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3話 来客と遺産

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 声の主はサラだった。
 しかし話は朝食の後だと言ったはず。
 そう思いながらも、ユリアは声を上げた。

「入りなさい」

「失礼します。お嬢様、少々うるさい輩が来ておりまして……おっと失礼。ここから南西の街――ルピードからお客人が」

 ユリアはナイフとフォークを静かに置いた。
 そしてガラスビンに入った水を手元のグラスに注ぐ。

「そう、私とクレン君は朝食の最中です。お待ちいただいて」

「でしたら、紅茶とクレン様に以前お作りしていただいた甘いお菓子をお出しいたします」

「そうしてちょうだい。もしお菓子に難癖を付けるようなら即刻、屋敷から追い出しても構わないから」

「承知しました」

 サラにそう告げたユリアは口に水を含んだ後、再びフォークとナイフを手にした。 
 ベーコンを口に運ぶと、強く噛み締めユリアは考えていた。
 何用でこの屋敷に訪れたのか、と。

「ユリアさんいいんですか?」

「ええ、ですが無礼にもほどがあるでしょう? なんの書状もなしに急に――」

「でも困っていたらどうするんですか? 書状を出す時間すらなかったら」

「どっちにしても自業自得でしょ」

「だったら僕が話を聞いてきます」

「え!? 待ちなさいクレン君!」

「いやです! 本当に困っているかもしれないのに放って置けないですから」

「わかったわよ。一応、念のためクレン君は私の後ろから離れないで」

「はい!」

 そもそも貴族生まれのユリアと平民生まれのクレンとでは考え方が大きく違う。
 ユリアは自分と領地にとってメリットとなる以外のこととはあまり深く関わらないようにしていた。
 しかし彼はすぐに困っている人を助けたがる。それは身分を問わず、自分にとってもメリットになるかならないかは関係のないことのようだった。
 単に人が困っているのなら助ける。
 まるでそう親に育てられたかのように。

 そしてユリアはクレンを連れ、部屋を後にした。
 すると妙に騒がしい侍女たちの姿。
 どうやら客人をもてなそうと張り切っているようだ。
 辺境に屋敷を構えているためか、それとも自分の問題なのかはユリア自身も理解できずにいた。
 恐らく他貴族の屋敷には客人が常日頃から押し寄せているのだろう。

 そんなこんな考えながらもユリアは客人をもてなす応接の間に辿り着いた。
 そして部屋に入ると、そこには杖を身体の支えとしている老人の姿とサラの姿があった。
 ユリアは笑みすら浮かべずそのままソファに腰を降ろす。

「わざわざこの屋敷までお越しになった理由わけは?」

「いや、それが……大変申し難いのじゃが金銭だ――」

「ルピードは漁業の町だとお聞きしています。その日その日の漁獲量で稼ぎを得てらっしゃるとか」

 ユリアの屋敷から南西に向かった先にある漁業の町ルピード。
 主にそこで暮らす人々は魚や貝類、海藻などの海産物を各地で売り捌き生計を立てていると聞いている。

「確かに昔はそうじゃった。しかし今は年々漁獲量が減っているのが現状じゃ。だからどうかお願いじゃ。このままでは町が――衰退していく一方。ぜひ、ユリア様にお力をお貸しいただきたい」

「サラ、あれを」

「はい、お嬢さま」

 そして手渡されたのは数枚の書類。
 これには主に先代であるユリアの父が残したルピードの財政状況や人口、立地などが詳しく記述されている。
 もう十年以上前の物にはなるが、これは父が残した財産だと言っていい。
 それほどユリアはこの書類を父が残した物に嘘偽りはないと判断しているのだ。
 それもそのはずルピードはもともとアルバレア家所有の領地だったはず。
 しかしユリアの父が亡くなった途端、アルバレア領から他領へと移ったのだ。
 
「あなた方は他領へ移ったと聞いておりますが」

「いえ、それは先代、ユリア様のお父上がお亡くなりになり我々はどうしてよいかもわからず」

「で、他領に移ったと。現ルピードの領主はどなたかしら?」

「ハイゼンベルク家のシルク様じゃ」

「でしたら、そちらにお頼みすればよろしいのでは?」

「何回もお頼みしたのじゃ。しかし多忙という理由でお目通りもで叶わぬ」

「話はわかりました。では私からシルク様に書状を記して差し上げましょう。サラ、お帰りになられるわ。別件へと移りましょう」

「承知しました」

 サラは駆け足で部屋を後にした。
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