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王都編上

第67話 波乱の予感

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 朝から祭り気分の王都。
 ついにとうとうやってきた。

 ──クアドラードアドベンチャートーナメント


 形式は勝ち抜き戦。
 AブロックとBブロックにそれぞれ8組ずつ参加者がおり、最大で4戦やる事になる。

 対戦相手に会わないように分けられた控え室に、私とライアーが居た。

「しっかしまぁ」

 控え室B。
 Aブロックの前半の方に振り分けられた私たちが見回すと、既に来ていた3組の冒険者が目に入る。

 勝ち抜き戦だと絶対全員が鉢合わせないわけがないし、AブロックとBブロックを前半と後半に分けて四分割して、その4つのグループの中から1組ずつ入れられたと見た。
 この中には3戦目に戦うかもしれない組が1組と、決勝戦で戦うかもしれない組が2組いるってわけね。
 お互い、勝ち残れば。

「全員ガチガチの重装備だな」

 そういうライアー。
 ・コート(化け物リーベ産の耐魔力付与)
 ・篭手(大抵の剣を受けれる特注品)
 ・ブーツ(鉄板仕込み)

 そして私
 ・マント(化け物リーベ産の耐魔力付与)
 ・ブーツ(鉄板仕込み)

 化け物産ってところで既にガチガチの重装備だと私は思う。だって、私の最大火力のファイアストームを簡単に防いで見せた服だよ? 物理耐性はないかもしれないけど、ライアースピード重視だし魔法職の私からすれば結構脅威なんだけど。前職で魔法職殺しでもやってたんか……?

 あと私は服に暗器とか睡眠薬仕込んでるので。

「……2人組?」
「おい2人だぜ」

 全員4人組だ。人口密度よ。

「あんたら……Bランクか……?」

 誰か分からないが警戒心をあからさまに見せた男が問いかけた。
 私たちを案内してくれた受付のお姉さんがひっっじょーーに苦い顔をしている。

 なんでBランクに間違えられるんだろう?

 ライアーと顔を見合わせて首を傾げるとお姉さんが察して口を開いた。

「ご存知ありませんか? Aランクの冒険者は1人、Bランクの冒険者は2人まで、CランクからFランクは4人までという規定があるんです。お2人はコンビですから説明されてないのでしょうが」

 なるほどそれでか。
 んー、ぶつかる可能性がある限り警戒されるよりは油断される方がいいからFランクだと言ってもいいけど、どうせ当たるのは第3戦目からだし……。

 ま! いっか!

「Fランクですぞ?」
「あぁ、Fランクだな」

 そうやって告げれば、その空間の冒険者達は『ほっ』と息を吐いた。

「なんだ……ただの冷やかしか」
「あーびびった。高ランク冒険者に参加されりゃたまったもんじゃねぇ」
「良かった……」
「当たり枠か。俺らと同じ控え室じゃなくて1戦目に当たってくれよなー!」

 安堵の声だった。
 揶揄う様な笑みを浮かべてフレンドリーにライアーに関わっていく冒険者達。

「ほら、俺のアイボーがどうしても参加したいって言うからよォ」


 ただし私を言い訳に使うライアーは絶対許さん。
 知らない人に囲まれてソロッとアイボーの服を掴む幼女を演出しながら思いっきり背中の肉をつまんでやった。

「い゛」
「どうしたよ」
「い、いいやァ……なんでも……」

 口角をヒクヒクと吊り上げながらライアーが冒険者の相手をする。

「子守りも大変だな」
「こっちの人間じゃないだろどっから来たんだ?」
「ダクア」
「「「あー、あの田舎街」」」
「チビッ子、飴食べるか?」
「食す!」

 ポケットから飴を取り出してくれた冒険者がいるので口を開けて待機する。普通に手で受け取ってもいいんだけど、多分大人は雛鳥みたいにあーんされるの好きでしょう。

「う゛……可愛い……」
「は、おま、ずるいな!? この街の期間限定の少ない癒しを独り占めするつもりか!?」
「いいかFランク。絶対、絶対この子をここのギルマスに会わせるんじゃねぇぞ……!」

「……いやまぁ。おう、わかったよ」

 甘い飴に舌鼓を打っているとライアーががっしり肩を掴まれて注意されていた。
 王都の男冒険者はギルマスアンチ。ハッキリわかんだね。

 ここまで来ると女冒険者がどんな感じなのか見てみたいけど、そういえばリーヴルさんとかサーチさんも女冒険者だな。
 そもそも女冒険者って少なそうだしなぁ……。

 冒険者って、定職に就けなかった『その他』の救済措置でしょ、ぶっちゃけ。前世で言う派遣社員だし、ギルドはハローワーク。
 男に比べて、女は最低ラインまで落ちる前に救済措置がある。それを救済と言っていいのか分からないけど、ま、ライアーが夜な夜な繰り出す街の事だね。

「この大会、優勝できなくても一応知名度が上がるからな、指名依頼も入ってきやすいし。まぁ、お前らはランク上げからだけど」
「指名依頼ってやっぱりEランクからだよな」
「ぶっちゃけCにならねぇと来ないんじゃないか?」

 和気あいあいと会話を2組の冒険者と話をしていると、突然男の怒鳴り声が響いた。

「舐めているのかお前らッ!」

 神経質そうな冒険者が私を睨んでいた。

「この大会は遊びじゃないんだぞ!? 強い者が強い者と競い合い、己の力を高める為の大会だ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴り続ける男。
 あーはい、わかった。意識高い系冒険者ね。はいテンプレテンプレ。

 どうせ『Fランク如きが名誉ある大会に参加するとはどういう神経しているんだ』とか言っちゃうやつ。
 テンプレらしい絡まれ方は今までしたこと無かったから若干ワクワクしている部分は否めないけど、実際やられると可哀想だなって思っちゃう。私が。無駄な時間を使うことに。

「あー……悪ィな?」

 ライアーが形だけの謝罪をした。
 すると鬼のような形相で冒険者は言葉を続けた。

「──女の子のトラウマになったらどうするんだ!」


 ……。
 …………。

「は! 予想外の言葉ぞ固まるすてた!」
「あまりに似合わねぇ言葉すぎて言葉を失っていた」
「あ? 喧嘩??????」

 ライアーが私に喧嘩を売っている。おかしい。普通逆じゃない?

「まだ子供で、しかも女の子! お前には保護者としての責任がないのか!」
「いや俺保護者じゃねぇし」
「親権持ってるやつが保護者だけじゃねーーーーだろ! 未成年者が危険なことに首突っ込まないように監護保護すべき周囲の大人のことを言うんだろーーーが!!」

 うーん正論。
 法的には違うのかもしれないけど、倫理的にはど正論。周囲の冒険者はそっと目を逸らした。

「えっと、Fランクコンビのライアーさんリィンさん。試合です」

 時間だ。
 というか一発目だった。

 んー、そこはかとなく『一発目にぶち込んで実力認識させたろ』みたいなギルド側の裏工作が頭に過ぎるけど、Fランクでいるのは実力認識詐欺じゃなくて義務発生回避だから別にどうでもいいんだよね。個人的には。

「おい、話は終わってな……!」
「お兄さん」

 私はスルッと怒鳴っていた冒険者に近寄って笑顔で見上げた。

「要は怖き経験、なければ良きですよね?」

 ──子供だからって、なめるなよ。大人。

 とてもカッコつけたことを後悔することになるなんて今の私には微塵も想像してませんでした。



 ==========



『今年も始まりましたクアドラードアドベンチャートーナメント! さてさて、長い御託は置いておき、初日は闘技場回しまくるからお前ら覚悟しろよーーー! 実況は皆の俺、人気者には一歩足りない実行部広報担当イージー! 解説は毎度おなじみ冒険者ギルドサブマスター、エティフォール!』
『解説のエティフォールです。ここで大会に関係ありませんが各地から集まった冒険者及び観光行商の方に忠告をさせていただきます。特に女性の方、当ギルドのギルドマスターには絶対関わらないようにしてください』
『はーい毎度おなじみギルマス喚起でしたー。俺からもまじで近付くなよとは。悲惨なことになるから』

 実況と解説に揃って注意されても被害者はいるんだろうな……(遠い目)

『では第1戦目の冒険者を紹介します、初っ端から変わり種! Fランクコンビ! ライアーとリィン!』

 名前を呼ばれたので闘技場に上がる。
 ザワザワと混乱したような声が観客席から聞こえた。

 観客席には一般客がぐるりと周囲に座っており、少し高く作られた一角に恐らく貴族と思わしき人達が座っていた。
 義務なのだろう。興味なさそうに座って──あれ? 目が合った?

「ッ!?」
「……! …!」
「??」

 貴族は私かライアーのどちらかを見て驚く顔をし、情報共有をする者。なんのことか分からずに首を傾げている者に別れた。首を傾げているのは比較的若めの人達。

 んー、私、貴族としては顔だししてないから……。多分ライアーかな。

 リーベさんとの出会いでトリアングロの兵を殺していた、と聞くくらいだし。もしかしたら貴族と繋がりがあるのかもしれない。特に王都に居たらしいし。

『続きまして! こちらはクランから参戦! クラン名ザ・ムーンのDランクチーム! オーウェン! オレゴ! ハッシュ! ヒラファ!』

 反対側から闘技場に現れた人物に、ライアーがまずぎょっとし、私もぎょっとした。

「はああああああ!? 月組ぃ!?」

 ライアーが叫ぶ。

『お、どうやら知り合いのようですね』
『解説のエティフォールです。ザ・ムーンはグリーン領のクランですから、そちらから来たコンビの知り合いの可能性が高いですね。いや、くじ運とはいえ初手で知り合い同士の対決ですか』
『いやー。今回の大会、波乱から始まりますね!』

 私は、私は。
 月組だということにも驚いたし、最近思い返した人物がいることにも驚いた。

 おま、お前月組だったんかい……?


 私は赤褐色の髪の優しそうに笑みを浮かべた中衛職の槍持ち男を指さした。

「お、お兄ちゃん!?」
「よ、リィン。元気そうだな」

 そこに居たのは、ファルシュ領の首都メーディオで平民のフリして遊んでいた時に出来た幼馴染だった。

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