小石だと思っていた妻が、実は宝石だった。〜ある伯爵夫の自滅

みこと。

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3.スザンナの反逆

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「……は?」

 間抜けな声が、アーノルドから漏れた。
 追いかけるように美女が言う。

「ね。お話しした通りだったでしょう? 旦那様は私の顔を知らないのです。初夜すらなかったのですから」

「レディ?」

 思わず聞き返したアーノルドに対し、カールが呆れたような視線を向ける。
 美女から涼やかな声が、流麗に紡がれた。

「改めまして旦那様。お久しゅうございます。あなた様に忘れ去られた妻、スザンナでございます」

「え……、いや、え? どういう、ことだ? スザンナ? 貴女あなたが?」

 戸惑うアーノルドに、スザンナが冷静な声で返す。

「初めてお会いした時の私の姿は、旅の途中で襲われないための変装だと申し上げました。予定より早く旦那様がいらしたため、身を整える間もなくご対面することになりましたが……。
 あなた様はすさまじい剣幕で私を罵倒なさり、一方的に条件を叩きつけて契約を交わした後、私を離れに捨て置かれました。ずっと」

「なっ……?」

 彼女はそのまま語り続ける。

「初日は、見苦しい旅姿のままお会いした私も悪かったのだと、引き下がりました。
 きちんとお話が出来たら、きっと夫婦として向き合える。そう信じてお待ちしましたが、その後あなた様が離れにいらっしゃることはなく。
 聞けば日頃より色町に繰り出され、屋敷に戻られる日も、まちまちだとか。

 何度も、召使いを介してご連絡いたしました。
 しかしついぞ、私に会ってくださることはありませんでした。

 私は元々、子爵家の事業に投資していただくため参りました身。愛がなくとも、実家との約束を守っていただければと思い直し、境遇を受け入れました。
 ですが、旦那様はマーレ家との約束も全て無視。
 これではお話が違います。
 そこで私は、あなた様のご両親に状況をお伝えしたのです」

 話を聞きながら百面相を繰り返していたアーノルドは、夫婦の過去を熟知する女性を"スザンナ"だと確信した。考えてみれば、先ほど離婚完了の魔力が発動した。あれは、当人同士がいないと作動しない。

 相手がスザンナだと認めるや否や、責められている状況に腹を立て、アーノルドは先ほどまでの外面を投げ捨て怒鳴った。

「なんとみっともない真似を! 俺の両親に訴えただと?! 嫁の分際で、貴様は恥を知らんのか!」

「すり替えないでください。恥ずかしいのは私ではなく、当主としての責任感がない、あなた様です」

 毅然としたスザンナの物言いに、アーノルドはたじろぐ。

 まともに話しをしたのは今回が初めてだが、彼女からは鋭い気迫が感じられる。
 アーノルドが今までに遊んだ、男に媚びる女とも、従順に従う女とも違う。

(なんだこの女。怯えもせず、俺に言い返してくるなんて……)

 大抵の人間は、アーノルドが怒鳴れば委縮した。
 例外は家族や高位貴族のみ。もっとも、そんな相手に横柄な態度をとったことはなかったが。

 アーノルドは相手を見て、接し方を変えるタイプだった。
 そして予想外の反応は苦手だった。とっさに言葉が出てこない。

 対するスザンナは、しっかりとアーノルドの目を見ながら、淡々と続ける。

「旦那様のご両親は、大層驚いてらっしゃいました。マーレ子爵家との約束は果たしたと、ご報告されていたようですね。伯爵家の金庫からも、大金を出した記録があります。しかしマーレ家では支援金を受け取っていない。これは何らかの事件が起こったのではと、お義父とう様のもと、密かに調査が始まりました」

「な!」
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