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2.離婚前提でいかがです?
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その後寝室で皇帝と対峙している、今ここ。
ガウンを羽織り、寝間着を鉄壁防御してたにも関わらず、「子を作らない」宣言されて、ちょっと私フライングで立場なさすぎ。ううん、見せないからいいんだけども。
そんなシュテファンは私の対面で、難しそうな表情を作り、こちらを見ている。
こんな彼だけど、将来、愛する者にはトロットロになる溺愛主義者なのだ。
(物語では"冷酷皇帝"は伯爵家のアンネ・ヴィンケルと出会って、頑なな心が解けてくのよね)
シュテファンは機転の利くアンネと協力して、リーネル公爵たちが仕掛けてくる陰謀の数々を回避し、貴族派を制して、確固たる皇権を築く。
なお、アンネの存在に気づいたエリザは、実家と自分の地位を守るため、彼女をシュテファンから引き離そうとするけれど……。リーネル家断罪の余波もあり、最終的には身分剥奪の上、帝都から追放されたはず。
皇妃位が空白になって、貴族たちが"次の皇妃に自分の娘を"と騒ぎ始める頃、シュテファンとアンネは互いの気持ちが愛だと気づく。
そこからふたりは、興奮ものの猛接近を見せる!
"自分に皇妃は務まらない"と逃げ腰のアンネを囲い込むシュテファン。さすが『冷酷皇帝の最愛妃』、熱愛に溺愛を重ねた執着愛が、とても激しかったと記憶しているが。
つまるところ、エリザはこの先、離婚となる。
幸い(?)命までは取られないから、黙ってその時を持っていても良いのだけれど──。
私から提案しておく方が、後々恩を売れそうじゃない?
ベッド脇にある軽食とワインを見て、「こんな用意は不要だ」と皮肉気にシュテファンが笑った。
(毒とかを用心してるのかな? でもそれ、侍女さんたちが陛下のために置いてったものだから、何も入ってないよ、たぶん。残してくれると後で私が食べるから、むしろ手を付けないで。……にしてもエリザ、本当に嫌われてるのね)
よほどリーネル公爵が癪に障るんだろうなぁ。
シュテファン、ド迫力でこっち見てるものねぇ……。
鋭利な輪郭に氷のような微笑を浮かべた青年は、その麗しい顔立ちのせいで、一層怖さが際立っている。
精悍な体つきも相俟って、ビジュ最高だ。ガウンの下からのぞく鎖骨とチラ見え腹筋はサービスですか? ありがとうございます。目が潤います。
(はっ、見惚れてる場合じゃなかった)
絶対零度で歓迎してくる皇帝だ。
いま私の意志を明確にしておかないと、今後話す時間は取れないかもしれない。
「陛下、恐れながら発言してもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
若い皇帝が、片眉を上げて促した。
彼の前で意見を述べる人間が少ないのだろう。
それだけで、私に少し興味を持ったみたい。
「私は貴方様に、敵意も害意もありません。しかし冷遇されたからと言って、実家に帰るわけにもいきません」
「冷遇? 子を作らないと言ったことか?」
"これしきのことで?"という言葉を言外に滲ませ、冷ややかな目でシュテファンが言う。
(浴室放置は把握してない? 使用人たちの態度は彼の指示じゃないって捉えてOK? じゃあその前提で進めてみよう)
「それもありますが……。んんっ。リーネル公爵家と陛下の仲がよろしくないことは承知しております。我が父ヘルマン・リーネルが、分不相応の望みを抱いているせいで」
「! あなたは……」
何を言い出すつもりなのか、と、彼は驚きの色をその目に乗せた。
私が暴走すれば、"リーネル家に反意あり"と罪に問わなくてはならない。
せっかく自分が折れて私を妃に迎えたのに、ここで波風を立てたくないよね。
事を構えるには、リーネル家が力を持ちすぎてるもの。
「だからこそ陛下も、こうして私に冷淡なのでしょう? 政敵の娘ですもの」
一日も早く皇権を確立したい、彼の気持ちは分かるけど。
「冷淡……」
私も快適に過ごしたいの。
(さて)
今後がかかってる。
下腹に力を入れて、毅然と彼を見上げた。
「ですが私は父とは違い、権力に興味がありません。私が望むのは平穏な生活。そして円満な離婚です」
「っ、いま離婚と言ったのか?」
問い返した相手に、目を見ながら頷き返す。
まあ、新婚初夜に花嫁が提案してくることではないよね。
"愛することはない"発言も同様に有り得ないけど。
ん? シュテファンの"子作りしない"宣言は、家族計画の一環として有るかも?
あれっ? これ私の方がもしかして非常識?
……コホン。
「程ほどに時間を稼いだ後、貴方様の前から消え去りたく存じます。なのでそれまでの間、どうかここに置いてください。父から何か接触がありました際には、その内容を陛下にお伝えいたしますので」
「……どういうつもりだ。父親を裏切ると?」
(うんうん、そんな人間、信用ならないよね。でも)
「裏切るのではなく、そもそも私が父の味方ではなかっただけです。父もきっと、私を味方だとは思ってはいません」
「何を言って──」
「彼は私を、味方ではなく"逆らうはずのない駒"だと見做していますので。ですが私にも意志はあります。私は、私を尊重してくれる方につきたい。その相手が"夫"なら──、とても嬉しいのですが」
言葉を切ってじっとシュテファンを見つめ、彼が私の話を聞いてくれていることを確認する。
(よし。頼むなら今よ!)
「なので食事は、人並みにください」
「は?」
「公爵家では、蟻の餌ほどしか与えられなかったのです」
儚げに、そっと目を伏せる。
命をつなぐ最低限度の量でエリザは耐えてたけど、私は嫌だ。
こんな我慢に、美徳はないもの。
シュテファンが語調を強めた。
「何を言うかと思えば、食事の心配か。皇宮の人間を愚弄するな。私情で職務を放棄するような者は雇っていない」
「そうですか? 私は先ほどお風呂で溺れて、死にかけましたが?」
「何?」
「私を拒否した使用人たちが、水を入れただけの浴槽に私を置いて去りました。あれが皇宮の作法なら、無知な私が悪かったのでしょう。ですがこれは、世間では"冷遇"と呼ぶのでは?」
(エリザが許しても、私は許さない。待遇の交渉は、しっかりさせて貰うわよ)
どうせ一度お風呂で死にかけた身。
前世の私も死んでいる。
そう、最期の記憶は浴槽だ……。きっと前世の私も……お風呂の中で遭難した。疲れすぎてて、それで……。
(お風呂に持ち込んでたスマホは水没したかな。そういえば直前まで読んでた小説が『冷酷皇帝の最愛妃』。だからこの世界なのかしら)
前世は独り暮らしだったけど。
今度は周りに大勢いた。様子を見に来るぐらいして欲しかったわ。仕事じゃないの。
「浴槽に放置? 溺死しかけた? なんだそれは。気を引くために、嘘をついているわけじゃないだろうな」
痛烈な嫌味を混ぜたので怒りだすかと思ったけれど、シュテファンは取り合ってくれた。
突き放すような言葉とは裏腹に、案じるような色がその目に浮かぶ。
(あら、意外)
もしかしたら、根はいい人なのかもしれない。
感心しながらも平静を装う。
「事実です。どうぞお調べください。結婚初日に花嫁が亡くなったら、さすがにお立場上お困りでしょう?」
にっこりと微笑んで見せた。
娘が突然死すれば、リーネル公爵はいそいそと乗り込んで来るだろう。
死を悼むわけではなく、けれど娘想いの父親のフリをして皇帝を詰り、彼が殺したと国中に触れ回るはずだ。
それはシュテファンにとって良いことではない。悲劇の花嫁に同情した民心は皇帝から離れ、貴族たちがさらに力を増す。
「──調べよう。事実であれば、あなたを軽んじた使用人たちに罰を下す」
シュテファンが頷いた。
「エリザ、これはあなたからの取り引きだな? 公爵ではなく俺につく代わりに、平穏な生活と後の離婚を希望する、と。よし、具体的に言ってみろ。内容次第で契約書を作ってやる」
グッ!
(成功だわ!)
思わず拳を握りしめる。
契約結婚に持ち込めたのだ。彼は想像よりずっと、話のわかる男だ。
初夜の夫婦の寝台で、私とシュテファンは今後について話し合った。
ガウンを羽織り、寝間着を鉄壁防御してたにも関わらず、「子を作らない」宣言されて、ちょっと私フライングで立場なさすぎ。ううん、見せないからいいんだけども。
そんなシュテファンは私の対面で、難しそうな表情を作り、こちらを見ている。
こんな彼だけど、将来、愛する者にはトロットロになる溺愛主義者なのだ。
(物語では"冷酷皇帝"は伯爵家のアンネ・ヴィンケルと出会って、頑なな心が解けてくのよね)
シュテファンは機転の利くアンネと協力して、リーネル公爵たちが仕掛けてくる陰謀の数々を回避し、貴族派を制して、確固たる皇権を築く。
なお、アンネの存在に気づいたエリザは、実家と自分の地位を守るため、彼女をシュテファンから引き離そうとするけれど……。リーネル家断罪の余波もあり、最終的には身分剥奪の上、帝都から追放されたはず。
皇妃位が空白になって、貴族たちが"次の皇妃に自分の娘を"と騒ぎ始める頃、シュテファンとアンネは互いの気持ちが愛だと気づく。
そこからふたりは、興奮ものの猛接近を見せる!
"自分に皇妃は務まらない"と逃げ腰のアンネを囲い込むシュテファン。さすが『冷酷皇帝の最愛妃』、熱愛に溺愛を重ねた執着愛が、とても激しかったと記憶しているが。
つまるところ、エリザはこの先、離婚となる。
幸い(?)命までは取られないから、黙ってその時を持っていても良いのだけれど──。
私から提案しておく方が、後々恩を売れそうじゃない?
ベッド脇にある軽食とワインを見て、「こんな用意は不要だ」と皮肉気にシュテファンが笑った。
(毒とかを用心してるのかな? でもそれ、侍女さんたちが陛下のために置いてったものだから、何も入ってないよ、たぶん。残してくれると後で私が食べるから、むしろ手を付けないで。……にしてもエリザ、本当に嫌われてるのね)
よほどリーネル公爵が癪に障るんだろうなぁ。
シュテファン、ド迫力でこっち見てるものねぇ……。
鋭利な輪郭に氷のような微笑を浮かべた青年は、その麗しい顔立ちのせいで、一層怖さが際立っている。
精悍な体つきも相俟って、ビジュ最高だ。ガウンの下からのぞく鎖骨とチラ見え腹筋はサービスですか? ありがとうございます。目が潤います。
(はっ、見惚れてる場合じゃなかった)
絶対零度で歓迎してくる皇帝だ。
いま私の意志を明確にしておかないと、今後話す時間は取れないかもしれない。
「陛下、恐れながら発言してもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
若い皇帝が、片眉を上げて促した。
彼の前で意見を述べる人間が少ないのだろう。
それだけで、私に少し興味を持ったみたい。
「私は貴方様に、敵意も害意もありません。しかし冷遇されたからと言って、実家に帰るわけにもいきません」
「冷遇? 子を作らないと言ったことか?」
"これしきのことで?"という言葉を言外に滲ませ、冷ややかな目でシュテファンが言う。
(浴室放置は把握してない? 使用人たちの態度は彼の指示じゃないって捉えてOK? じゃあその前提で進めてみよう)
「それもありますが……。んんっ。リーネル公爵家と陛下の仲がよろしくないことは承知しております。我が父ヘルマン・リーネルが、分不相応の望みを抱いているせいで」
「! あなたは……」
何を言い出すつもりなのか、と、彼は驚きの色をその目に乗せた。
私が暴走すれば、"リーネル家に反意あり"と罪に問わなくてはならない。
せっかく自分が折れて私を妃に迎えたのに、ここで波風を立てたくないよね。
事を構えるには、リーネル家が力を持ちすぎてるもの。
「だからこそ陛下も、こうして私に冷淡なのでしょう? 政敵の娘ですもの」
一日も早く皇権を確立したい、彼の気持ちは分かるけど。
「冷淡……」
私も快適に過ごしたいの。
(さて)
今後がかかってる。
下腹に力を入れて、毅然と彼を見上げた。
「ですが私は父とは違い、権力に興味がありません。私が望むのは平穏な生活。そして円満な離婚です」
「っ、いま離婚と言ったのか?」
問い返した相手に、目を見ながら頷き返す。
まあ、新婚初夜に花嫁が提案してくることではないよね。
"愛することはない"発言も同様に有り得ないけど。
ん? シュテファンの"子作りしない"宣言は、家族計画の一環として有るかも?
あれっ? これ私の方がもしかして非常識?
……コホン。
「程ほどに時間を稼いだ後、貴方様の前から消え去りたく存じます。なのでそれまでの間、どうかここに置いてください。父から何か接触がありました際には、その内容を陛下にお伝えいたしますので」
「……どういうつもりだ。父親を裏切ると?」
(うんうん、そんな人間、信用ならないよね。でも)
「裏切るのではなく、そもそも私が父の味方ではなかっただけです。父もきっと、私を味方だとは思ってはいません」
「何を言って──」
「彼は私を、味方ではなく"逆らうはずのない駒"だと見做していますので。ですが私にも意志はあります。私は、私を尊重してくれる方につきたい。その相手が"夫"なら──、とても嬉しいのですが」
言葉を切ってじっとシュテファンを見つめ、彼が私の話を聞いてくれていることを確認する。
(よし。頼むなら今よ!)
「なので食事は、人並みにください」
「は?」
「公爵家では、蟻の餌ほどしか与えられなかったのです」
儚げに、そっと目を伏せる。
命をつなぐ最低限度の量でエリザは耐えてたけど、私は嫌だ。
こんな我慢に、美徳はないもの。
シュテファンが語調を強めた。
「何を言うかと思えば、食事の心配か。皇宮の人間を愚弄するな。私情で職務を放棄するような者は雇っていない」
「そうですか? 私は先ほどお風呂で溺れて、死にかけましたが?」
「何?」
「私を拒否した使用人たちが、水を入れただけの浴槽に私を置いて去りました。あれが皇宮の作法なら、無知な私が悪かったのでしょう。ですがこれは、世間では"冷遇"と呼ぶのでは?」
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前世の私も死んでいる。
そう、最期の記憶は浴槽だ……。きっと前世の私も……お風呂の中で遭難した。疲れすぎてて、それで……。
(お風呂に持ち込んでたスマホは水没したかな。そういえば直前まで読んでた小説が『冷酷皇帝の最愛妃』。だからこの世界なのかしら)
前世は独り暮らしだったけど。
今度は周りに大勢いた。様子を見に来るぐらいして欲しかったわ。仕事じゃないの。
「浴槽に放置? 溺死しかけた? なんだそれは。気を引くために、嘘をついているわけじゃないだろうな」
痛烈な嫌味を混ぜたので怒りだすかと思ったけれど、シュテファンは取り合ってくれた。
突き放すような言葉とは裏腹に、案じるような色がその目に浮かぶ。
(あら、意外)
もしかしたら、根はいい人なのかもしれない。
感心しながらも平静を装う。
「事実です。どうぞお調べください。結婚初日に花嫁が亡くなったら、さすがにお立場上お困りでしょう?」
にっこりと微笑んで見せた。
娘が突然死すれば、リーネル公爵はいそいそと乗り込んで来るだろう。
死を悼むわけではなく、けれど娘想いの父親のフリをして皇帝を詰り、彼が殺したと国中に触れ回るはずだ。
それはシュテファンにとって良いことではない。悲劇の花嫁に同情した民心は皇帝から離れ、貴族たちがさらに力を増す。
「──調べよう。事実であれば、あなたを軽んじた使用人たちに罰を下す」
シュテファンが頷いた。
「エリザ、これはあなたからの取り引きだな? 公爵ではなく俺につく代わりに、平穏な生活と後の離婚を希望する、と。よし、具体的に言ってみろ。内容次第で契約書を作ってやる」
グッ!
(成功だわ!)
思わず拳を握りしめる。
契約結婚に持ち込めたのだ。彼は想像よりずっと、話のわかる男だ。
初夜の夫婦の寝台で、私とシュテファンは今後について話し合った。
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