婚約破棄を認めて差し上げるわ ~淑女を辞めたら、幸せが訪れました

みこと。

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君に求婚したいんだ! 転生ヘタレ王子は悪役令嬢に愛を告げ…られるか?

4.婚約破棄が始まった

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「シンシア・クラム公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する! 俺はジュディと結婚する。二度と俺と彼女に近づくな!」

 王立学園の卒業記念パーティー。その会場いっぱいに響く声。
 人々が一斉に同方向を見る。視線の先には一組の若い男女。そしてそんな彼らに相対する貴族令嬢。
 いま名を呼ばれたシンシア嬢だ。

 豊かな金髪に、赤い薔薇と真珠をあしらった大振りの髪飾りがよく似合う。薔薇と同色のドレスに身を包む彼女は、高貴なオーラも相まって本気で美しい。
 しかしその表情は険しく、綺麗な唇は硬く引き結ばれている。

 それはそうだ。
 たった今、婚約相手であるシェル侯爵家の次男、ダリル殿から絶縁宣言されてしまったのだから。

(ついに……。始まってしまった!)

 とある世界の、とある王国で。
 婚約破棄劇の火蓋が切って落とされた。

(分かっていたこととはいえ、胃がいたい)

 差し込む刺激に、僕は顔をしかめる。

(僕、部外者なのになぁ。あそこに割って入んなきゃいけないのか)

 身分的には咎められないけど。行きたくない。

 アバローニ王国・第二王子エリオット。
 これが現在いまの僕。
 だけど転生前は、しがない日本の一般庶民だった。
 つまり前世の記憶持ちってわけ。

 さらにはここが、物語の世界であることも知っていて。

 僕の……王子エリオットの役どころは、断罪された悪役令嬢にその場でプロポーズして救っちゃうという、"ヒーロー"の立ち位置だったりする!

 そう。"ヒーロー"とは、"ヒロイン"のピンチに駆け付け、颯爽と助けるイケメンのこと。

 で、なぜ物語を知っているかというと、生前、妹からさんざん聞かされてたからだ。
 妹いわく、このヒーロー役のエリオットが格好良いから、"推し"なのだと。

 確かに。伸びやかな長身に、秀麗な顔立ち。生まれの良さから出る気品。さすが神絵師が描いた、渾身の勝負絵。黒髪金眼の目を惹く美形だ。

 誰だ、今。それ美味しいヒーロー役じゃん、なんて思ったの。
 そういうの、余裕があるリア充じゃなきゃ無理だからね?
 生前、クラスの隅で、目立たないよう生息してた僕に、男女交際のスキルはない。大学でも研究ばっかしてたし。
 ちなみに今世は立場を利用して、登校しても割りと学園の研究室に引きこもってた。"ぼっち"とか言うな。泣けてくるから。

 それが突然、めちゃくちゃ美人の、近づくことさえ許されないような学園の華に、公開プロポーズするって考えてみ? 保護者貴族や学生達に囲まれた中で。

 うっ。想像だけで、精神こころ体重からだもすっごく削られる。

 だから転生に気づいて以来、ずっと婚約破棄宣言を阻止しようとしてきたんだ。

 ダリル殿にジュディ嬢を近づけないようにしようとしたりとか──。
 ダリル殿とシンシア嬢の仲を取り持とうとか──。
 他にもこう……裏からせっせと頑張ったつもりだったんだけどね。力及ばず。無念。

 そして今日を迎えてしまった。

 会場の中心で、耳目を集めて修羅場が繰り広げられている。
 ほら見ろ、あのシンシア嬢の悲しそうな……。悲しそうな?

 彼女は堂々とした態度で、毅然と言い返してる。

「あのですね。"婚約破棄する"、"はいわかりました"と簡単に済む話ではないでしょう、ダリル様。そもそもコレ、あなた様の一存ですよね? お父上の許可は? ああ、お尋ねするだけ無駄ですね。あればこんな馬鹿げた行い、なさるはずがありませんもの」

 うん。手厳しいな、シンシア嬢。
 僕が言われたら、すぐ謝っちゃいそう。

「なっ、なっ──」

 対するダリル殿は顔を赤くして、言葉を詰まらせている。そして彼女を指差して、叫び出した。
 逆上というやつだ。

「そういうところだぞ、シンシア! 貴様に男を立てる美徳も、可愛げもない。あげく、それらを備えたジュディをやっかみ虐めていた性根の悪さ。俺はもう耐えられない! 俺は俺の意志をつらぬく。我が人生に貴様は不要。俺はジュディと生きていくっ。父上だって、わかってくださるさ」

「ダリル様っっ」

 言うだけ言って、ダリル殿とジュディ嬢は見つめ合い始める。

 非道な悪役令嬢の障害に悩まされる、恋人たちの図。とでも言えば良いのだろうか。

 悲劇に酔う二人に、シンシア嬢は冷めた目を向けている。
 そしてきっぱりと言った。


「私は婚約破棄を認めません」
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