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王都編上
第66話 闇ありて人生
しおりを挟むさて、冒険者大会──正式名称『クアドラードアドベンチャートーナメント』という『古から伝わりし伝説の伝統文化』って感じでめっちゃ伝えるやんと言いたいクソダサ……古めかしい名前の大会まで時間がある。
1ヶ月も無いが、要するにそれまで暇なのに変わりは無い。
ライアーとの契約で冒険者としてコンビ活動するのは週に2日か3日。
本日のライアー? あいつなら朝からグースカ寝てるよ。
正直な話をしよう。
王都、めっちゃオシャレ。
田舎とは違うね。お洋服欲しくなっちゃう。
貴族として生活してるとドレスとかそういう煌びやかで非活動的な衣服が多いから、反動で活発的な服を着たくなるんだよね。
盗賊退治に子爵からの依頼。まだ所持金が金貨10枚以上あるとは言え、旅路に向けて必需品を買えばそう楽観視出来るほどの金銭余裕では無い。あとアイテムボックス覚えてから所持品が一気に増えた。
品質のいい服は必然的に高くつくし……。
お金稼ぎかなぁ。
とはいえ。
ここ重要。
大人が居ないと街の外に出ることが出来ない……!
「はぁ……どうぞしよ……」
「どうしたんだ?」
人の多い街中なのに、私に声をかけてきた男の人が居た。
黒髪に髭を生やしたおじさん。……どっかで見たことあるような。ないような。
「あ、分からんか。アイテムボックス持ちの嬢ちゃんだよな? 検問の所で確認させてもらった……」
「あ、小隊長!」
そうだ、小隊長だ。
リーヴルさんに恋しちゃったんだ疑惑が私の中で根付いてる人!
「黄の騎士団の第一部隊隊長のモラールだ」
「…………No.3?」
「……! よく分かったな」
モラールさんが嬉しそうに騎士団の組織形態を教えてくれた。
「騎士は近衛の下に4つあり、4つの騎士団にはそれぞれ団長と副団長、その下に第一部隊から第五部隊まである」
「そのようにも数ぞあるですか」
「嬢ちゃんが興味あるなら騎士団入らねぇか? 女騎士はいつだって人手不足なんだよ。……ま! 18歳からなんだけどな」
モラールさんが私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
はははっ、すまんな。私は貴族当主と政略結婚して旦那を躾けて手駒にする夫人か、貴族として新しい家名を得て初代当主になるか、冒険者しつつ事業主して不労所得で庶民生活するっていう目標があるから無理だわ。
それに。
騎士団にはちょっと、会いたくない人達がいるし。
「ところで……」
キョロリと周辺を見回した後、モラールさんが私の耳に顔を近付けて内緒話をした。
「ペイン達とは別行動か……?」
……はっはーーーん?(とても可愛い笑顔)
「……な、なんだよ。嬢ちゃん。その見るからに『面白いもの見てますよ』って言いたげな笑顔は」
「リーヴルさんお髭ぞ似合う人好むと言うすてたですよ!」
「ばっ、」
顔を真っ赤に染めたモラールさんだったが、流石に私服とはいえど位は騎士。大声を上げることはしなかった。
「ばか……! リーヴルさんの好みは聞いてない……!」
あれ、てっきり近所の悪ガキペインの様子を聞くふりして意中の女性の様子を聞きたいんだとばかり。
「好きくない?」
「ちが、違わないけど違う」
「どっち」
「そもそもリーヴルさんの好みが誰だろうと俺には関係ないっての」
耳まで真っ赤にしちゃってさ。
あまりにも面白くてクスクス笑った。
「嬢ちゃんなんでそんな悪意のある笑い方出来るんだ?」
可愛い笑い方に決まってんだろ童貞。
「ちょうどいいや。今から屯所に行くんだけど、嬢ちゃんも来るか?」
「行くです!」
「お、おぉ、興味津々だな」
検問の騎士と仲良くしといて損はない……!
会いたくない人達も検問じゃなかったはずだから!
伝手! 大事!
「あ、でもモラールさん休暇中ですぞね?」
「別に騎士に休暇はあってないようなもんだよ。それよりお茶汲みの雑用とかやってくれないか? もちろん、報酬は出す」
……それ、チップとか貰っても、いい?
「はい喜んでー!」
「酒場かよ」
この後いっぱい媚び売った。
==========
すっかり暗くなった夜。
私たちが宿泊している宿『安眠民』に戻るとホールにペイン達パーティーが居た。
「やほ」
「よ!」
なんだか久しぶりに感じてテンションが上がった私はペインとハイタッチをする。
「仲ええなあんたら」
サーチさんがやや呆れ気味の顔で笑みをこぼした。
同世代に出会ったの初めてなんだもん。
深窓の令嬢舐めるなよ。
はい、深窓の令嬢ってフレーズとても気に入ってます。世間知らずって言えばなんでも許されるような気がするが気に入ってます。
「ライアー見てるです?」
「おっさんならフラフラ外行ったぜ?」
ブスッと顔を不機嫌に染めたペインが言った。
「『子供には内緒』だってよー。オレのこと馬鹿にしてるだろー」
猫かぶりした状態で拗ねる。
恐らくホールを通りかかった一般の宿泊客がいたからだろう。
「もう子供では無きですのに、ねー」
「なー!」
「……白々しいわね」
「白々しいな」
「白々しいで」
これから夜も深くなっていくというのに一体どこに行ったんだか。
純粋無垢なリィン、よくわかんない!
「話題急速転換、ペイン達王都出身ですぞね?」
「待って待って。被ってた猫が吹っ飛ぶからちょっと待って、お前今なんていった?」
「話題急速転換」
「わだいきゅうそくてんかん」
ペインは宇宙を背負った。
ごめん、『そういえば』って単語は言い難いんだ。時々成功するけど。
「そう、いう、え、ば! ペイン達王都出身ですぞね? ですぞね?」
「2回いってゴリ押そうとすんなよ。ま、俺ら全員そうだけど?」
ふと周りを見れば一般客が既に居なくなっていた。なんだ、通りかかっただけか。
「家に帰らぬです?」
ペイン達パーティーは口を噤んだ。
あっ、やっちまった。これ、地雷踏んだな。
「兄貴がいるからさ……。俺は家に帰りたくねぇよ。まぁ、家より宿の方が心地いいってのもあるけど」
「ウチも、あんなウジだらけの場所で休みとうないわ」
「……私は、亡き子供との思い出がありすぎるから」
「…………」
うっっっ、重い。空気が重い。グラビティかけてんのかなってくらい重い。
やっちゃった。
というかこのパーティーもライアーも闇を抱えてないと気がすまんのか。私はまっっったく闇が無いんだけど。
前世の業によって生まれる環境の善し悪しが決まる。ペロッこれは間違いなく私は天国出身……!
「リィンは?」
「へ?」
「リィンは実家に帰らねぇの? それとも、帰る場所がねぇの?」
帰れない。
この言語をどうにかするまでは。もしくは1年経つまで。
「あ、最初に言うしますが私異世界人じゃなきですよ」
「うっっそやん!?」
「嘘だろ!?」
活発組が激しく驚いた顔をした。
あ、やっぱりその疑惑だったか。
「下手なる魔法も打ち込めむすれば命中するとは言うですけど、やっぱり思うされてたですか」
「だってお前あまりにも常識知らずじゃん!? の割に変なところで知識かたよってるし!」
「それペイン盛大なブーメランやで」
ビシッと指さされたが私は何処吹く風。
異世界人では無いけど前世は異世界だったよね。
「私は父親に追い出すされたです、あの鬼畜ドS外道悪魔に」
「自己紹介か?」
「無一文で追い出すされたです。泣くかと」
「俺の声聞こえてる? サイレントでも使ってんのか?」
そうポンポン魔法は使わないです。
「はーー。この世界は残酷だな」
ペインがペショリと机に顔を伏せて呟いた。
今日1番可哀想だと思ったのはリーヴルさんという未亡人に恋しちゃったモラールさんだね。
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