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3.ヒロインとの遭遇
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◇
「エリザ、あなたのお茶が飲みたい」
今日も今日とて、シュテファンがやって来た。
「……」
私は笑みを作り、彼を迎え入れる。
「かしこまりました。中へどうぞ」
皇妃の部屋としてあてがわれている自室は十分すぎるほど広く、白を基調に、淡く華やかな配色で整えられている。軽やかな色に反して格式を保てるのは、優美な調度品すべてが、国一番の職人たちによる逸品だからだろう。美しい家具たちが互いに調和し、心地良い空間を作っている。
エリザの雰囲気と外見によく合うこの部屋は、すべてシュテファンが用意したらしい。
インテリアコーディネーターが務まりそうな、意外な才能だと思う。
「今日はどんなお茶になさいます?」
「そうだな……。先日淹れてくれたブレンドティーが良い。東国の緑茶が入ってるという……」
「"女主人のお気に入り"ですね」
紅茶と緑茶、そしてヤグルマギクとバラの花びらを合わせたお茶で、芳醇な香りが楽しめる、私も好きな組み合わせだ。最近ではワイルドベリーも加えてみようかと思案してるところ。
転生前の某メーカー、そこの看板商品を真似て作ったお茶が、皇帝シュテファンに好評だ。軽やかな飲み口と、微かな渋みが好みらしい。
茶葉を用意し、魔具ポットに魔力を流してお湯を作る。
その間シュテファンはといえば、長椅子に長身を放り出し、寛いでる。
……。
なんでだろう。なんで毎日、シュテファンは私の部屋に来るのだろう。
衝撃の(してない)初夜から、数か月。
婚姻により発生した多大な公務は落ち着いたものの、通常業務は変わらず多く、皇帝家業は毎日多忙だ。
多忙なのにやってきては、私の部屋でだらだら過ごして行くのが日課になっている彼に、首をかしげる。
何をするわけではない。
ただ一緒にお茶を飲んで、庭の花が咲いたとか、春告げ鳥が飛来したとか、そんな他愛のない話をするだけだ。
けれど誰が見ても"皇帝が寵愛している皇妃"というこの構図。おかげで使用人たちは私に丁重だし、食事も美味しくて、日々過ごしやすいからありがたい。
(契約の範囲内として、行動してくれてるのかな?)
ならまあ、私も彼の要求に応じなきゃね。お茶くらい容易いものだ。
栄養が行き届いたエリザの体は、公爵家で居たところとはくらべものにならないくらいしっかりと回復し、絶好調だ。
お茶用ワゴンからガーゼ袋を取り出していると、私の手元を見てシュテファンが言う。
「エリザの考えたその小袋、本当に便利そうだな」
(ふふふ! 私が考案したわけじゃなく、前世の知恵のパクりですけどね!)
こちらの世界で作ったティーバッグ。
茶葉を毎回計量するのは大変なので、あらかじめ組み合わせた茶葉を用意し、一回分ずつ袋に小分けしている。
ポットの中で十分に茶葉が舞わないと、良い味は出ない。
その分大きめに設計した袋は、皇家ならではの贅沢と言える。もちろん形はテトラ型。立体の手縫いはさぞ面倒だろうと思いきや、皇宮の針子さんたちは難なく縫ってくれた。
ティーバッグを使うとポットに茶葉が張り付くこともなく、また茶殻は消臭に活用できるため、侍女たちも喜んでくれているらしい。
とはいえ、ティーバッグは手抜きだと思うのだが……。毎度私の拙いお茶を飲みたがるシュテファンは、謎でしかない。
(でも今日は待っていたわ、シュテファン。聞きたいことがあるのよ)
ンンッ、と声を整えて、何気ないふりで切り出す。
「そういえば。伯爵家の令嬢も、皇宮で働いているのですね」
そう! なんと昨日、『冷酷皇帝の最愛妃』のヒロイン・アンネと、この宮の中で出会ったのだ。
彼女は侍女として従事していた!
びっくり。
小説のシュテファンと彼女は、街で隠れて会う間柄だったのに、まさか皇宮に連れて来てるなんて。
しかも政務を行う表ではなく、皇帝の私生活を担う奥の宮で会ったのだから、皇妃の私とばっちり行動範囲がかぶってる。
豊かな黒髪に、愛らしい榛色の瞳。小さな顔に、白い肌。女の子らしい可憐な体つき。
小説の表紙でも口絵でも挿絵でも見た。アンネ・ヴィンケルで間違いない。
(シュテファンてば、とっくにヒロインと出会ってたんだわ)
なら、小説の物語も始まってることになる。
お忍びシュテファンが皇帝だと知って、アンネが驚嘆するシーンなんかをクリアしてることになるんだから。
私はアンネが登場していたことに、全く気づいてなかった。
部屋に飾る花を摘んで歩いていたら、ドンと誰かとぶつかって。
その相手がアンネだった時の、私の驚きと言ったら。
皇妃に当たってしまった非礼を彼女からさんざん詫びられたが、私も前を見ていなかったので、もちろん不問で。散らばった花を一緒に拾い集めて、その場は終わった。
花瓶に飾った花を見ながら、シュテファンに視線を巡らせる。
いくら私たち夫婦が、愛のない契約関係とはいえ。
妻に隠れて女性を連れ込んでる夫は、どんな反応を見せるのかしら。
(まさか不倫じゃないわよね? お話だと愛に発展するのは、エリザがいなくなってからだもの)
だけど私の例もあるし、小説通りの進行とも限らない。
(ふたりの仲を邪魔する気はないけど、私、不倫は受け付けないのよね。順番大事)
緊張しながら反応を待つ私に、彼は口を開いた。
「エリザ、あなたのお茶が飲みたい」
今日も今日とて、シュテファンがやって来た。
「……」
私は笑みを作り、彼を迎え入れる。
「かしこまりました。中へどうぞ」
皇妃の部屋としてあてがわれている自室は十分すぎるほど広く、白を基調に、淡く華やかな配色で整えられている。軽やかな色に反して格式を保てるのは、優美な調度品すべてが、国一番の職人たちによる逸品だからだろう。美しい家具たちが互いに調和し、心地良い空間を作っている。
エリザの雰囲気と外見によく合うこの部屋は、すべてシュテファンが用意したらしい。
インテリアコーディネーターが務まりそうな、意外な才能だと思う。
「今日はどんなお茶になさいます?」
「そうだな……。先日淹れてくれたブレンドティーが良い。東国の緑茶が入ってるという……」
「"女主人のお気に入り"ですね」
紅茶と緑茶、そしてヤグルマギクとバラの花びらを合わせたお茶で、芳醇な香りが楽しめる、私も好きな組み合わせだ。最近ではワイルドベリーも加えてみようかと思案してるところ。
転生前の某メーカー、そこの看板商品を真似て作ったお茶が、皇帝シュテファンに好評だ。軽やかな飲み口と、微かな渋みが好みらしい。
茶葉を用意し、魔具ポットに魔力を流してお湯を作る。
その間シュテファンはといえば、長椅子に長身を放り出し、寛いでる。
……。
なんでだろう。なんで毎日、シュテファンは私の部屋に来るのだろう。
衝撃の(してない)初夜から、数か月。
婚姻により発生した多大な公務は落ち着いたものの、通常業務は変わらず多く、皇帝家業は毎日多忙だ。
多忙なのにやってきては、私の部屋でだらだら過ごして行くのが日課になっている彼に、首をかしげる。
何をするわけではない。
ただ一緒にお茶を飲んで、庭の花が咲いたとか、春告げ鳥が飛来したとか、そんな他愛のない話をするだけだ。
けれど誰が見ても"皇帝が寵愛している皇妃"というこの構図。おかげで使用人たちは私に丁重だし、食事も美味しくて、日々過ごしやすいからありがたい。
(契約の範囲内として、行動してくれてるのかな?)
ならまあ、私も彼の要求に応じなきゃね。お茶くらい容易いものだ。
栄養が行き届いたエリザの体は、公爵家で居たところとはくらべものにならないくらいしっかりと回復し、絶好調だ。
お茶用ワゴンからガーゼ袋を取り出していると、私の手元を見てシュテファンが言う。
「エリザの考えたその小袋、本当に便利そうだな」
(ふふふ! 私が考案したわけじゃなく、前世の知恵のパクりですけどね!)
こちらの世界で作ったティーバッグ。
茶葉を毎回計量するのは大変なので、あらかじめ組み合わせた茶葉を用意し、一回分ずつ袋に小分けしている。
ポットの中で十分に茶葉が舞わないと、良い味は出ない。
その分大きめに設計した袋は、皇家ならではの贅沢と言える。もちろん形はテトラ型。立体の手縫いはさぞ面倒だろうと思いきや、皇宮の針子さんたちは難なく縫ってくれた。
ティーバッグを使うとポットに茶葉が張り付くこともなく、また茶殻は消臭に活用できるため、侍女たちも喜んでくれているらしい。
とはいえ、ティーバッグは手抜きだと思うのだが……。毎度私の拙いお茶を飲みたがるシュテファンは、謎でしかない。
(でも今日は待っていたわ、シュテファン。聞きたいことがあるのよ)
ンンッ、と声を整えて、何気ないふりで切り出す。
「そういえば。伯爵家の令嬢も、皇宮で働いているのですね」
そう! なんと昨日、『冷酷皇帝の最愛妃』のヒロイン・アンネと、この宮の中で出会ったのだ。
彼女は侍女として従事していた!
びっくり。
小説のシュテファンと彼女は、街で隠れて会う間柄だったのに、まさか皇宮に連れて来てるなんて。
しかも政務を行う表ではなく、皇帝の私生活を担う奥の宮で会ったのだから、皇妃の私とばっちり行動範囲がかぶってる。
豊かな黒髪に、愛らしい榛色の瞳。小さな顔に、白い肌。女の子らしい可憐な体つき。
小説の表紙でも口絵でも挿絵でも見た。アンネ・ヴィンケルで間違いない。
(シュテファンてば、とっくにヒロインと出会ってたんだわ)
なら、小説の物語も始まってることになる。
お忍びシュテファンが皇帝だと知って、アンネが驚嘆するシーンなんかをクリアしてることになるんだから。
私はアンネが登場していたことに、全く気づいてなかった。
部屋に飾る花を摘んで歩いていたら、ドンと誰かとぶつかって。
その相手がアンネだった時の、私の驚きと言ったら。
皇妃に当たってしまった非礼を彼女からさんざん詫びられたが、私も前を見ていなかったので、もちろん不問で。散らばった花を一緒に拾い集めて、その場は終わった。
花瓶に飾った花を見ながら、シュテファンに視線を巡らせる。
いくら私たち夫婦が、愛のない契約関係とはいえ。
妻に隠れて女性を連れ込んでる夫は、どんな反応を見せるのかしら。
(まさか不倫じゃないわよね? お話だと愛に発展するのは、エリザがいなくなってからだもの)
だけど私の例もあるし、小説通りの進行とも限らない。
(ふたりの仲を邪魔する気はないけど、私、不倫は受け付けないのよね。順番大事)
緊張しながら反応を待つ私に、彼は口を開いた。
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