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ダクア編
第32話 自分が詮索しないとは言ってない
しおりを挟む「つったってどうするんだよ」
グリーン子爵が応接室を退出した後、私とライアーはそのまま残り作戦会議となった。
私が上座席に移動し、机を挟む状態で顔をつき合せる。机の上にはリリーフィアさんが出してくれた職員名簿、グリーン子爵が提供した私兵団の名簿。そしてダクア周辺の地図。
地図には盗賊賊が拠点に使っていた建物──聞けば先代子爵の別荘らしい。その場所に丸が着いていた。
「意外です」
「何がだ?」
「ライアー、面倒くさがると思うしたので」
2組の交渉に関しては私が前に出た。ライアーより私の方が慣れていると思ったから。
まぁ、箱入り娘(口調アウト)なので交渉の場数なんて身内の化け物相手だけなんだけど。しかも9割敗北。
「俺が面倒くさがる、ねぇ……」
ライアーは頭を掻きながら私の言葉を繰り返す。
「確かに面倒くせぇよ。紛れもなく」
「ですよね」
「正直貴族なんて、微塵も絡みたくもねぇ」
オタクの目の前にいるの、貴族なんですよ。
そんな事実を知らずにライアーは面倒くさそうな顔をする。
「でもま、貴族に目をつけられた状態じゃあまともに冒険者活動出来ないのも事実だし」
ライアーは強制依頼などを避けるためにFランクに居る。
つまり極力干渉されたくないってことだろう。
「貴族なんて──」
ライアーの声色に、目に、渦巻いた感情がちらりと見えた。
その感情は嫌悪なのか憎悪なのか分からないけど、『貴族が嫌いである』と裏付けるような色だった。
……。
私の頬が思わずピクリと引き攣る。
貴族で言うのもなんだけど、私も貴族はちょっとな。
「……。それに」
「……ん? 何です?」
ライアーはじっと私を見ていた。
「相棒様が受けるって決めたんなら付き合うのがコンビの宿命だろ」
「うぎゃっ」
そしてデコピンした。
痛みに悶えていると鼻で笑っている様な声が聞こえた。
ごめんね。貴族が貴族の事に巻き込んで。
でも謝ることは出来ないんだよね。ライアーの優しさを踏みにじる事になるから。
「つーか、コンビ組んで初の依頼なんだからよ。この際きちんと活動の路線をどうするかも決めとこうぜ」
スタンピードは、うん、例外だもんね。
私はズバッと紙を取り出した。
口約束じゃなくて契約にしましょう!
ライアーは見るからに『貴族みたいな事し始めやがって』って顔をしている。やれやれと首を竦めた後、納得はしてくれた。
「コンビ期間の希望は?」
「ひとまず1ヶ月希望ぞ。上手くいくなれば1年目標。ライアーの希望は?」
「飽きるまで。ま、上手くいって半年くらいだろうな。とりあえず1ヶ月は組んだまま様子見で俺もいいと思うぜ」
冒険者としての常識も何もかも足りない私には、ライアーが示す『半年』が短いのか長いのか分からない。
ただ、私が冒険者になるのは1年だけだということを考えると、お互い都合がいいってわけ。
とりあえず1ヶ月の試用期間、と。
「じゃあ私から質問ですけど、──コンビ活動時間は?」
「昼過ぎから」
「ですよね。ちなみに終わるもそこまで遅くなるは嫌です」
「んじゃちょっと遅めに夜の鐘辺りにしとくか。日が暮れる前に終わるのが目標で」
鐘の音は1年決まった時間になる。だから季節によって日が出てたり出てなかったりする。
時刻で言うと朝の鐘は6時、昼の鐘は12時、夜の鐘は18時だ。時間や日付の数え方とかは前世と変わらないから良かった。
つまり、活動時間は大体6時間以下。
「頻度はどうすんだ?」
「現状の様な特殊な依頼ぞ無い限りは有り金ぞピンチになれば、で良いかと」
「じゃあ週に2か3日でいいか。日跨ぎ依頼も極力無しだな」
「あ、でも活動拠点ぞ移す場合は例外で」
「あぁ……俺は早いとここの街離れたいな」
意外だ。
そういえば私ライアーのこと全然知らないな。この街を活動拠点に決めている理由も、何も。
私が探られるとまずいから探られないように探らないだけ、なんだけどね。
「何故?」
グリーン領は子爵に目をつけられたけど、それを除けば大分過ごしやすい。
ライアーは苦虫を噛み潰したような顔を斜め下に向けた。
「………………リーベ」
「……あぁ」
それは大問題だ。
獣人娘からの報酬として、私のマントを作ってもらった時も大変にウザかった。主にライアーについて話題を出していたけど。
「何を実行すればあそこまで好かれるぞ」
「知るか」
引き攣った顔で吐き捨てる。よし、話題を変えよう。
「じゃあ移動するなればどこがいい?」
「あー。ファルシュ領か、王都だな」
んーー。どっちも激しく微妙。
というかファルシュ領の首都出身だって言ってはいるけど、数回市井を走り回っただけでそこまで詳しいわけじゃないから。うーん。
「その心は?」
「ファルシュ領は防衛基地も兼ねてるだろ。それに王都はなんてったって人の数も違ぇ。そこら辺なら田舎のここと違って依頼の色も違うだろうし、美人も多……──なんでもねェ」
「よく分かるますた。ちなみにファルシュ領は美人の姉ちゃんそこまでいませぬ」
「よし王都にしようぜ王都に」
脳みそが性欲に直結してるおっさんは即決した。
ファルシュ領、全体的に男性が多いんだよね。女性もいるけど、どっちかと言えば人妻……というより母ちゃんみたいな人種が多い。
「それにファルシュ領ですとリーベさんの活動範囲ですよね」
「俺しばらくファルシュ領はいいわ」
そこは絶対じゃなくてしばらくなんだ。
「んじゃ活動の話に戻すが、報酬分けはどうすんだ?」
「んー。半々で」
「へぇ、貢献度みたいなのじゃなくて、か?」
俺サボるけど、と言いたげな姿。
悪いけど、私もサボりたいタイプの人なんだよね。
「そもそもどっちかがやる方が早き時も存在するです。──半分こで良きですよ」
「半分こ、ね」
「痛い目も怖い目も、苦労も喜びも報酬も支出も半分こ」
「……趣味が悪ぃ」
今の心の底から吐き出したな。
「あ、もちろん武器や私物は別ぞ? 武器防具の新調は自由ですけど、私たちの活動的に『余裕を持つして勝利できる依頼を達成』ですから必要不可欠では無きですよね」
「おま、それお前より俺の方が金掛るって分かって言ってんな!?」
もちろんですとも!
自分に都合のいいところだけ半分こさせてね!
後、こうすれば必然的に『街の外に出るなら大人同伴』がクリア出来る。
「ほかはあるです?」
「……今んとこわざわざ話し合う様なことはねぇな。その都度って感じで」
「大概適当ですぞね」
「だからコンビ組むのに都合がいいんだろ。あ、お互いソロ活動はありにしようぜ」
「コンビ活動の方を疎かにしない程度ですたら」
まぁ、結局はソロの方が都合いいんだよね。
これで決まりかな。
活動方針
・昼の鐘から夜の鐘の間
・日跨ぎ依頼は無し
・週2か3の活動
・報酬は半々
・王都を目指す
「そういうすれば」
「あ?」
「詮索は無しで」
ここだけはっきり線を引いておこう。
詮索させるつもりは無いし、余計な情報は漏らさないようにするけど。探らせないようにしなければ。
「……あぁ、そうだな。俺にも探られたくないこと、あるからな」
口元に手を当てたライアーが、口角を上げた。
私を見下ろすその目は、とても冷たかった。
『貴族なんて──』
別にこの男に嫌われたくなくて隠しているわけではない。
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