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冒険者編

第16話 貴族の宿命

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「それでどう思う?」
「どう、とは?」
「盗賊に生き残りが居るかどうか」

 ぐっしょりと濡れてしまった服を絞り水分をなるべく減らしていると月組の2人を道端に避けたライアーがそう言った。

 服が気持ち悪い。着てるくらいなら脱いだ方がマシな気がする。脱がないけど。

「まぁ、拠点に数人残すが普通でしょうぞ」
「11人だろ。いまここにいるの。これ以上規模がデカくなると維持が難しいだろうな」

 妥当か。
 そう呟きライアーは両手をパンパンと叩いてゴミを払った。

「拠点はあっちだな」

 視線を向けたのは盗賊が現れた方の茂み。
 身を隠せる背丈の茂みのお陰で、盗賊はそりゃもう襲いやすかったことだろう。

「んで、お前どうするんだ」
「主語ぞ抜くするな!」
「世界共通言語を喋らねぇお前に主語だ述語だあーだこーだ言われたくねぇな」

 真顔だった。

「というかお前は何をしてんだ……」

 おっさんの呟き声に私は手にしたブツを掲げてニッコリ笑う。

「腰紐!」
「見りゃわかる」

 盗賊さんの腰紐抜きまして、盗賊さんの手を後ろに持っていきまして、あらほらさっさ。

「じゃーん! 緊縛!」
「その言い方はやめろ」
「束縛プレイ!」
「やめろ」
「……じゃあ何と言うすればな良きですか」
「………………………………拘束と捕縛があるだろうが」
「惜しい!」
「惜しくねぇわ」

 前世(仮)の言語に引っ張られながらこの世界の言葉を覚えたんだ。まっさらから覚えるのとは訳が違うのは仕方ないのだ。うんうん。

「(またこいつくだらない事を考えてるんだろうな)」

 大変に心外な気配を察知した。
 あと緊縛も捕縛も少しマイルドな言い方になっただけで事実は変えられないからね。

「とにかくだ。お前はダクアに戻るか、それともこのまま盗賊の拠点まで潰してしまうのか」
「……私に潰すが可能と思うしてるの?」
「あのなぁ、俺は魔法に詳しくないけど、お前の魔法が盗賊と競い合っても上なのは分かる」

 確かに。
 詠唱の有り無しはコンマレベルで時が進む戦闘中、自分の勝敗に死ぬほど関わってくる。

 私は腰に手を当てて片足に重心を寄せた。

「もちろん行くですよ。グレンさんとリックさんが寝るしたは想定外ですけど、残党は体勢ぞ整う前に潰すが最良」

 残党の数が現状の数より少ないのであれば叩くべき。

 本当は味方が2で敵が1、って状態が1番理想的なんだけど。対人戦のレベルから見て2人なら同時に対処出来る。
 最悪、勝てなくても死なない。

「お前人間相手だと強気だな」
「人間は思考回路も存在するですし、身体的弱点も自分と同じ、それに感情も存在するですし、痛みも感じるです」
「…………あぁ」

 なんだよその微妙な反応!
 おっさんは微妙な顔して私を見下ろしている。

「リックとグレンは置いとく。さて、行くか」
「放置プレイ良きですか?」
「…………………………お前プレイって言葉使うな」
「ぞ!?」

 禁止用語扱いなの!?
 プレイ、一体なんて言葉なんだ……! ゴクリ。

「月組がすぐ来るだろうから」
「ん? その心は?」
「リックが単独行動してるからだよ。グレンがたまたま一緒にいるが、リックを放置とかマズ有り得ねぇ」

 ……リックさん何者?

 月組は常にリックさんを監視してないと気が済まないの?

「置いてくぞ」
「ライアーも付き合うしてくれるのですか?」

 駆け出したライアーに並ぶ様に箒ぶきに乗る。
 ギョッとした顔で箒を見たけど、ツッコミなく放置された。

「ばぁかお前。──稼ぎ時に稼いどかなきゃ街に繰り出せねぇだよ」
「街、関税は無きですよ?」
「お嬢ちゃんは黙ってな」

 あっ、これ色街の方の街だ。賢い私は気付いてしまった。

「そういえば眠り薬……」

 口に出されてハッと気付く。まずい。

「なんでお前には効かなかったんだ」
「場所的な問題では無きですか? リックさんが吸い込むしたは前衛故の活動量と呼吸量のせいでしょうし。私風魔法使うですから」

 多少考える素振りを見せて疑問形で答える。
 確信が持てない疑惑だからこそ、信ぴょう性が逆に増すはず。

「そんなライアーこそ何故効かぬですか」
「ハッ、ソロ冒険者が意識を失う訳にはいかねェだろ。あァいう手合いにゃコツがあるんだよ」

 話を逸らすように同じ疑問を投げ掛けると普通に答えられた。なるほど、ソロ冒険者は誰もフォローしてくれる人間がいないから意識を失う=死なのね。

 自己完結型冒険者。

 なんでも自分でやるしかない人間の手数の多さは、計り知れない。
 もちろん私も自己完結型の1人。

「へぇ」
「急に興味を無くすな」

 自己防衛は怠るな。
 口を酸っぱくして言われ続けた言葉だ。

 貴族、王族とは国の為に生き延びることが最も重要。

 血を守る為、ってのもある。だからこそ王族の血は尊い。ただ守られてるだけじゃ兵にも民にも迷惑をぶっかけるだけだけど。

 私たちは生きなければならない。例え民を犠牲にしてでも。
 それは得た教養の質という問題と言える。国の為、王の為、そして民の為に大より小を犠牲にする。

 例えば戦場。
 回復職と前衛職が命の危機にあるとする。この時回復職は死んではならない。前衛職をどれほど残酷な犠牲にしてでも。
 何故ならこの先の未来で回復職は他の前衛職を救うから。

 あーヤダヤダ。取捨選択ばかりだ。

「ッ、あれが拠点っぽいですね」

 というか拠点にしか見えない。
 風化している貴族の別荘邸。かなり年季が入っている様に見える。入口の門に1人。

 箒から降りて茂みに身を隠くし、見張りをしているだろう賊をじっと見る。ライアーは少し離れた場所に移動して隠れた。

 誰か1人が見つかっても、もう1人が無事になる位置取り。
 自分だけ生き延びようったってそうは行かないからな。




 閑話休題。
 つまり貴族である私も生き延びなければならない。

 自己防衛出来る程度には努力させられた。ええ、強制的に。


「流石に毒薬はなぁ……」

 実家では毒殺防止の為に訓練してました。貴族では常識らしいし、実際毒盛られても助かったからいいんだけど。
 私の前世の感覚に基づく常識では非常識という判断が下されました。


 私は誰にも聞こえないような声でぽつりと呟いた。
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