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36話 俺、企みを聞く
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今の能力間違いなく姉ちゃんの仕業だ。
「姉ちゃんなぜ殺した? まだ話をしていたのに」
「危ないよ、あいつネオ君を洗脳しようとしてたんだよ」
そう淡々と説明する姉ちゃんは、悪魔の姿から人の姿に戻った。
傷を負ったサラの力が弱まったのだろう。
「まさかと思うけど、神が転移者を送り込んでまで殺そうとしているのは……」
俺の頭によぎったのは最悪のシナリオ。
あの転移者の話を信じるわけではないが、もし本当だとしたら間違いない世界を破滅に導く者――それは間違いなく姉ちゃんのことだ。
安直な考えかもしれないが、この世界の破滅を望んでいる人物といったらもう姉ちゃんしか思い浮かばない。
お互いに理想郷を語った時、姉ちゃんは俺に確かに言った。『この醜い世界を一度壊したい』と。
それが何のためかは未だにわからない。
俺にケガを負わせないため、襲われないためとか言ってたが、それは本当なんだろうけど二の次の話ではないのか?
しかし俺は姉ちゃんを裏切るような真似は絶対にしない。この世界では何よりも大切なのが姉ちゃんだからだ。
例えどんな目的があろうが、俺は姉ちゃんの側に立ち必ず守り抜く。それが俺の恩返しというやつだ。でも事情はしっかりと聞く必要がある。
これから姉ちゃんが何をしようとしているのかを。
「姉ちゃん、ちゃんと教えてくれ」
「うん? 何を教えるの?」
「とぼけないでくれ。もし教えてくれないなら……」
「ネオ君ならわかるでしょ。お姉ちゃんに怖いものなんて」
「俺、姉ちゃんのこと嫌いになるから!」
「……嘘だよね?」
「ほんとだよ」
ガッカリとした表情を見せる姉ちゃん。
それに寄り添うユリアナを見ると何だか健気だ。
「リリスさん話しましょ。ネオにちゃんと」
ユリアナはまさか知っているのか?
いや、そんなまさかな。どう考えても姉ちゃんが真っ先に相談する相手は俺であってユリアナではないはずだ。でも今のニュアンスからすると、間違いなく姉ちゃんの目的を知っている。
「ネオ君、怒らない?」
「ああ、怒るわけないじゃないか」
て言うしかないだろ、この状況だと。
まあ、確かに場合によって怒るかもしれないし、怒らないかもしれないが。
「お姉ちゃんの本当の目的は」
「目的は?」
「ネオ君の子供を孕んで世界を統べる王を誕生させること」
「……はぁ? まったく意味がわからん」
「ええん、ユリアナちゃんやっぱりわかってもらえないよ」
もう唐突過ぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
俺との子を孕むだと……マジで姉ちゃん大丈夫か?
そうも言いたくなる。
力を解放したことで頭がおかしくなったんじゃ。
「いや、もうわけわからん。だって姉ちゃんの目的って――」
「世界を壊す、でしょ?」
「そうそう、俺が赤ん坊の時よく話してくれてたじゃないか」
「お姉ちゃん気づいたの。世界を壊しちゃったらネオ君とバイバイすることになるって。それに幸せな結婚生活も送れなく――」
「いや、だから送らねぇよ!」
ああ、もうダメだ。
俺、この先どうしよう。とてつもなく将来が不安になってきた。結局、姉ちゃんのくだらない理由に俺は振り回されていたってことだ。
「その……助けてくださって――」
「勘違いしないでね。あなたみたいな雑種さんが、お姉ちゃんを悪しき者扱いをしたことまだ忘れてないから」
てな感じで、姉ちゃんがサラを脅すと女神像が光り輝いた。周囲を包む白い光。意識が途絶えたケントを優しく包み込むように、光が覆い被さると転がった遺体は青い粒となって宙を舞う。
「サラ、聞こえるでしょうか?」
「はい、イザベル様」
どうやら俺たちにもイザベルの声が届いている。
女神と呼ばれるだけあって、人の心を優しく包む声はなんとも心地いいものだ。
さすがは女神様。母性が全然違う。
「かの者は転移者、この世界には異質なもの」
「存じております」
「世界にはそんな異質が今や溢れています。かの神が送り込んだようですが、我々は阻止せねばなりません。この意味、理解していますか?」
「はい、我々イザベル教団は幾人も転移者を葬ってきました。ですが、あそこまでの力を持つ者は初めてです」
「かの神の目的は、未だ理解はできませんが転移者を使い、目的のため動いているのは確実。そこでリリス、魔王の器であるネオ。あなたには使命を与えます」
俺に使命、だと。
イザベルが俺に? よくわからないが、面倒事に巻き込まれる予感がする……。
というよりもう面倒事に巻き込まれたみたいだ。
けど、さっきから姉ちゃんは何も言わず頷いてばっかりだ。
「姉ちゃん、さすがに今回は……」
「イザベル、いいえエリス。久しぶりね」
姉ちゃんがイザベルをエリスと呼ぶと信者たちは凍ったように一歩も動かなくなった。
それに親しげな感じだし、昔馴染みなのだろう。
でも、まさか姉ちゃんが女神イザベルと知り合いだとは思いもしなかった。そこまで姉ちゃんは悪魔として上位存在なのだと改めて実感したのだ。
「久しぶり、リリス。元気にしていたの?」
「ええ、あの大戦以来ね。どうやらあの大天使様から人に信仰されるまでに昇格したみたいだけど、気分はいかが?」
「それは皮肉のつもり? 確かに力はあなたが勝っていた。しかし勝ち組は――このエリスよ。人々から信仰され、力を蓄える。そして力を使い人々を幸福に導く。それが愛というものよ」
このバチバチの関係は決して仲がいいものではないとすぐに理解できた。旧友でもなければ、過去に起こった大戦? で衝突した二人が嫌味ったらしく言い合ってるだけだ。
俺は男だから女性の気持ちがわからない。
だからはっきり思ってること伝えたらいいのに、とさえ思ってしまう。
まあ、でも今、口出しすると面倒だ。
静かにしとこう……。
「ふーん、相変わらずお優しいこと。悪魔にとっては到底理解できない考え方だけど」
「そうかしら? だったらあなたは何のためにそこの坊やに愛情を注いでいるの? 悪魔には到底理解できないのでしょ。あら、おかしな話ね」
「うるさい……」
「あなたは愛を知っていた。けど裏切られた。それからよ、あなたが変わってしまったのは。心を閉ざし、人族を憎み、愛することさえ捨てた」
「黙れ……黙れ!」
「でもこの坊やとの出会いで変わり始めた。いえ、捨てたはずの感情が再び芽生え始めた」
女神イザベルのその言葉が引き金となった。
姉ちゃんは感情を抑えられず、拳を強く握り女神像に殴りかかったのだ。もちろん姉ちゃんに殴られたら例え像であったとしても無傷で済まない。
ジワジワとヒビが入り、ポロポロと砕けた石の欠片が床に落ちる。
「リリスやり過ぎよ。エリス、大戦の時にも言ったでしょ。感情を抑え込むことを覚えなさいって」
「はあ~スッキリした。ネオ君、ユリアナちゃん帰ろう」
「待ちなさい、まだ話は!」
「エリスの面倒事に巻き込まないでくれる。こっちは好きにするから。それに別件もあるしね」
俺と姉ちゃん、そしてユリアナは教会を静かに立ち去った。
「姉ちゃんなぜ殺した? まだ話をしていたのに」
「危ないよ、あいつネオ君を洗脳しようとしてたんだよ」
そう淡々と説明する姉ちゃんは、悪魔の姿から人の姿に戻った。
傷を負ったサラの力が弱まったのだろう。
「まさかと思うけど、神が転移者を送り込んでまで殺そうとしているのは……」
俺の頭によぎったのは最悪のシナリオ。
あの転移者の話を信じるわけではないが、もし本当だとしたら間違いない世界を破滅に導く者――それは間違いなく姉ちゃんのことだ。
安直な考えかもしれないが、この世界の破滅を望んでいる人物といったらもう姉ちゃんしか思い浮かばない。
お互いに理想郷を語った時、姉ちゃんは俺に確かに言った。『この醜い世界を一度壊したい』と。
それが何のためかは未だにわからない。
俺にケガを負わせないため、襲われないためとか言ってたが、それは本当なんだろうけど二の次の話ではないのか?
しかし俺は姉ちゃんを裏切るような真似は絶対にしない。この世界では何よりも大切なのが姉ちゃんだからだ。
例えどんな目的があろうが、俺は姉ちゃんの側に立ち必ず守り抜く。それが俺の恩返しというやつだ。でも事情はしっかりと聞く必要がある。
これから姉ちゃんが何をしようとしているのかを。
「姉ちゃん、ちゃんと教えてくれ」
「うん? 何を教えるの?」
「とぼけないでくれ。もし教えてくれないなら……」
「ネオ君ならわかるでしょ。お姉ちゃんに怖いものなんて」
「俺、姉ちゃんのこと嫌いになるから!」
「……嘘だよね?」
「ほんとだよ」
ガッカリとした表情を見せる姉ちゃん。
それに寄り添うユリアナを見ると何だか健気だ。
「リリスさん話しましょ。ネオにちゃんと」
ユリアナはまさか知っているのか?
いや、そんなまさかな。どう考えても姉ちゃんが真っ先に相談する相手は俺であってユリアナではないはずだ。でも今のニュアンスからすると、間違いなく姉ちゃんの目的を知っている。
「ネオ君、怒らない?」
「ああ、怒るわけないじゃないか」
て言うしかないだろ、この状況だと。
まあ、確かに場合によって怒るかもしれないし、怒らないかもしれないが。
「お姉ちゃんの本当の目的は」
「目的は?」
「ネオ君の子供を孕んで世界を統べる王を誕生させること」
「……はぁ? まったく意味がわからん」
「ええん、ユリアナちゃんやっぱりわかってもらえないよ」
もう唐突過ぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
俺との子を孕むだと……マジで姉ちゃん大丈夫か?
そうも言いたくなる。
力を解放したことで頭がおかしくなったんじゃ。
「いや、もうわけわからん。だって姉ちゃんの目的って――」
「世界を壊す、でしょ?」
「そうそう、俺が赤ん坊の時よく話してくれてたじゃないか」
「お姉ちゃん気づいたの。世界を壊しちゃったらネオ君とバイバイすることになるって。それに幸せな結婚生活も送れなく――」
「いや、だから送らねぇよ!」
ああ、もうダメだ。
俺、この先どうしよう。とてつもなく将来が不安になってきた。結局、姉ちゃんのくだらない理由に俺は振り回されていたってことだ。
「その……助けてくださって――」
「勘違いしないでね。あなたみたいな雑種さんが、お姉ちゃんを悪しき者扱いをしたことまだ忘れてないから」
てな感じで、姉ちゃんがサラを脅すと女神像が光り輝いた。周囲を包む白い光。意識が途絶えたケントを優しく包み込むように、光が覆い被さると転がった遺体は青い粒となって宙を舞う。
「サラ、聞こえるでしょうか?」
「はい、イザベル様」
どうやら俺たちにもイザベルの声が届いている。
女神と呼ばれるだけあって、人の心を優しく包む声はなんとも心地いいものだ。
さすがは女神様。母性が全然違う。
「かの者は転移者、この世界には異質なもの」
「存じております」
「世界にはそんな異質が今や溢れています。かの神が送り込んだようですが、我々は阻止せねばなりません。この意味、理解していますか?」
「はい、我々イザベル教団は幾人も転移者を葬ってきました。ですが、あそこまでの力を持つ者は初めてです」
「かの神の目的は、未だ理解はできませんが転移者を使い、目的のため動いているのは確実。そこでリリス、魔王の器であるネオ。あなたには使命を与えます」
俺に使命、だと。
イザベルが俺に? よくわからないが、面倒事に巻き込まれる予感がする……。
というよりもう面倒事に巻き込まれたみたいだ。
けど、さっきから姉ちゃんは何も言わず頷いてばっかりだ。
「姉ちゃん、さすがに今回は……」
「イザベル、いいえエリス。久しぶりね」
姉ちゃんがイザベルをエリスと呼ぶと信者たちは凍ったように一歩も動かなくなった。
それに親しげな感じだし、昔馴染みなのだろう。
でも、まさか姉ちゃんが女神イザベルと知り合いだとは思いもしなかった。そこまで姉ちゃんは悪魔として上位存在なのだと改めて実感したのだ。
「久しぶり、リリス。元気にしていたの?」
「ええ、あの大戦以来ね。どうやらあの大天使様から人に信仰されるまでに昇格したみたいだけど、気分はいかが?」
「それは皮肉のつもり? 確かに力はあなたが勝っていた。しかし勝ち組は――このエリスよ。人々から信仰され、力を蓄える。そして力を使い人々を幸福に導く。それが愛というものよ」
このバチバチの関係は決して仲がいいものではないとすぐに理解できた。旧友でもなければ、過去に起こった大戦? で衝突した二人が嫌味ったらしく言い合ってるだけだ。
俺は男だから女性の気持ちがわからない。
だからはっきり思ってること伝えたらいいのに、とさえ思ってしまう。
まあ、でも今、口出しすると面倒だ。
静かにしとこう……。
「ふーん、相変わらずお優しいこと。悪魔にとっては到底理解できない考え方だけど」
「そうかしら? だったらあなたは何のためにそこの坊やに愛情を注いでいるの? 悪魔には到底理解できないのでしょ。あら、おかしな話ね」
「うるさい……」
「あなたは愛を知っていた。けど裏切られた。それからよ、あなたが変わってしまったのは。心を閉ざし、人族を憎み、愛することさえ捨てた」
「黙れ……黙れ!」
「でもこの坊やとの出会いで変わり始めた。いえ、捨てたはずの感情が再び芽生え始めた」
女神イザベルのその言葉が引き金となった。
姉ちゃんは感情を抑えられず、拳を強く握り女神像に殴りかかったのだ。もちろん姉ちゃんに殴られたら例え像であったとしても無傷で済まない。
ジワジワとヒビが入り、ポロポロと砕けた石の欠片が床に落ちる。
「リリスやり過ぎよ。エリス、大戦の時にも言ったでしょ。感情を抑え込むことを覚えなさいって」
「はあ~スッキリした。ネオ君、ユリアナちゃん帰ろう」
「待ちなさい、まだ話は!」
「エリスの面倒事に巻き込まないでくれる。こっちは好きにするから。それに別件もあるしね」
俺と姉ちゃん、そしてユリアナは教会を静かに立ち去った。
応援ありがとうございます!
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