。誤解があるようですね、サーシャ嬢。殿下がお好きな"きょ乳"とは、大きな胸のことではありません」
「え?」
「虚乳。すなわちこういう胸のことを言うのですよ?」
言って、寄りかかるように体を添わせてきた今のエリスに。
男の胸に膨らみなどあろうはずもない。
カイルの厚い胸板だけが触れてくる。
「ま、待て!!」
ライアンの制止は間に合わなかった。
キャアァァと言う黄色い悲鳴が弾ける。
サンルームには他にも、ランチタイム中の生徒たちがいたのだ。
そのすべてが、目を見開いてこちらを見ていた。
特に女生徒たちは、歓喜のまなざしで。
(……終わった……)
「チェック・メイトです。殿下」
いつの間にか肩に両腕を絡め、顔をそらせないほど至近距離まで詰め寄った状態で、エリスがかけた王手には、なすすべがなかった。
「……Resign」
その後、ライアンはおかしな浮気を封じられ、婚約者のエリスだけでなく、巻き添えをくうことになったカイルにまで頭が上がらなかったという。
王太子と公爵家の双子は、今日も仲良し。
王国はとても、平和だった。
《「殿下、浮気は許しませんよ?」》完
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