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君に求婚したいんだ! 転生ヘタレ王子は悪役令嬢に愛を告げ…られるか?
8.とっさに告白した結果
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さすがに苛立って兵を呼んだら、めっちゃ速やかに元凶ふたりを連れ去ってくれた。
これで心の平安が──。
「あの……、エリオット殿下……。助けてくださり有難うございました」
戻って来なかったぁぁぁ──! シンシア嬢がいたんだった!(そりゃそうだ)
「ああっ、いや、こちらこそ、差し出がましいことをしてしまって」
「いいえ。すごく心強くて、とても救われました」
「そ、それは良かった。あっ、えと、さっきの言葉は、その」
狼狽えてどう言い訳しようかと慌てる僕に、シンシア嬢が寂しげに頷く。
「わかっております。彼らを懲らしめるため、おっしゃってくださったのでしょう。でなければ、殿下が私の夫候補になってくださるなんてこと──」
「あっ、いや、あれは本気で──」
(っつつつ、しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!)
うわぁ、これ絶対、引かれちゃうよ。"便乗して何言ってんだコイツ"って軽蔑される流れ……だ。あれ?
シンシア嬢が、見たことないくらい真っ赤だ。
髪につけた赤い薔薇よりも。身にまとう赤いドレスよりも。
顔はもちろん、細い首筋、滑らかなデコルテから形の良い耳まで。
全身が淡い赤に染まった彼女は、どんな花よりも美しくて。
僕は一瞬、我を忘れそうになった。
そうだよ、白状するよ! 他人の体で、うだうだゴネてたけど。
僕は昔から、シンシア嬢に惹かれていた。
物語とか関係なしに、純粋に好きで。"高嶺の花"だと焦がれて来た。
だから彼女が悲しい思いをしなくて済むよう、婚約破棄だって阻止したかったんだ。
でもダリル殿の様子を見てると、彼と結ばれた後、幸せになれる要素はなさそうだった。
僕は覚悟を決めて、彼女を見つめる。
「シンシア嬢さえ迷惑でなければ。正式に求婚させて貰っても良いだろうか。僕は次男だし、陛下もお許しくださると思う。ずっとキミを見ていた。呆れられるかもしれないけど、キミのことで心の中がいっぱいだった」
「嬉しい、です……。私がイトコのお兄様に、エリオット殿下に憧れてたこと、お気づきでしたか? でも殿下はいずれ、公爵位と家系を授かるお方だから……」
王家の男子は後継者以外、いち家系を授かり、臣籍降下するのが倣い。彼女はそれを考慮したという。
(え?! 憧れてた?? 知らない、知らない、気付くわけない!)
ヘタレの鈍さを舐めないで欲しい。
そんな大騒ぎな心を隠して、表の僕は彼女を口説く。
「僕が賜る領地を調整して貰えば、クラム公爵家が大きくなり過ぎることはない。家格の釣り合う次男ということでダリル殿が選ばれたなら、僕にもチャンスを与えて欲しい」
「はい。はい殿下。お申し込みを、喜んでお待ち申し上げております」
春の女神が降臨した。
シンシア嬢の満開の笑顔に、ワアアアアッ、と会場中が歓声で沸き上がる。
あちこちから、"情熱的だー"という叫びや、"王国一の天才がプロポーズしたんじゃ、勝ち目がないだろ"という嘆きまで、たくさんの声が弾け散った。
(ああっ、場所! すっかり忘れてた!)
シンシア嬢しか目に入ってなかったけど。パーティー会場のド真ん中だった。
どうやら僕は、物語のヒーローのように、公開プロポーズをやっちゃったらしい。
おずおずとエスコートに差し出した手に、シンシア嬢の繊手が触れる。
(どうしよう。天使に触れられて、このまま昇天しちゃいそうだ)
だけど今生こそは、幸せに長生きしたい。周りに人が多い分、寝食忘れて、研究に没頭する危険も少ないだろうから。
何より隣のこの笑顔を、守り続けるために。
前世の妹よ。兄ちゃんはヒーロー頑張ったぞ!
愛する人がいれば、人は誰だってヒーローになれるんだと、僕はひとつ学んだのだった。
《君に求婚したいんだ!》完
これで心の平安が──。
「あの……、エリオット殿下……。助けてくださり有難うございました」
戻って来なかったぁぁぁ──! シンシア嬢がいたんだった!(そりゃそうだ)
「ああっ、いや、こちらこそ、差し出がましいことをしてしまって」
「いいえ。すごく心強くて、とても救われました」
「そ、それは良かった。あっ、えと、さっきの言葉は、その」
狼狽えてどう言い訳しようかと慌てる僕に、シンシア嬢が寂しげに頷く。
「わかっております。彼らを懲らしめるため、おっしゃってくださったのでしょう。でなければ、殿下が私の夫候補になってくださるなんてこと──」
「あっ、いや、あれは本気で──」
(っつつつ、しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!)
うわぁ、これ絶対、引かれちゃうよ。"便乗して何言ってんだコイツ"って軽蔑される流れ……だ。あれ?
シンシア嬢が、見たことないくらい真っ赤だ。
髪につけた赤い薔薇よりも。身にまとう赤いドレスよりも。
顔はもちろん、細い首筋、滑らかなデコルテから形の良い耳まで。
全身が淡い赤に染まった彼女は、どんな花よりも美しくて。
僕は一瞬、我を忘れそうになった。
そうだよ、白状するよ! 他人の体で、うだうだゴネてたけど。
僕は昔から、シンシア嬢に惹かれていた。
物語とか関係なしに、純粋に好きで。"高嶺の花"だと焦がれて来た。
だから彼女が悲しい思いをしなくて済むよう、婚約破棄だって阻止したかったんだ。
でもダリル殿の様子を見てると、彼と結ばれた後、幸せになれる要素はなさそうだった。
僕は覚悟を決めて、彼女を見つめる。
「シンシア嬢さえ迷惑でなければ。正式に求婚させて貰っても良いだろうか。僕は次男だし、陛下もお許しくださると思う。ずっとキミを見ていた。呆れられるかもしれないけど、キミのことで心の中がいっぱいだった」
「嬉しい、です……。私がイトコのお兄様に、エリオット殿下に憧れてたこと、お気づきでしたか? でも殿下はいずれ、公爵位と家系を授かるお方だから……」
王家の男子は後継者以外、いち家系を授かり、臣籍降下するのが倣い。彼女はそれを考慮したという。
(え?! 憧れてた?? 知らない、知らない、気付くわけない!)
ヘタレの鈍さを舐めないで欲しい。
そんな大騒ぎな心を隠して、表の僕は彼女を口説く。
「僕が賜る領地を調整して貰えば、クラム公爵家が大きくなり過ぎることはない。家格の釣り合う次男ということでダリル殿が選ばれたなら、僕にもチャンスを与えて欲しい」
「はい。はい殿下。お申し込みを、喜んでお待ち申し上げております」
春の女神が降臨した。
シンシア嬢の満開の笑顔に、ワアアアアッ、と会場中が歓声で沸き上がる。
あちこちから、"情熱的だー"という叫びや、"王国一の天才がプロポーズしたんじゃ、勝ち目がないだろ"という嘆きまで、たくさんの声が弾け散った。
(ああっ、場所! すっかり忘れてた!)
シンシア嬢しか目に入ってなかったけど。パーティー会場のド真ん中だった。
どうやら僕は、物語のヒーローのように、公開プロポーズをやっちゃったらしい。
おずおずとエスコートに差し出した手に、シンシア嬢の繊手が触れる。
(どうしよう。天使に触れられて、このまま昇天しちゃいそうだ)
だけど今生こそは、幸せに長生きしたい。周りに人が多い分、寝食忘れて、研究に没頭する危険も少ないだろうから。
何より隣のこの笑顔を、守り続けるために。
前世の妹よ。兄ちゃんはヒーロー頑張ったぞ!
愛する人がいれば、人は誰だってヒーローになれるんだと、僕はひとつ学んだのだった。
《君に求婚したいんだ!》完
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ちょっとホッコリしたい時などに何度も読み返してます😊
ヒロインとヘタレ転生ヒーローの心の声が楽しくて😆
ただ、ダリルとジュディの《その後》も読みたいなぁ〜と読むたび思います。
でも、みこと先生は、あまりキツイざまぁは悩む?みたいな事を、以前どこかのコメント返信で書かれていた気がする(違ってたらゴメンナサイ!)ので、あまり多くは望んではいけないかな?と自重🙇
今日も楽しく読ませて頂きました〜😄
sanzo様
うわぁぁー♪ めちゃくちゃ嬉しいメッセージを有難うございました!
作品をお気に召してくださり、何度も読み返していただけているなんて、書き手冥利に尽きます。このお話を書いて良かった…! 感無量です!!
暴れたキャラがその後罰せられ、「こんなはずじゃなかった」と後悔するシーンは胸がすく思いで良いですよね♪
私も読むのは大好物ですヾ(*´∀`*)ノ
しかしながら"ざまぁ"後は、過激すぎても軽すぎてもいけないので難しく…。
キツすぎるのはおっしゃる通り悩みますし…。
どうぞsanzo様のお心の中でダリルたちに然るべき未来を用意していただければと思います
求めてくださったの嬉しかったです! おかわりにお応えできずにすみませんm(__;)m
お話を楽しんでくださって有難うございました! 「繰り返し読む」というお言葉を励みに、これからも執筆活動、精進します!!
婚約破棄令嬢を救った王子様、カッコいい!
面白かったです。他の作品も読んでみたいと思いました。
こいぬ様
やったー\(*^o^*)/お褒めいただき「面白かった」を有難うございました!!
複数作品のぞいてくださったのも、めちゃくちゃ嬉しいです!!
ご感想有難うございました♪ お返事と承認が遅くなり、失礼しました(;´∀`)ゞ
婚約破棄のお話たくさんあるけど、このお話めっちゃ面白い‼️
特にエリオット視点のように、断罪されるヒロインを助けるヒーローの思考は、なかなかお目にかかることはないように感じます。
楽しませてくれて、ありがとうございます🎵
月桂樹様
わああ♪ 複数作品お読み回りいただき感謝感激しております!
こちらのお話ものぞいてくださって有難うございます!!(≧∇≦)/
エリオットの思考はヘタレくんですが、見た目もやってることもバッチリなので安心してお読みいただければ嬉しいです。
テンプレでヒーローが後から出てくるケースの中には、こんな葛藤があったかも…と想像しながら楽しく書きました(´艸`*)
こちら、ヒーロー視点は一日1話更新で、11日の朝完結予定です。少しお待たせしてしまいますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。ご感想本当に有難うございました!!