お夜食いかがですか?

みこと。

文字の大きさ
1 / 1
お夜食いかがですか?

深夜の散歩者

しおりを挟む
 黄昏時は、この世とあの世の境界があいまいになる時間、と有名なア二メ映画で言ってた。

 でも、じゃあ、深夜は?


 信号機が向かい合う交差点。
 明滅する黄色と赤の光に照らされて、中央にうずくまる何か。
 直視してはいけない気がして、足早に通り過ぎる。

 視界には、くらモヤ・・が漂い流れ、塀の上の猫がそれを目で追っている。

 あっ、私のことも。
 猫はじっと見つめて、やがて。フイと塀向こうに降り去って行った。

(夜の道ってスリリングだわ──)

 人ひとり通らない真夜中。

 誰もいない、静かな夜の底。

 雑音の混ざらない冷たい空気を切るように、暗い夜道を進む。
 少ない街灯でも、十分によく見える。


(……? あれ、誰かいる?)


 道向こうに、白いシャツを着た長身の男性が佇んでいた。
 二十代くらいの、まだ若い青年。

 ふと、彼が私に気づいた。

 一瞬だけ目を見張った後、涼やかな声をかけてくる。

「やあ。こんな時間に、こんな場所で何してるの? 迷子?」

「……っ!」

 迷子だなんて。
 子ども扱いされたことにカチンと来る。

 でもそういえば随分長く、家に帰ってない?
 あれ? 私はどこに行こうとしてたんだっけ?
 
 内心焦ってしまったことを悟られたくなくて、言い返した。

「そういうあなたこそ、何をしてるんですか?」

「ああ、俺? 俺は散歩中。ちょっと小腹がいたから、夜食でも食べようと思って出て来たんだけど」


 コンビニすら見当たらない、民家しかない場所で?

(? 屋台でもあるのかな)

 疑問に思って、それらしいお店を探した時だった。

 目の前の青年が手を伸ばし、ちゅうに漂っていた黒っぽいモヤ・・を掴んで。

すすった──!!)

「えっ、えっ、えっ? いま、何を??」

「何って、食事?」

「ええええ?! いま食べたのって──?」

「えっと、"負の感情"ってやつ。昼にり固まった憎悪だとか、悔恨だとか? 夜の夢で吐き出される情念」

「そんなのって、食べれるものなんですか?!」

(そもそも食べて平気なの?)

 目を白黒させてる私に対し、彼は至って普通のことのように返してくる。

「まあね。結構おいしいよ。ただ俺、仲間内からは悪食あくじきって言われてるけど」

("悪食"の意味が、たぶんちょっと違う──!!)

 混乱する私をよそに、目の前の人(?)は何気ない仕草で、私の後ろを指さした。

「きみのそれも……貰っていい? なかなか強い念だね?」

「えっ」

 驚いて振り返ると、私の背に、ゆがんだ黒い縄が貼りついていた。

 蛇のように長く伸びたその先は、遠い暗闇に通じていて。
 よく見ると手に、足に、絡みつくようにまとわりついていて、意識した途端、すごく重く感じる。

「何これ──!!」

「"呪い"、かな。また盛大に恨まれたもんだ」


 ああ、そうだ、これが苦しくて。たまらなく嫌で。
 私は身体を抜け出したんだった。


「しかも"逆恨み"だなんて。これは珍味だな」

 嬉しそうに男性が頬を緩ませるけど、私はそれどころではなく。

「あげるから! 貰って! すぐに取ってください──っっ」

「心得た」

 彼がひょいと手を挙げると、途端に私の後ろから長く太い縄が、勢いよく吸い出されていった。

 ごうごうという音が耳の横を流れていく。
 いつまでも続きそうな吸引の中、私は思い出した。

 自分のことを。


 平凡な主婦だったのに、ある日、主人の恋人を名乗る女性に押し掛けられたこと。
 相手と言い争い、揉み合っているうちにアパートの階段から転げ落ち、頭を打って病院に運ばれたこと。

 現実の私の身体はそのまま、意識が戻ってないこと。



「ごちそうさま」



 その声に、ハッと引き戻される。

 目の前には満足そうな青年。

 
「もう帰れるはずだけど、なんなら送っていこうか?」


 彼の申し出に、私は素直に頷いた。




 
 病院の白いベッドの上で、昏睡状態から目覚めた私が最初にしたことは、両親に連絡を取ってもらうことだった。

 主人との離婚を進めるために。

 主人にも病院からの連絡が行ったはずだけど、彼は来なかった。

 後で知ったのには、彼はその頃恋人の部屋にいて、彼女が急に倒れ、騒ぎになっていたということだった。
 いろいろと調査され、身元も問われて不義もバレた。

 離婚は、私に有利な状況で進めれることになった。
 




 深夜には、いろんなモノたちが徘徊する。

 私が出会った青年が"何"だったのか、わからないけど。


 夜に窓の外を見れば、ほら──……。今夜も小腹が空いているらしい。
 あの日会った青年が、夜の道でモヤを見上げている。
しおりを挟む
感想 7

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

日置 槐
2024.03.23 日置 槐

表紙のおかげで白いシャツの青年がイケメンなのが分かって嬉しい♪

呪い返しのざまぁかな。彼女の新しい出発が幸せに向かうことを祈ります!

2024.03.24 みこと。

日置 槐様

きゃー♪ お読みいただきご感想まで有難うございます!!
呪いは返されると大きくかえってきちゃいますよね。そこのとこの描写省いてしまってたので、くみ取ってくださり有難うございます!(*´▽`*)

表紙描いて良かった…っ(≧∇≦) お褒めいただき喜びを噛みしめておりますっ。感謝♪

解除
杜野秋人
2024.03.16 杜野秋人

読みに来ました♪

まあ「あちら」で一度読んでるんですけどね(笑)。
あと一票入れましたんで♪(^∇^)


いやあ何回読んでも短い中に起承転結しっかりあって、引きもオチもちゃんとしてて、スッキリ解決まで書ききってて。上手いなあって感心しきりです。これだけ短くスッキリまとめられる才能、俺も欲しい!(笑)
こんな良作が、投稿インセンティブ改訂のせいでポイント反映されないとかホントもったいなさすぎる……!

2024.03.16 みこと。

杜野秋人様

きゃあ! 遊びに来て下さり投票まで! 有難うございます! しかもたくさんお褒めいただき、嬉しくて舞い上がっています♪ 投票者用の抽選が当選しますように(*´▽`*)/

はっ、投稿インセンティブ改訂(笑)
そう言えば一定の分量を超えないと対象にならないんですよね。一定の分量とはどのくらいだろうと思いつつ、2000文字に満たない作品では対象外な気がしますね~(;´∀`) 残念ですが仕方ない。でも応援はモチベになるのでー。ご感想まで有難うございました♪ 感謝!!

解除
黒星★チーコ

うーん良いホラー(*´▽`*)ざまぁ要素も入れてくるのは流石ですね!

2024.03.13 みこと。

黒星★チーコ様

わ♪わ♪ お読みくださり嬉しいご感想を有難うございます!(*´▽`*)
自分にとって怖くないホラー(笑)を書いたらこうなりました。
少ない文字数でお手軽に楽しんでいただければよいなぁと思っていたので、サクッとしたざまぁですが、お気に召していただければ幸いで、「良いホラー」とのお言葉、感謝ですー♪

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

怪談実話 その1

紫苑
ホラー
本当にあった話のショートショートです…

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。