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冒険者編

第15話 魔物より人間が好き

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 盗賊が現れた。

 言葉にするのは簡単でも現実そうは簡単でもない。


「ッ!」

 グレンさんが隣で息を飲む。
 私を背中に庇ってくれている様だけど、残念。後ろにも賊が回っている。

 1番賊の人数が多い正面に、前衛職でもあるライアーとリックさんが剣を構えていた。

 ライアーは片手剣を、リックさんは双剣を。
 グレンさんはメイスを。

 私は箒を。

「お前ら冒険者ギルドから差し向けら……──なんで箒?」
「「ほんとそれな!」」
「リィンは箒もめっちゃ似合うだろ! 他の装備知らないけど!」

 リックさんしか私の味方が居ない。おかしいな。

 今現れている賊の中で1番リーダー格の賊をひとまず捕捉する。数は正面に8、背後に3。合計11人。正面に2人と背後に1人魔法職らしき人物。
 最初に降ってきた炎の矢は確実に魔法。今降り注いでいる雨も魔法な場合を考えると……。いや、雨も魔法だな。
 馬車や人を襲った形跡を消したんだ。

「おい、リック」
「分かってる」

「降り注ぐ雨よ、その恵みを凍てつかせ、この世に凍土を。今この時に……」
「〝土ノ穴〟──急急如律令!」

 〝ウォーターボール〟

 背後から放たれようとした魔法は詠唱の段階でグレンさんの魔法が吹っ飛んで行った。
 私は無詠唱でリーダー格の賊にぶつける。

 指示を出させないよう無力化するには地火風よりも水!

「はッ、遅せぇ!」

 馬鹿にしたような鼻笑いを飛ばしてライアーが正面の敵を1人切り飛ばす。防具もまともにつけてない賊は簡単に倒れた。

「ライアー生かすして!」
「はぁ!?」
「──そっちの方が報酬高き!」

 私税金勉強したから知ってる。敵は死んで動かない討伐よりも、労働奴隷として活用出来る拿捕の方が1人頭3割増!

「どっちが盗賊だお前ッッッ!」

 ビシャッとぬかるんだ地面を踏み、ライアーは飛び蹴り。踏み込みが甘かったせいかダメージは与えられてない。

「魔法職から先に……ッ!」
「させっかよ!」

 背後の敵が私に向けてカトラスを振るう。
 リックさんが片手の剣を投げて阻止してくれた。剣は肩に深く突き刺さる。

「グアッ!」
「よっこいせ」

 私は飛んできたリックさんの剣を弾き飛ばす様に箒でぶっ叩いた。

 カラン。剣が地面に落ちる。
 剣が抜けた傷口から雨のせいで大量の血が流れる。

「ほーらほら。いいのぉ? お仲間、雨止めねば死ぬですよ?」
「グッ、卑怯な……!」
「1人は母なる大地におねんね。1人は仲間の魔法で出血死間近。どうするですか?」

 背後で生き残っている1人に向けて煽る。
 はーっはっはっは! 魔物とかなんかよく分からない存在ならともかく人間相手だと心理も弱点もあまり変わらないから! 怖くないんだよ!

 槍を持った背後の手にはどうすべきか迷っている様だった。

 すると雨が止む。


 〝ウインドスラッシュ〟!

 ライアー前に目掛けて魔法を打ち込んだ。
 ライアーが3人目を無力化した段階でグレンさんの詠唱が完了した。

「リック!」
「おう!」

 グレンさんがリックさんに向かって剣を投げ戻した。

「小娘! 人の獲物に魔法ぶち込むんじゃねぇ!」
「ッ、お前ら! 魔法職の少女から先に無力化しろ!」

 口封じをしただけのリーダー格の男。水が消えてキレているのだろう。そんな指示を出した。

 ……待ってた。


 私、逃げ足だけは常日頃から鍛えているので。

「〝ファイアアロー〟!」

 雨が止んだからか火魔法を遠慮なく打ってくる。
 飛んでくる先はもちろん私の立っている場所。そこに他の敵もやってくる。リーダー格除いて3人。

「よっと!」

 1番速くやってきた敵さんの股を潜り抜け背中に回ると、その背中を蹴りつけ場所を入れ替えた。
 そう、火の矢が飛んでくる目標地点に。

「うわあああ!?」
「盾ぞありがとう!」

 フレンドリーファイア! 綺麗に決まりました!

「このガキ!」
「ちょこまかと!」

 リックさんが援護の為に私の元に向かってきた。
 私は剣を避けつつリックさんが切り掛るのを待った。

 〝ウォーターボール〟

 リックさんが狙っている男は無視して、もう片方の男に拳サイズのウォーターボールの口の中目掛けて打ち込めば、空気の代わりに水を吸い込んで動きが止まる。
 背中からフリーの男に一撃、そして溺れもがく男に一撃。

 対人戦は傷が1つあるだけで一気に不利だ。

──ガクッ

「え!?」

 リックさんが崩れ落ちた。

「あ゛ーー、クソ。これ高ぇんだぞ」

 リーダー格の男が頭を掻きながらボヤく。

 周囲を見渡すとグレンさんとライアーも倒れていた。

 盗賊は口まで覆った布を外すことなく、変わらず立っている。万全の体制で生き残っているのは薬瓶を片手に持っている火魔法を使った魔法職と、リーダー格の男。そして槍を持った男。
 3人か。

「安心しろお嬢さん。そいつらは強制的に眠っているだけだ。……まぁ、永遠に眠ることになるがな」

 眠り薬か何か──!

 私は箒を構えた。
 足元で蹲る敵への警戒も捨てられない。

 ──ので、私は傷口を踏みしめた。

「ぐあ!?」
「いやお前鬼か? 鬼畜か? 畜生か?」

「この足ふきマットぞ苦しむすたくなければ投降ぞしろ」
「おっかしいなー。俺が脅してる筈なんだけどなー?」

 本当に申し訳ないけど、人質にはなんないんだわ。この人達。ライアーもグレンさんもリックさんも。全員。たった2日程度だから。私の身の安全の為には切り捨てるよ?


「余裕のところ悪いが、魔法職1人。──死んでもらう」


 カチャ、とリーダー格の男が剣を構えた。
 型などなさそうな構え方。

 対して私は箒を使い。

「掃除ぞしましょう!」

「「「は?」」」

 魔法職の詠唱すら止まってしまった。

 敵の塊に1番近いのはライアーか。
 うん、多分巻き込まれる位置だけどまぁいいか。

 ゴソッ。

「くらえ」

 〝ウインドスラッシュ〟……!

 箒の魔石を経由した風魔法が炸裂する。
 塵は箒で掃除しましょう!

 風が肌を切る。
 所詮は純粋な風。傷は浅い。

 だけど。

「マズイ!」

 盗賊が口まで覆っていた布が切り刻まれ地面へと落ちる。

「あ、逃がしませぬよ?」

 〝ロックウォール〟

 呼吸で薬品を吸い込んでしまうタイプ。しかも結構キツめなのだと思う。
 盗賊がお揃いでつけていた布は恐らく高性能。あれをつけていたら多分薬品は効かない。

 なら外してしまえそんなもの。

「はーっはっはっは! どう? 自分の武器にて負ける今の気持ちぞ私に教えるすて?」
「お前くそほど性格悪いな」

 私の横にふらっと立ったライアー。頭を肘置きにしてそんなことを宣った。

「おはよう、狸寝入りさん?」
「おう、おはよう」

 虹の下で生き残った事への喜びを浮かべた。





「──いや何普通に終わらせようとしてんだ」
「重き重き重き重き!」
「お前さっき俺も巻き込まれる事が分かっておきながら魔法使ったな?」

 ぐぐぐ、と体重を掛けてくる。

「眠るしてなきなのは判明し……てまさぬけど、まぁ致命傷になるような魔法では無きですし。──ゴメンネ!」

 スパンッ。謝ったのに頭叩かれた。解せぬでござる。


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