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2.見知らぬ美女
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「おい! 浮気とはどういうつもりだ! よくも俺に恥をかかせたな! 離縁確定だ。今すぐ出ていけ!」
開口一番そう叫ぶと、魔力の結びつきが外れた。その感覚が、身体に響く。
魔法契約での結婚が、解除されたのだろう。
が、部屋にいる相手に目を止め驚いた。
「カール? なぜお前がここに? それにそのご令嬢は?」
アーノルドがスザンナの部屋で見たのは、弟のカール。そして、初めて見る美しい女性だった。
ふたりは入室したアーノルドに対し、礼を示す。
女性の所作は優雅で気品に満ちていた。ドレスこそシンプルだが、流行にとらわれないデザインを見事に着こなしている。
年の離れた弟と、同年代くらいの貴族令嬢。
(カールの交際相手か? すごい美人だな。羨ましい)
弟は数年間、隣国に留学していた。その間に商団を作ったらしく、仕事であちこち飛び回っていると聞く。
(家を継げないと、あくせくと大変なことだ)
帰国したとは聞いていたが、大抵は自領か両親のもとに身を寄せていたので、王都に出てくるのは珍しい。
仕事か観光、それとも引っ越しか。結婚の挨拶ではない筈だ。婚約すら聞いてないのだから。
いずれにせよ、当主である自分に挨拶に来たのだろうと頷いた。
その弟が口を開く。
「兄上、お久しぶりです。ですが、いきなりではありませんか。兄上がご不在だったので、義姉上のもとに伺ったのに」
「そ、そうか」
乱暴にドアを開けたことを非難してきた。
声に滲む不満が、その件だけではなさそうなのは、離れに案内された苦情か。もしくは。
カールの連れに、見惚れてしまった牽制か。
何にせよ、スザンナの部屋は質素だ。"品格維持費など不要"と奢侈を禁止したため、粗末な家具が、申し訳程度にしかない。
(よくもこんな部屋に通したものだ。あとで使用人を罰しなくては)
そう思っていると、同席している美人からも、冷ややかな目を向けられている事に気づく。
「初めましてレディ。突然驚かせてしまい失礼しました。カールの兄、アーノルド・ロッキム伯爵と申します。妻がいるだけだと思い、つい」
「…………」
アーノルドは咄嗟に紳士の礼で謝罪するも、女性の目は冷たいまま。
確かに咎められても仕方がない無礼だが、せっかくの美女に悪印象を与えてしまった己の失態をアーノルドは深く悔いた。
それもこれも、部屋にいないスザンナのせいだ。ここはあの女の部屋であるのに。
「スザンナは何をしているんだ。客人をこんな離れの、しかも自室で応対するなど。非常識にも程がある」
「お言葉ですが兄上。義姉上を離れに押し込め、ずっと家を空けたままお戻りにならなかったのは、どなたでしょう。非常識は兄上のほうでは」
「夫婦間のことを、お前に言われる筋合いはない」
(しばらく会わないうちに、ずいぶん生意気な口を聞く。あんな女をを押し付けられた、俺の身にもなってみろ。カールはスザンナを見ていないから、言えるのだ)
アーノルドの中では、妻の記憶はいっそう醜悪に誇張されていた。
苛立つ感情のまま吐き捨てたくなったが、この場には令嬢もいる。今後のために過度な発言は控え、後ろについてきた執事をハケ口にした。
「おい、さっさとスザンナを呼んで来い」
この言葉に、執事は気まずそうに目を逸らした。小さな声で何事か答えるが、聞こえない。
「なんだ? 聞こえんぞ!」
「兄上……。まさかとは思っていましたが、本当に? 話に聞いた通り、いえ、それ以上とは……」
意味深に言葉を濁す弟に、「なんのことだ」と聞き返すと、カールは同室の美女を示して言った。
「だって義姉上ならここに。目の前にいらっしゃるではありませんか」
開口一番そう叫ぶと、魔力の結びつきが外れた。その感覚が、身体に響く。
魔法契約での結婚が、解除されたのだろう。
が、部屋にいる相手に目を止め驚いた。
「カール? なぜお前がここに? それにそのご令嬢は?」
アーノルドがスザンナの部屋で見たのは、弟のカール。そして、初めて見る美しい女性だった。
ふたりは入室したアーノルドに対し、礼を示す。
女性の所作は優雅で気品に満ちていた。ドレスこそシンプルだが、流行にとらわれないデザインを見事に着こなしている。
年の離れた弟と、同年代くらいの貴族令嬢。
(カールの交際相手か? すごい美人だな。羨ましい)
弟は数年間、隣国に留学していた。その間に商団を作ったらしく、仕事であちこち飛び回っていると聞く。
(家を継げないと、あくせくと大変なことだ)
帰国したとは聞いていたが、大抵は自領か両親のもとに身を寄せていたので、王都に出てくるのは珍しい。
仕事か観光、それとも引っ越しか。結婚の挨拶ではない筈だ。婚約すら聞いてないのだから。
いずれにせよ、当主である自分に挨拶に来たのだろうと頷いた。
その弟が口を開く。
「兄上、お久しぶりです。ですが、いきなりではありませんか。兄上がご不在だったので、義姉上のもとに伺ったのに」
「そ、そうか」
乱暴にドアを開けたことを非難してきた。
声に滲む不満が、その件だけではなさそうなのは、離れに案内された苦情か。もしくは。
カールの連れに、見惚れてしまった牽制か。
何にせよ、スザンナの部屋は質素だ。"品格維持費など不要"と奢侈を禁止したため、粗末な家具が、申し訳程度にしかない。
(よくもこんな部屋に通したものだ。あとで使用人を罰しなくては)
そう思っていると、同席している美人からも、冷ややかな目を向けられている事に気づく。
「初めましてレディ。突然驚かせてしまい失礼しました。カールの兄、アーノルド・ロッキム伯爵と申します。妻がいるだけだと思い、つい」
「…………」
アーノルドは咄嗟に紳士の礼で謝罪するも、女性の目は冷たいまま。
確かに咎められても仕方がない無礼だが、せっかくの美女に悪印象を与えてしまった己の失態をアーノルドは深く悔いた。
それもこれも、部屋にいないスザンナのせいだ。ここはあの女の部屋であるのに。
「スザンナは何をしているんだ。客人をこんな離れの、しかも自室で応対するなど。非常識にも程がある」
「お言葉ですが兄上。義姉上を離れに押し込め、ずっと家を空けたままお戻りにならなかったのは、どなたでしょう。非常識は兄上のほうでは」
「夫婦間のことを、お前に言われる筋合いはない」
(しばらく会わないうちに、ずいぶん生意気な口を聞く。あんな女をを押し付けられた、俺の身にもなってみろ。カールはスザンナを見ていないから、言えるのだ)
アーノルドの中では、妻の記憶はいっそう醜悪に誇張されていた。
苛立つ感情のまま吐き捨てたくなったが、この場には令嬢もいる。今後のために過度な発言は控え、後ろについてきた執事をハケ口にした。
「おい、さっさとスザンナを呼んで来い」
この言葉に、執事は気まずそうに目を逸らした。小さな声で何事か答えるが、聞こえない。
「なんだ? 聞こえんぞ!」
「兄上……。まさかとは思っていましたが、本当に? 話に聞いた通り、いえ、それ以上とは……」
意味深に言葉を濁す弟に、「なんのことだ」と聞き返すと、カールは同室の美女を示して言った。
「だって義姉上ならここに。目の前にいらっしゃるではありませんか」
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