5 / 6
沈黙の聖女は、ある日すべてを暴露する
中編
「ジンク・キドニー辺境伯?」
殿下が驚きに目を見張る。
歩み出られたのは、白銀の髪が煌めく、長身の美丈夫。
辺境にあって王国を護り、国内の水源から魔獣を退けている青年、ジンク・キドニー辺境伯。
逞しく鍛え上げられた体躯に、整った顔立ち。隙が無いのに、優雅な足運びに、ご令嬢方から感嘆の吐息が漏れる。
滅多に王宮にはみえられない方が、今日はお越しになられていたようだ。
(恥ずかしいところをお見せしてしまった)
わたくしは羞恥に下を向く。
ジンク様にはこんな情けない姿、見られたくなかった。
「あまりに一方的な言いようではありませんか。これまで国のために尽力した"浄化の聖女"を、かように扱うなど。殿下に対する、皆の忠義も揺らぎましょうぞ」
ジンク様が鋭い眼差しで、ハイル殿下を咎められる。
そして膝を折って、わたくしに声をお掛けくださった。
「カーナ嬢。あなたは沈黙を美徳としているようだが、吐き出した方が良い場合もある。国のためと思い、言うべきことは語ってほしい」
「ジンク様……。あっ、いえ、キドニー辺境伯様」
言い直したわたくしに、ジンク様が小声でささやく。
「俺にまで気を遣わないでください、カーナ嬢。ぜひ昔のようにジンクと。ハイル殿下との婚約は消えたようですし、誰に遠慮が要りましょう」
さり気なく"婚約破棄は確定だ"とおっしゃいながら、ジンク様がわたくしを促す。
「でも……、語るべきことと言っても……。わたくしが国と殿下の"穢れ"を引き受け、このような脂肪まみれになっていることは、殿下もご承知のことで……」
わたくしがジンク様にお答えしていると、横でハイル殿下が目を丸くされた。
「えっ。そ、そうなのか、カーナ」
「!? まさか殿下──。お忘れだったのですか?」
「あ、いや……」
目を逸らすハイル殿下は、全身で"忘れていた"と示している。バツが悪そうな様子は、内容をいま、思い出したのだろう。
(……! …………!!)
「わたくしが、こんなに苦しい思いをしていましたのに……!」
失望が胸を塗り潰す。湧き上がってくるのは、怒りの感情。
先ほどまでが嘘のように、ポンと力強い言葉が飛び出た。
「わたくしと殿下の婚約はなくなりましたので! "盟約の指輪"をお返しします」
勢いよく、わたくしは指輪を引き抜く。
「ぐはっ!」
途端にわたくしの身体から贅肉が消え、脂の塊が殿下の上に降りかかった。
「なんだ、これ。く、苦しい」
「ハイル様!」
ギトギト脂に圧し潰されそうなハイル殿下は呼吸もままならないようで、喘ぐように口をパクパクされている。殿下ご自慢の金髪も、脂にまみれて酷いありさまだ。
シンディ様も次にどう動けばよいのか、戸惑っている。
慌てふためくふたりを、わたくしは冷静に見ていた。
(もともとは殿下の分の"穢れ"ですもの。わたくしが今まで感じていた苦しさ、ご自分でも体験されたら良いわ)
「他にもあったはずですが、カーナ嬢」
一瞬にして痩身に戻り、身軽になったわたくしを、ジンク様が助け起こしてくださる。
ぶかぶかになってしまったドレスがずり落ちないよう気遣いながら、わたくしはジンク様の手をとった。
「まだ……? たとえば、シンディ様がヒース卿と繋がっていて、さんざん貢がれているというお話とかですか?」
殿下が驚きに目を見張る。
歩み出られたのは、白銀の髪が煌めく、長身の美丈夫。
辺境にあって王国を護り、国内の水源から魔獣を退けている青年、ジンク・キドニー辺境伯。
逞しく鍛え上げられた体躯に、整った顔立ち。隙が無いのに、優雅な足運びに、ご令嬢方から感嘆の吐息が漏れる。
滅多に王宮にはみえられない方が、今日はお越しになられていたようだ。
(恥ずかしいところをお見せしてしまった)
わたくしは羞恥に下を向く。
ジンク様にはこんな情けない姿、見られたくなかった。
「あまりに一方的な言いようではありませんか。これまで国のために尽力した"浄化の聖女"を、かように扱うなど。殿下に対する、皆の忠義も揺らぎましょうぞ」
ジンク様が鋭い眼差しで、ハイル殿下を咎められる。
そして膝を折って、わたくしに声をお掛けくださった。
「カーナ嬢。あなたは沈黙を美徳としているようだが、吐き出した方が良い場合もある。国のためと思い、言うべきことは語ってほしい」
「ジンク様……。あっ、いえ、キドニー辺境伯様」
言い直したわたくしに、ジンク様が小声でささやく。
「俺にまで気を遣わないでください、カーナ嬢。ぜひ昔のようにジンクと。ハイル殿下との婚約は消えたようですし、誰に遠慮が要りましょう」
さり気なく"婚約破棄は確定だ"とおっしゃいながら、ジンク様がわたくしを促す。
「でも……、語るべきことと言っても……。わたくしが国と殿下の"穢れ"を引き受け、このような脂肪まみれになっていることは、殿下もご承知のことで……」
わたくしがジンク様にお答えしていると、横でハイル殿下が目を丸くされた。
「えっ。そ、そうなのか、カーナ」
「!? まさか殿下──。お忘れだったのですか?」
「あ、いや……」
目を逸らすハイル殿下は、全身で"忘れていた"と示している。バツが悪そうな様子は、内容をいま、思い出したのだろう。
(……! …………!!)
「わたくしが、こんなに苦しい思いをしていましたのに……!」
失望が胸を塗り潰す。湧き上がってくるのは、怒りの感情。
先ほどまでが嘘のように、ポンと力強い言葉が飛び出た。
「わたくしと殿下の婚約はなくなりましたので! "盟約の指輪"をお返しします」
勢いよく、わたくしは指輪を引き抜く。
「ぐはっ!」
途端にわたくしの身体から贅肉が消え、脂の塊が殿下の上に降りかかった。
「なんだ、これ。く、苦しい」
「ハイル様!」
ギトギト脂に圧し潰されそうなハイル殿下は呼吸もままならないようで、喘ぐように口をパクパクされている。殿下ご自慢の金髪も、脂にまみれて酷いありさまだ。
シンディ様も次にどう動けばよいのか、戸惑っている。
慌てふためくふたりを、わたくしは冷静に見ていた。
(もともとは殿下の分の"穢れ"ですもの。わたくしが今まで感じていた苦しさ、ご自分でも体験されたら良いわ)
「他にもあったはずですが、カーナ嬢」
一瞬にして痩身に戻り、身軽になったわたくしを、ジンク様が助け起こしてくださる。
ぶかぶかになってしまったドレスがずり落ちないよう気遣いながら、わたくしはジンク様の手をとった。
「まだ……? たとえば、シンディ様がヒース卿と繋がっていて、さんざん貢がれているというお話とかですか?」
あなたにおすすめの小説
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
復讐の恋〜前世での恨みを今世で晴らします
じじ
恋愛
アレネ=フォーエンは公爵家令嬢だ。美貌と聡明さを兼ね備えた彼女の婚約者は、幼馴染で男爵子息のヴァン=オレガ。身分違いの二人だったが、周りからは祝福されて互いに深く思い合っていた。
それは突然のことだった。二人で乗った馬車が事故で横転したのだ。気を失ったアレネが意識を取り戻した時に前世の記憶が蘇ってきた。そして未だ目覚めぬヴァンが譫言のように呟いた一言で知ってしまったのだ。目の前の男こそが前世で自分を酷く痛めつけた夫であると言うことを。
《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法
本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。
ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。
……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?
やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。
しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。
そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。
自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。
愛してくれないのなら愛しません。
火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。
二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。
案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。
そんなある日、ついに事件が起こる。
オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。
どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。
一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。