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沈黙の聖女は、ある日すべてを暴露する
中編
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「ジンク・キドニー辺境伯?」
殿下が驚きに目を見張る。
歩み出られたのは、白銀の髪が煌めく、長身の美丈夫。
辺境にあって王国を護り、国内の水源から魔獣を退けている青年、ジンク・キドニー辺境伯。
逞しく鍛え上げられた体躯に、整った顔立ち。隙が無いのに、優雅な足運びに、ご令嬢方から感嘆の吐息が漏れる。
滅多に王宮にはみえられない方が、今日はお越しになられていたようだ。
(恥ずかしいところをお見せしてしまった)
わたくしは羞恥に下を向く。
ジンク様にはこんな情けない姿、見られたくなかった。
「あまりに一方的な言いようではありませんか。これまで国のために尽力した"浄化の聖女"を、かように扱うなど。殿下に対する、皆の忠義も揺らぎましょうぞ」
ジンク様が鋭い眼差しで、ハイル殿下を咎められる。
そして膝を折って、わたくしに声をお掛けくださった。
「カーナ嬢。あなたは沈黙を美徳としているようだが、吐き出した方が良い場合もある。国のためと思い、言うべきことは語ってほしい」
「ジンク様……。あっ、いえ、キドニー辺境伯様」
言い直したわたくしに、ジンク様が小声でささやく。
「俺にまで気を遣わないでください、カーナ嬢。ぜひ昔のようにジンクと。ハイル殿下との婚約は消えたようですし、誰に遠慮が要りましょう」
さり気なく"婚約破棄は確定だ"とおっしゃいながら、ジンク様がわたくしを促す。
「でも……、語るべきことと言っても……。わたくしが国と殿下の"穢れ"を引き受け、このような脂肪まみれになっていることは、殿下もご承知のことで……」
わたくしがジンク様にお答えしていると、横でハイル殿下が目を丸くされた。
「えっ。そ、そうなのか、カーナ」
「!? まさか殿下──。お忘れだったのですか?」
「あ、いや……」
目を逸らすハイル殿下は、全身で"忘れていた"と示している。バツが悪そうな様子は、内容をいま、思い出したのだろう。
(……! …………!!)
「わたくしが、こんなに苦しい思いをしていましたのに……!」
失望が胸を塗り潰す。湧き上がってくるのは、怒りの感情。
先ほどまでが嘘のように、ポンと力強い言葉が飛び出た。
「わたくしと殿下の婚約はなくなりましたので! "盟約の指輪"をお返しします」
勢いよく、わたくしは指輪を引き抜く。
「ぐはっ!」
途端にわたくしの身体から贅肉が消え、脂の塊が殿下の上に降りかかった。
「なんだ、これ。く、苦しい」
「ハイル様!」
ギトギト脂に圧し潰されそうなハイル殿下は呼吸もままならないようで、喘ぐように口をパクパクされている。殿下ご自慢の金髪も、脂にまみれて酷いありさまだ。
シンディ様も次にどう動けばよいのか、戸惑っている。
慌てふためくふたりを、わたくしは冷静に見ていた。
(もともとは殿下の分の"穢れ"ですもの。わたくしが今まで感じていた苦しさ、ご自分でも体験されたら良いわ)
「他にもあったはずですが、カーナ嬢」
一瞬にして痩身に戻り、身軽になったわたくしを、ジンク様が助け起こしてくださる。
ぶかぶかになってしまったドレスがずり落ちないよう気遣いながら、わたくしはジンク様の手をとった。
「まだ……? たとえば、シンディ様がヒース卿と繋がっていて、さんざん貢がれているというお話とかですか?」
殿下が驚きに目を見張る。
歩み出られたのは、白銀の髪が煌めく、長身の美丈夫。
辺境にあって王国を護り、国内の水源から魔獣を退けている青年、ジンク・キドニー辺境伯。
逞しく鍛え上げられた体躯に、整った顔立ち。隙が無いのに、優雅な足運びに、ご令嬢方から感嘆の吐息が漏れる。
滅多に王宮にはみえられない方が、今日はお越しになられていたようだ。
(恥ずかしいところをお見せしてしまった)
わたくしは羞恥に下を向く。
ジンク様にはこんな情けない姿、見られたくなかった。
「あまりに一方的な言いようではありませんか。これまで国のために尽力した"浄化の聖女"を、かように扱うなど。殿下に対する、皆の忠義も揺らぎましょうぞ」
ジンク様が鋭い眼差しで、ハイル殿下を咎められる。
そして膝を折って、わたくしに声をお掛けくださった。
「カーナ嬢。あなたは沈黙を美徳としているようだが、吐き出した方が良い場合もある。国のためと思い、言うべきことは語ってほしい」
「ジンク様……。あっ、いえ、キドニー辺境伯様」
言い直したわたくしに、ジンク様が小声でささやく。
「俺にまで気を遣わないでください、カーナ嬢。ぜひ昔のようにジンクと。ハイル殿下との婚約は消えたようですし、誰に遠慮が要りましょう」
さり気なく"婚約破棄は確定だ"とおっしゃいながら、ジンク様がわたくしを促す。
「でも……、語るべきことと言っても……。わたくしが国と殿下の"穢れ"を引き受け、このような脂肪まみれになっていることは、殿下もご承知のことで……」
わたくしがジンク様にお答えしていると、横でハイル殿下が目を丸くされた。
「えっ。そ、そうなのか、カーナ」
「!? まさか殿下──。お忘れだったのですか?」
「あ、いや……」
目を逸らすハイル殿下は、全身で"忘れていた"と示している。バツが悪そうな様子は、内容をいま、思い出したのだろう。
(……! …………!!)
「わたくしが、こんなに苦しい思いをしていましたのに……!」
失望が胸を塗り潰す。湧き上がってくるのは、怒りの感情。
先ほどまでが嘘のように、ポンと力強い言葉が飛び出た。
「わたくしと殿下の婚約はなくなりましたので! "盟約の指輪"をお返しします」
勢いよく、わたくしは指輪を引き抜く。
「ぐはっ!」
途端にわたくしの身体から贅肉が消え、脂の塊が殿下の上に降りかかった。
「なんだ、これ。く、苦しい」
「ハイル様!」
ギトギト脂に圧し潰されそうなハイル殿下は呼吸もままならないようで、喘ぐように口をパクパクされている。殿下ご自慢の金髪も、脂にまみれて酷いありさまだ。
シンディ様も次にどう動けばよいのか、戸惑っている。
慌てふためくふたりを、わたくしは冷静に見ていた。
(もともとは殿下の分の"穢れ"ですもの。わたくしが今まで感じていた苦しさ、ご自分でも体験されたら良いわ)
「他にもあったはずですが、カーナ嬢」
一瞬にして痩身に戻り、身軽になったわたくしを、ジンク様が助け起こしてくださる。
ぶかぶかになってしまったドレスがずり落ちないよう気遣いながら、わたくしはジンク様の手をとった。
「まだ……? たとえば、シンディ様がヒース卿と繋がっていて、さんざん貢がれているというお話とかですか?」
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